悪の怪人☆お悩み相談室

四季

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第五十回 ガンセッキ(2)

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 数十秒ほどの沈黙の後、ガンセッキは口を開く。

「どうして怪人に頼むんだ? 怪人の役なら、人間がやればいいだろうに」
「それが、怪人の方に出演していただきたいみたいで」

 内心「確かに」と思った。
 人間が着ぐるみを着て怪人の役をする、ならば簡単なのに。

「俺らも暇じゃないんでな」

 ガンセッキはきっぱりと言い放つ。

 僕とて、彼らが忙しいことは分かっている。暇人だと思っているわけではない。
 けれどそう易々と引き下がるわけにはいかないのだ。

 話がまとまらなければまとまらないほど、僕は真夏の空の下を歩くことになる。長時間太陽光に晒されるなんて、苦痛でしかない。

 それを回避するためにも、一番最初であるここが大事なのだ。

「そ、それは、承知しております。ただ、できれば協力していただきたいのです。どなたでも構いませんので……」
「怪人なら他の組織にもいるだろ。他のところへ頼みに行くってのはどうなんだ」

 そりゃそうだ。怪人が勤めている組織なんて、星の数ほどある。
 僕の手元の資料に載っているものだけ数えても、恐らく数十はあることだろう。

 だから、ここにこだわることはない。

 そういう意味では、ガンセッキが言うことも間違いではないのだろう。

 しかし、僕は嫌だ。

 いきなり話も聞いてもらえず失敗なんて、絶対に嫌だ。

「少しお話を聞いていただけませんか」
「俺も次の仕事があるんでな。ヒーローショーなんかの話に付き合っている暇はないんだ」

 しっしっ、とでも言いたげに手をひらひらさせるガンセッキに向かって、僕は叫ぶ。

「ヒーローショーなんか、ではないです!」

 怪人に向かって鋭い叫びを放つなど、常識で考えればあり得ないことだ。刺激するような真似をするなんて、完全に馬鹿の行いである。

 ただ、ヒーローショーを馬鹿にされたことが悔しくて。
 それだけのことで、僕は叫んでしまったのだった。

「……んん?」
「なんか、なんて言わないで下さい!」
「いきなり何だ。岩山手さん」
「ヒーローショーは子どもの夢が詰まったイベントなんですよ! 馬鹿にしないで下さい!」

 小さい時でさえ行ったことのない僕が言えたことではないかもしれない。
 けれど、馬鹿にされると悔しかった。

「ほう。なかなか言うじゃないか」
「言います! 人間代表として!」

 今さら下がることなどできない。
 だから僕は、思いきって、はっきりと言ってやった。

 こんなに言ったら怒られるか——そう思っていたが、案外そんなことはなく。

「はっはっは、そうか。随分熱心だな」

 逆に、笑われてしまっていた。

「ま、そこまで言うなら、説明くらいは聞いてやってもいいが」
「本当ですか……!」

 少しかもしれないが、流れを変えられたようだ。

「あぁ。そこまで本気なのなら、聞くくらいはいいぞ」
「ありがとうございます!」
「本気の者には本気で接する。それが俺の主義だからな」

 そう言って、ガンセッキは視線を宙へ移す。

「……由紀さんのところの、だしな」

 ガンセッキは小さく呟く。独り言のように。
 その声は静かで、まるで、遠い過去に思いを馳せているかのようだった。

 そこに潜む意味なんて僕には分かりっこないけれど。

 ただ一つ分かったのは、ガンセッキは協力してくれそう、ということだ。
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