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第五十九回 バナーメ(1)
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その日、僕が担当する怪人の依頼内容は「ゲームセンターでプリクラを撮ってみたい」というものだった。だから僕は、その怪人と直接約束しておいて、事務所へ行くことなく待ち合わせ場所の根源駅へと向かった。
人通りの少ない道を通過し、生き生きした高齢者たちが行き交う商店街を抜けると、あっという間に駅に着く。
待ち合わせの約束をしている場所は、赤い看板のファストフード店の前。
僕は、待ち合わせ場所に到着するなり、辺りを見回してみる。周囲にはそれなりに人がいるが、怪人らしき者の姿は見当たらなかった。
それからしばらく、僕はその場でじっとしていた。怪人が来てくれないことには始まらないからである。
——五分経過。
怪人らしき者はまだ来ない。だが、まだ約束の時間よりは早いから、文句は言えない。もうしばらく待つとしよう。
——九分経過。
まだ誰も来ない。
もうまもなく約束の時間になるから、そろそろ来そうなものなのだが。
——十四分経過。
約束の時間から四分が経過しているのに、怪人らしき者はいまだに見当たらない。もしかしたら見逃しているのかもしれない、と思って、少しばかり歩き回ってみる。けれど、やはり、それらしき者は見つからなかった。
——十八分経過。
既に、約束の時間から八分が過ぎている。なのに誰も来ない。暑さもあって、徐々に苛立ってきた。
——十九分経過。
まさか、約束したことを忘れているのだろうか?
そんなことが頭に浮かんでくる。
——二十二分経過。
遅い。遅過ぎる。
前もって決めていた約束の時間から、もう十二分。しかし、怪人は一向に来そうにない。
暑さもあって、早く帰りたくなってきた。
このような形にしたのが間違いだったのだろうか……。
——二十四分経過。
まだかなぁ。
——二十六分経過。
まだ来ない。
もう帰りたい。早く帰りたい。
——二十七分経過。
よし、もう帰ろう。
そう決意した瞬間、こちらに向かって走ってくる者の姿が見えた。
道行く人たちとは違い、派手な色合い。怪人の可能性が高い。ようやく来たのかもしれない、と、期待する。
「ごめーん! 遅れちゃったヨ!」
ファストフード店の前で、暑すぎて溶けかけていた僕に向かって、そんなことを叫んでくる。やはり、怪人で間違いなさそうだ。
こうして、ようやく合流することができた。
「いやァー、ごめんごめんー! 待たせちゃってごめーん!」
頭の天辺には、赤い梅の花が一つ。頭部は全体的に真っ白で、しかしその造りは人間の顔によく似ている。髪の毛らしきものはない。
「あ、いえ。そんなに待っていません」
「ホントー? なら良かったァ!」
体は着ぐるみを着た人間のような感じ。ふかふかしていそうな見た目だ。だが、柔らかそうな表面とは真逆で、色は派手な水色とピンク。その色遣いは、奇妙としか言い様がない。
「おらはバナーメ! 今日はよろしく頼むヨ!」
本来なら遅刻した理由を聞きたいところだが、相手はお客さんなので止めておいた。厳しいことを言って『悪の怪人お悩み相談室』の印象が悪くなったら困るからである。
人通りの少ない道を通過し、生き生きした高齢者たちが行き交う商店街を抜けると、あっという間に駅に着く。
待ち合わせの約束をしている場所は、赤い看板のファストフード店の前。
僕は、待ち合わせ場所に到着するなり、辺りを見回してみる。周囲にはそれなりに人がいるが、怪人らしき者の姿は見当たらなかった。
それからしばらく、僕はその場でじっとしていた。怪人が来てくれないことには始まらないからである。
——五分経過。
怪人らしき者はまだ来ない。だが、まだ約束の時間よりは早いから、文句は言えない。もうしばらく待つとしよう。
——九分経過。
まだ誰も来ない。
もうまもなく約束の時間になるから、そろそろ来そうなものなのだが。
——十四分経過。
約束の時間から四分が経過しているのに、怪人らしき者はいまだに見当たらない。もしかしたら見逃しているのかもしれない、と思って、少しばかり歩き回ってみる。けれど、やはり、それらしき者は見つからなかった。
——十八分経過。
既に、約束の時間から八分が過ぎている。なのに誰も来ない。暑さもあって、徐々に苛立ってきた。
——十九分経過。
まさか、約束したことを忘れているのだろうか?
そんなことが頭に浮かんでくる。
——二十二分経過。
遅い。遅過ぎる。
前もって決めていた約束の時間から、もう十二分。しかし、怪人は一向に来そうにない。
暑さもあって、早く帰りたくなってきた。
このような形にしたのが間違いだったのだろうか……。
——二十四分経過。
まだかなぁ。
——二十六分経過。
まだ来ない。
もう帰りたい。早く帰りたい。
——二十七分経過。
よし、もう帰ろう。
そう決意した瞬間、こちらに向かって走ってくる者の姿が見えた。
道行く人たちとは違い、派手な色合い。怪人の可能性が高い。ようやく来たのかもしれない、と、期待する。
「ごめーん! 遅れちゃったヨ!」
ファストフード店の前で、暑すぎて溶けかけていた僕に向かって、そんなことを叫んでくる。やはり、怪人で間違いなさそうだ。
こうして、ようやく合流することができた。
「いやァー、ごめんごめんー! 待たせちゃってごめーん!」
頭の天辺には、赤い梅の花が一つ。頭部は全体的に真っ白で、しかしその造りは人間の顔によく似ている。髪の毛らしきものはない。
「あ、いえ。そんなに待っていません」
「ホントー? なら良かったァ!」
体は着ぐるみを着た人間のような感じ。ふかふかしていそうな見た目だ。だが、柔らかそうな表面とは真逆で、色は派手な水色とピンク。その色遣いは、奇妙としか言い様がない。
「おらはバナーメ! 今日はよろしく頼むヨ!」
本来なら遅刻した理由を聞きたいところだが、相手はお客さんなので止めておいた。厳しいことを言って『悪の怪人お悩み相談室』の印象が悪くなったら困るからである。
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