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第三十八回 早めの出勤
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「さっきは大変でした……」
エルモソが帰っていった後、事務所内にて由紀と二人きりになったため、僕は苦労を打ち明けてみた。
「大変って?」
由紀は自分の机で作業をしながら尋ねてくる。
「最後抱き締められてしまって……」
すると、由紀は急に立ち上がった。
「え! そうなのっ!?」
由紀は目を大きく見開いていた。
彼女は、驚きを露わにしながら、僕を凝視している。
「は、はい」
「良かったね! ……って、あ、嫌だった? だったらごめん」
「い、いえ。嫌ということはなくて——ただ」
僕は勇気を出して口を開く。
「くちばしみたいなところが刺さって、痛かったです」
すると由紀は、きょとんとした顔をした。僕の口から出た言葉が、彼女にとっては意外なものだったのかもしれない。
「それは……大変だったね」
「はい。何と言うか、複雑な心境でした」
本当に、である。
そんな何とも言えない心境のまま、僕の一日は幕を下ろすのだった。
——そして翌日。
今日の予定は午前中だったため、珍しく朝に起きた。もちろん、朝と言っても、社会人や学生のような早い時間ではないが。それでも、僕にしては早い起床だった。
準備を済ませて事務所へ行くと、由紀がいつものように迎えてくれる。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
由紀は自分の机のところでアイスコーヒーを飲んでいた。
「確か、今日は午前中でしたよね」
「そうだけど、大丈夫そう?」
透明のガラス製のコップを傾けアイスコーヒーを飲む由紀は、どことなく色気がある。
「はい! 問題ないです!」
「なら良かったー」
言いながら、由紀は椅子から立ち上がる。
そして、紙を一枚手渡してきた。
「これ、今日のお客さんの情報ね」
「情報ですか……!」
「うん」
紙を受け取ると、由紀はにっこり笑う。
こんな近距離で太陽のように眩しい笑みを浮かべられると、平静を保っているのが難しくなってしまう。もっとも、女性慣れしていれば平気なのかもしれないが。
「目、通しておいてねー」
「はっ……はい!」
一枚だけだから、すぐに目を通せるだろう。そう思い、その場に立ったまま、先ほど由紀から受け取った紙を見る。
そして驚いた。
というのも、紙が一枚であることに間違いはないのだが、文字がびっしりなのである。
「……っ!」
名前の欄にはオーグイヤーという名前。性別は男性。出身の欄には、オーグィユァー星。
そこまではいい。
しかし、趣味の欄がとんでもないことになっていた。
水彩画、カラオケ、書道、将棋、ゴルフ、サックス、サッカー、チェス、映画鑑賞、結婚式場巡り、花見、カップケーキ作り、油絵、パステル画、社交ダンス、惑星内旅行、水墨画、タップダンス、ボーリング、ハーモニカ、ツーリングなど、とにかく色々書かれている。
今挙げた分だけでは、書かれているものの半分にも満たない。
取り敢えず多趣味であることだけは分かったが、正直、この紙だけだとあまり参考にはならなかった。
エルモソが帰っていった後、事務所内にて由紀と二人きりになったため、僕は苦労を打ち明けてみた。
「大変って?」
由紀は自分の机で作業をしながら尋ねてくる。
「最後抱き締められてしまって……」
すると、由紀は急に立ち上がった。
「え! そうなのっ!?」
由紀は目を大きく見開いていた。
彼女は、驚きを露わにしながら、僕を凝視している。
「は、はい」
「良かったね! ……って、あ、嫌だった? だったらごめん」
「い、いえ。嫌ということはなくて——ただ」
僕は勇気を出して口を開く。
「くちばしみたいなところが刺さって、痛かったです」
すると由紀は、きょとんとした顔をした。僕の口から出た言葉が、彼女にとっては意外なものだったのかもしれない。
「それは……大変だったね」
「はい。何と言うか、複雑な心境でした」
本当に、である。
そんな何とも言えない心境のまま、僕の一日は幕を下ろすのだった。
——そして翌日。
今日の予定は午前中だったため、珍しく朝に起きた。もちろん、朝と言っても、社会人や学生のような早い時間ではないが。それでも、僕にしては早い起床だった。
準備を済ませて事務所へ行くと、由紀がいつものように迎えてくれる。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
由紀は自分の机のところでアイスコーヒーを飲んでいた。
「確か、今日は午前中でしたよね」
「そうだけど、大丈夫そう?」
透明のガラス製のコップを傾けアイスコーヒーを飲む由紀は、どことなく色気がある。
「はい! 問題ないです!」
「なら良かったー」
言いながら、由紀は椅子から立ち上がる。
そして、紙を一枚手渡してきた。
「これ、今日のお客さんの情報ね」
「情報ですか……!」
「うん」
紙を受け取ると、由紀はにっこり笑う。
こんな近距離で太陽のように眩しい笑みを浮かべられると、平静を保っているのが難しくなってしまう。もっとも、女性慣れしていれば平気なのかもしれないが。
「目、通しておいてねー」
「はっ……はい!」
一枚だけだから、すぐに目を通せるだろう。そう思い、その場に立ったまま、先ほど由紀から受け取った紙を見る。
そして驚いた。
というのも、紙が一枚であることに間違いはないのだが、文字がびっしりなのである。
「……っ!」
名前の欄にはオーグイヤーという名前。性別は男性。出身の欄には、オーグィユァー星。
そこまではいい。
しかし、趣味の欄がとんでもないことになっていた。
水彩画、カラオケ、書道、将棋、ゴルフ、サックス、サッカー、チェス、映画鑑賞、結婚式場巡り、花見、カップケーキ作り、油絵、パステル画、社交ダンス、惑星内旅行、水墨画、タップダンス、ボーリング、ハーモニカ、ツーリングなど、とにかく色々書かれている。
今挙げた分だけでは、書かれているものの半分にも満たない。
取り敢えず多趣味であることだけは分かったが、正直、この紙だけだとあまり参考にはならなかった。
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