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第四十八話 お手伝いを頼まれて
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八月の頭を迎えた頃、事務所内で二人でいると、由紀が唐突に声をかけてきた。
「岩山手くん! ちょっといい?」
声をかけてきた彼女の胸元には、紙束が抱えられている。
A4サイズの紙だろうか。それが束になっていて、その厚みは、二センチほど。結構な枚数だということをすぐに察することができるくらいの分厚さである。
「はい。何でしょうか」
「実はね、ヒーローショーに出てくれる怪人を紹介してほしいっていう依頼が来たの。それで、岩山手くんにもちょっと手伝ってほしいんだ」
ヒーローショー、か。
そういえば、昔、友達が行ったと言っていたのを覚えている。
僕は、そもそもヒーローに興味がなく、人の多いところも苦手だったから、実際に行ってみたことはないけれど。
「交通費はちゃんと出すから! 日数も変わらないように調整するから!」
正直、面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。それに、この暑い夏に屋外を移動しなくてはならないなんてことになったら困るから、極力関わりたくない。
そんな風に思っていると、由紀は急に上目遣い。
「……駄目、かな?」
「いや、駄目じゃないです」
ついうっかり、そう答えてしまった。
だが、仕方がないだろう。
可愛らしく見つめられているというこの状況で、頼みを断るなんて、できるわけがないではないか。
不可能だ、そんなことは。
たとえ偉人が「不可能はない」と言ったとしても、それは当人だけのこと。僕にとっては「不可能はある」が真実だ。
「やった! じゃあ、頼ませてね!」
「はい」
若干上手くやられたような気もするが、まぁいいとしよう。
今さら断るなんてかっこ悪いことはできないのだから。
「それで、僕は何をすれば良いですか?」
そう問うと、由紀は胸元に抱えていた紙束を差し出してきた。
……嫌な予感。
「これね、今までのお客さんのリスト。ここに勤め先が書いてあるから、そこへ行って、ヒーローショーに参加してもらえないか聞いてきてほしいのよ」
やはり。
なかなか面倒臭そうな内容だ。
「え、こんなにですか……?」
「そうよ! これで半分だから!」
「えっ!!」
——これで半分?
いやいや、多すぎるだろう。
それに、そもそも、これだけの数の怪人を訪ねて回るなんて、僕にできるはずがない。
「え、さすがに多すぎませんか……」
「もちろん、あたしの方が多くなるようにしてるわ!」
「いや、けどこれ、結構な数ですよ……?」
「一日じゃなくて大丈夫だからっ」
由紀はさらりと言うが、これだけ回るとなるとかなり大変なはずだ。何日もかかってしまうことは間違いない。
「えっと、では、何日くらいで回れば……?」
「うーん……三日くらいかな!」
僕は絶句した。
「え、もしかして、岩山手くん驚いてる?」
由紀は戸惑ったような顔で僕を見てくる。
が、僕はすぐには返せない。
「無理ですよ! そんなの! 期間短すぎですよ!」
ようやくそう返せたのは、数分が経ってからだった。
「もちろん、連続三日働いてーなんて言わないわ。いつもみたいな週二日のペースのままでいいから」
「いやいや! そういう問題じゃないでしょ!」
僕が言い放つと、由紀は首を傾げる。
「えー、そうー?」
そして、少し空けて彼女は続ける。
「じゃあ、何日くらいかかる?」
「少なくとも五日か六日はかかります」
すると彼女は困ったような顔になる。
それを見て、僕は少し罪悪感を抱いたが、心の中で「もう流されないぞ!」と叫んだ。
「分かったよ。じゃあ、その半分! それなら平気?」
「はい。それなら三日で大丈夫だと思います」
無論、不安は消えないが。
「オッケー。じゃあ、半分ね」
こうして僕は、ヒーローショーに出演してくれる怪人を探すこととなった。
ちなみに、その後の由紀の話によれば、三人集まればそれでいいということだった。
