悪の怪人☆お悩み相談室

四季

文字の大きさ
上 下
37 / 116

第三十七回 エルモソ(3)

しおりを挟む
 エルモソは椅子を引き、ゆっくりと立ち上がった。

 太もものちょうど中央辺りまで伸びた黒いスカートがひらりと揺れる。その隙間からちらりと覗く脚は、黒いタイツを履いていたが、人間のそれとまったく変わらなかった。

「ありがとー。じゃあエルモソ、岩山手さんのアドバイス聞いて、ちょっと頑張ってみるっ」

 開いた片手を顔の前に出し、手のひらを僕の方へ向けつつ、明るい声で言うエルモソ。
 パンチのあるビジュアルが気にならない、可愛らしさだ。

「お力になれたなら良かったです……」

 僕はエルモソを直視できず。
 さりげなく、彼女から視線を逸らす。

 だが、すぐにバレてしまった。

「えー? 岩山手さん、どうしてエルモソから目を離しちゃうのー?」
「……えっ」
「もしかして、エルモソのこと嫌いっ? えーん。エルモソ、悲しいー」

 両手を目もとに当て、わざとらしく泣きそうなポーズをする。

「あっ、あ……あの、すみませんっ」

 僕は慌てて謝った。

 こんなことで慌てるなんて情けない。そう思われてしまうかもしれないが、僕は、経験の浅さゆえか慌てずにはいられなかったのである。

「岩山手さん酷ーい。エルモソ、泣いちゃいそーう」
「えっ!? あ、その、待って! 待って下さいっ!!」

 途端に、軽やかな声になるエルモソ。

「うっそだよー!」

 ……騙された。

「えぇっ……」
「もー、岩山手さんったら本気にしすぎー」

 エルモソはにこにこしている。
 彼女には、恐らく、罪悪感なんて欠片もないのだろう。

「冗談冗談だよっ」
「なら良かったです……」
「冗談を本気にするとか、岩山手さん可愛すぎー」

 今、正直、殴りかかりたい気分だ。

 だができない。

 怪人でも女性は女性。僕は男。男から女性に攻撃を仕掛けるなんて許されないことだから、実際に殴りかかりはしない。けれど、可能なら殴りかかりたいくらいの苛立ちだ。

 そんな風に少々苛立っていると、エルモソが急にこちらへ歩み寄ってきた。

 何だろう? と思っていると——抱き締められて。

「可愛いっ!」
「え、え、え……」

 僕は言葉を失う。

 何か返すべきなのだろうが、返す言葉が浮かばない。

「岩山手さん、今日は本当にありがとっ」
「え、あ……いえ」
「おかげで、エルモソ、何とか頑張れそうっ!」

 力になれたのなら、それはとても喜ばしいことだ。

 ただ、抱き締められるというのは複雑な心境である。

 今もさほど変わってはいないが、僕はずっとぱっとしなかった。二十数年、華のない人生で。女性に抱き締められるなんてこともなくて。

 だから、嬉しいはずなのだ。
 初めて女性の温もりを感じられたのだから。

  ……けれど、今はあまり嬉しくない。

 その理由は、彼女が怪人だからではない。
 彼女の顔の尖ったくちばし状の部分が、肩に若干突き刺さるからである。

 ということで。

 僕の初めての抱き締められは、ほろ苦い記憶となった。

 エルモソに悪気はないのだろうし、彼女の顔の構造上仕方のないことではあるのだが……少々残念だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

新日本警察エリミナーレ

四季
キャラ文芸
日本のようで日本でない世界・新日本。 そこには、裏社会の悪を裁く組織が存在したーーその名は『新日本警察エリミナーレ』。 ……とかっこよく言ってみるものの、案外のんびり活動している、そんな組織のお話です。 ※2017.10.25~2018.4.6 に書いたものです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...