悪の怪人☆お悩み相談室

四季

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第五十六回 デルフィー(1)

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 買ったアイスが十分も経たずに液体と化すほど暑い日。
 一人の怪人が相談にやって来た。

「失礼致しますぞよ!」

 そんな、珍妙な挨拶と共に。

「こんにちはー」
「おぉ! どうもどうも!」
「岩山手です。よろしくお願いします」
「わたくしはデルフィーと申すぞよ! こちらこそよろしく!」

 珍妙な口調の怪人デルフィー。彼のモチーフは、恐らく、イルカとトランプなのだろう。

「外は暑すぎぞよ。危うく溶けてしまうところだった! ここはクーラーが効いているからありがたいぞよ」

 イルカを縦向けたような頭部は淡い青。夏の暑さを吹き飛ばしてくれるような、爽やかな色。だが、それを見ることができるのは周囲であって、彼自身は見ることができない。それは実に残念なことである。

「少し、これを地面に置かせていただいてもいいかね?」

 言いながらデルフィーは、頭の上に乗っかっている王冠のようなものを、イルカのヒレのような両手で外す。

「こちらの棚の上へ置きましょうか?」

 全体的に金色が目立つ、立派な王冠だ。それに、色とりどりの宝石も取り付けられていて、いかにもお金がかかっていそうな見た目をしている。

 それだけに、床に置いてしまうのが勿体ないような気がしたのだ。

 しかし、デルフィーは「結構ぞよ」と言って、椅子の近くの床へ王冠を置いた。

「この椅子に座って良いのかね?」
「はい」
「ではでは、失礼するぞよ」

 デルフィーは椅子にすっと腰掛けた。

 手がヒレのようになっているから、足も同じくヒレ型なのかと思っていたのだが、座り方を見ている感じだとそうではなさそうだ。人魚のように足がヒレ型だったとしたら、そんなにすんなりと座ることはできないだろう。

 もっとも、丈の長いスカートのようなものを穿いているから、真相は不明だのだが。

「では、相談内容をお聞かせ下さい」
「おぉ! 話が早くて助かるぞよ! うちの組織には理解力のないやつらが多いからな、いつも困っておるのだ。……と、まぁ、それはさておき」

 さりげなく同僚の愚痴を言うスタイル。

「この暑ーい夏を乗り切るための良い方法! それを教えてもらいにやって来たぞよ!」

 そういうことなら、まずは服装を変えるべきではないだろうか。

 円盤のように大きく広がったひらひらの襟がついたブラウス。その上に、赤と黒のチェック柄の、意外と分厚そうな生地のベスト。さらにその上に、防寒には役立ちそうな立派なガウン。

 そんな服装で、暑くないわけがない。

「ではまず、服装を薄着にしてみるというのはどうでしょうか」
「なぬ? 薄着に?」
「はい。そうすれば、今よりかは涼しくなるかと」

 この真夏にガウンを着ている人なんて、見たことがない。

「いや、しかし、このファッションはわたくしのアイデンティティぞよ」
「そのトランプ風の柄にこだわりが?」
「そう! その通り! わたくしには、トランプ要素が欠かせないぞよ!」

 名前にトランプ要素はない。それゆえ、さほど重要ではないものかと思っていたが、彼にとっては重要な部分のようだ。となると、トランプ要素のない格好というわけにはいかないだろうか。

「では、トランプ要素は消えないデザインの薄着にしてみるというのはどうでしょうか」
「おぉ! ……だが、わたくしはこれ以外の服を持っていないぞよ」
「買えば良いのでは?」

 夏用のものにだって、赤と黒のチェック柄の服はあるはずだ。

 どうしても派手なデザインになってしまうから、数としては少ないかもしれないが、まったくないということはないはずである。

「ショッピングモールには行きづらいぞよ」
「なら、ネットショッピングなら問題ないのでは?」
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