悪の怪人☆お悩み相談室

四季

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第四十四回 休息(2)

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 由紀が淹れてくれるお茶は、今日も良い香りがする。

 ……いや、由紀が淹れてくれたものだからではないのだろうが。

 しかし、このふんわりとした魅惑的な芳香には、心を奪われずにはいられない。柔らかく、温かみのある香りが、堪らない。

「ありがとうございます」
「いえいえー」
「良い香りですね」

 すると、由紀はニコッと笑う。

「だよね! あたしもその香り好きなの。気に入ってもらえたなら嬉しいわ」

 こんな華やかな彼女と二人きりになるなんて、少し贅沢過ぎやしないだろうか……? などと考えつつも、僕は話を続ける。

「ところで。由紀さんって、幅広く色々こなされますよね」
「え?」
「仕事から、こういった細やかなところまで、一人でこなせるなんて凄いです」

 そう言うと、由紀は僕の肩にぽんと手を乗せてきた。

「何それー。もしかして、褒めてるつもり?」

 由紀は冗談混じりに発する。

「は、はい。褒めているつもりです」
「岩山手くんったら。べつに、あたしのことなんて褒めなくていいのにっ」

 僕としてはふざけて言ったつもりはなかったのだが、由紀には、僕の真剣さは伝わっていなかったのかもしれない。

「本心です」
「無理して褒めなくていいのよー」
「本心ですって!」

 真剣に返してもらえないことに少しばかり苛立ち、つい調子を強めてしまった。由紀はいきなりのことに驚いているようで、顔に戸惑いの色を滲ませている。それを見て、僕は内心、口調を強めてしまったことを後悔した。

「えっと……ごめん」

 由紀は面に戸惑いの色を浮かべたまま、小さく謝ってきた。
 罪のない彼女に謝らせてしまった——それがあまりに申し訳なくて、僕は椅子から立ち上がる。

「すみませんでした!」

 そして、由紀に向かって頭を下げる。

「え、ちょっと、何……?」
「いきなり大きな声を出してしまったりして、すみません!」

 ——暫し、沈黙。

 それからどのくらい時間が経っただろうか。よく分からないくらい経った頃、由紀が突然、ふふっと笑みをこぼした。

「やっぱり真面目だね、岩山手くん」

 今度はこちらが戸惑う方になってしまった。

「え……」
「けど、謝らなくていいよ」

 由紀はいつもと変わらない穏やかな表情で言う。

「岩山手くんは、ただ、あたしを褒めてくれただけだもの」

 そういえばそうだった、そんな話だったな——と、由紀に言われたことで思い出した。

「褒めてもらえたことは、嬉しいよ」
「それなら良かったです……」

 何となくまだ気まずくて、僕は明るく言葉を返すことはできなかった。

 ……取り敢えず言葉を返すことだけはできたけれど。

「でもあたし、多分、岩山手くんが思ってるみたいに優秀じゃないから」
「え。そうなんですか?」

 思わず首を傾げた。
 というのも、言い方が謙遜だとはとても思えないものだったのである。

「運動もあまり得意じゃないし! 仕事の能力だって人並み! だから、褒められるような人間じゃないの」

 由紀はそう言って苦笑する。
 だが、個人的には「その程度の欠点なら誰にでもある」と思ってしまう。

「そんなことを言ったら、僕はもっと駄目ですよ」
「え、本当に?」
「はい! 運動駄目、仕事駄目、コミュニケーション駄目の三拍子が、揃っていますから!」
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