そういうことなら、話は早い。とにかく最初の三人に出演してもらえれば、それ以上回らなくて良いということ。最初の三人に出演してもらえることになったなら、僕の役目はそこで終わりだ。
「岩山手くん! ちょっといい?」
声をかけてきた彼女の胸元には、紙束が抱えられている。
A4サイズの紙だろうか。それが束になっていて、その厚みは、二センチほど。結構な枚数だということをすぐに察することができるくらいの分厚さである。
「はい。何でしょうか」
「実はね、ヒーローショーに出てくれる怪人を紹介してほしいっていう依頼が来たの。それで、岩山手くんにもちょっと手伝ってほしいんだ」
ヒーローショー、か。
そういえば、昔、友達が行ったと言っていたのを覚えている。
僕は、そもそもヒーローに興味がなく、人の多いところも苦手だったから、実際に行ってみたことはないけれど。
「交通費はちゃんと出すから! 日数も変わらないように調整するから!」
正直、面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。それに、この暑い夏に屋外を移動しなくてはならないなんてことになったら困るから、極力関わりたくない。
そんな風に思っていると、由紀は急に上目遣い。
「……駄目、かな?」
「いや、駄目じゃないです」
ついうっかり、そう答えてしまった。
だが、仕方がないだろう。
可愛らしく見つめられているというこの状況で、頼みを断るなんて、できるわけがないではないか。
不可能だ、そんなことは。
たとえ偉人が「不可能はない」と言ったとしても、それは当人だけのこと。僕にとっては「不可能はある」が真実だ。
「やった! じゃあ、頼ませてね!」
「はい」
若干上手くやられたような気もするが、まぁいいとしよう。
今さら断るなんてかっこ悪いことはできないのだから。
「それで、僕は何をすれば良いですか?」
そう問うと、由紀は胸元に抱えていた紙束を差し出してきた。
……嫌な予感。
「これね、今までのお客さんのリスト。ここに勤め先が書いてあるから、そこへ行って、ヒーローショーに参加してもらえないか聞いてきてほしいのよ」
やはり。
なかなか面倒臭そうな内容だ。
「え、こんなにですか……?」
「そうよ! これで半分だから!」
「えっ!!」
——これで半分?
いやいや、多すぎるだろう。
それに、そもそも、これだけの数の怪人を訪ねて回るなんて、僕にできるはずがない。
「え、さすがに多すぎませんか……」
「もちろん、あたしの方が多くなるようにしてるわ!」
「いや、けどこれ、結構な数ですよ……?」
「一日じゃなくて大丈夫だからっ」
由紀はさらりと言うが、これだけ回るとなるとかなり大変なはずだ。何日もかかってしまうことは間違いない。
「えっと、では、何日くらいで回れば……?」
「うーん……三日くらいかな!」
僕は絶句した。
「え、もしかして、岩山手くん驚いてる?」
由紀は戸惑ったような顔で僕を見てくる。
が、僕はすぐには返せない。
「無理ですよ! そんなの! 期間短すぎですよ!」
ようやくそう返せたのは、数分が経ってからだった。
「もちろん、連続三日働いてーなんて言わないわ。いつもみたいな週二日のペースのままでいいから」
「いやいや! そういう問題じゃないでしょ!」
僕が言い放つと、由紀は首を傾げる。
「えー、そうー?」
そして、少し空けて彼女は続ける。
「じゃあ、何日くらいかかる?」
「少なくとも五日か六日はかかります」
すると彼女は困ったような顔になる。
それを見て、僕は少し罪悪感を抱いたが、心の中で「もう流されないぞ!」と叫んだ。
「分かったよ。じゃあ、その半分! それなら平気?」
「はい。それなら三日で大丈夫だと思います」
無論、不安は消えないが。
「オッケー。じゃあ、半分ね」
こうして僕は、ヒーローショーに出演してくれる怪人を探すこととなった。
ちなみに、その後の由紀の話によれば、三人集まればそれでいいということだった。
そういうことなら、話は早い。とにかく最初の三人に出演してもらえれば、それ以上回らなくて良いということ。最初の三人に出演してもらえることになったなら、僕の役目はそこで終わりだ。
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