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第三十五回 エルモソ(1)
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「こーんにーちはー。エルモソだよっ」
カスタードのように甘い声を発しながら現れた彼女——エルモソが、今日の僕が対応する怪人だ。
「お待ちしていました」
「えー待っててくれてたのー? エルモソ、嬉しいっ」
シイタケに似た形の頭部は、やや茶色がかった灰色とピンク。前方へ三十センチほど突き出した鋭いくちばしは、やや濃いめの黄色。目は、くちばしが生えているところの数センチほど上に小さなものが二つあり、赤い光を放っている。
「座っていーい?」
「はい」
「ありがとっ。嬉しいー」
エルモソは愛らしい声をしている。アニメに出てくる少女のような、聞き取りやすく可愛らしい声だ。
そして、服装も可愛らしさを前面に押し出したものである。
首には、ピンクの大きめリボンがついたレースのチョーカー。着ている白いブラウスは、胸元辺りにフリルがたっぷりで、結構なボリュームがある。また、コルセットとスカートが一体化しているものを着ているのだが、それは意外にも黒である。
「岩山手と申します」
「おおっ、岩山手さん! よろしくねー」
椅子に腰掛けているエルモソは、体だけみればまるで人間のよう。それも、上品なお嬢様といった雰囲気だ。
きちんと閉じた太もも。
足首までぴったりとくっついている脚。
座り方だけでも、育ちの良さを感じ取ることができる。
「こちらこそよろしくお願いします。では早速。エルモソさんのお悩みは、何でしょうか」
取り敢えず問う。
するとエルモソは、白いレースの手袋をつけた両手を、握りながら口の前へ持っていった。
「そう、実はねー……」
「はい」
「蜘蛛が怖いのっ」
これはある意味、女の子らしい悩みと言えるかもしれない。
「蜘蛛ですか?」
「基地に蜘蛛が出るのっ。そのせいで、仕事に支障が……エルモソ、すっごく困っちゃう!」
悪の組織の基地にも蜘蛛が出るのか。
正直、そこは意外だった。
庭のある一軒家、アパートやマンション。そういった、人々が暮らしている場所になら、蜘蛛が出るのも分かる。また、自然のある場所に出るというなら、それも分かる。
だが、悪の組織の基地となれば、そういったところではないだろう。普通の人間が使わないようなところを基地としているはずだ。
それだけに、「そんなところにまで!」といった気分である。
「小さい蜘蛛ですか?」
「そうなのー! 指先くらいの大きさの、くろーい蜘蛛なのっ」
ハエトリグモというやつだろうか。
「それなら、あまり気にしなくていいと思いますよ」
小さい蜘蛛など、どこにでもいる。
いちいち気にすることもないように思うのだが。
「嫌なの! 気になっちゃって、仕事に支障がでちゃうー!」
「お嫌いなのですね」
「嫌いっ。だってだって、何だか怖くなーい?」
小さな蜘蛛は家で何度か見かけたことがある。ただ、僕はあまり気にしたことはない。好きということはないが、特別苦手ということもなかったからだ。
だが、エルモソにとっては、蜘蛛は嫌なものなのだろう。
それは仕方ない——個人の感覚によるところが大きいから。
「害虫を食べてくれますよ」
「えー? でもでも、蜘蛛の方が嫌っ」
エルモソは可愛い声で言う。だが、その表情といったら、まったく可愛らしいものではない。そもそも、目と目の間には三本ほど横しわができている今の状態が、可愛い表情なわけがない。
カスタードのように甘い声を発しながら現れた彼女——エルモソが、今日の僕が対応する怪人だ。
「お待ちしていました」
「えー待っててくれてたのー? エルモソ、嬉しいっ」
シイタケに似た形の頭部は、やや茶色がかった灰色とピンク。前方へ三十センチほど突き出した鋭いくちばしは、やや濃いめの黄色。目は、くちばしが生えているところの数センチほど上に小さなものが二つあり、赤い光を放っている。
「座っていーい?」
「はい」
「ありがとっ。嬉しいー」
エルモソは愛らしい声をしている。アニメに出てくる少女のような、聞き取りやすく可愛らしい声だ。
そして、服装も可愛らしさを前面に押し出したものである。
首には、ピンクの大きめリボンがついたレースのチョーカー。着ている白いブラウスは、胸元辺りにフリルがたっぷりで、結構なボリュームがある。また、コルセットとスカートが一体化しているものを着ているのだが、それは意外にも黒である。
「岩山手と申します」
「おおっ、岩山手さん! よろしくねー」
椅子に腰掛けているエルモソは、体だけみればまるで人間のよう。それも、上品なお嬢様といった雰囲気だ。
きちんと閉じた太もも。
足首までぴったりとくっついている脚。
座り方だけでも、育ちの良さを感じ取ることができる。
「こちらこそよろしくお願いします。では早速。エルモソさんのお悩みは、何でしょうか」
取り敢えず問う。
するとエルモソは、白いレースの手袋をつけた両手を、握りながら口の前へ持っていった。
「そう、実はねー……」
「はい」
「蜘蛛が怖いのっ」
これはある意味、女の子らしい悩みと言えるかもしれない。
「蜘蛛ですか?」
「基地に蜘蛛が出るのっ。そのせいで、仕事に支障が……エルモソ、すっごく困っちゃう!」
悪の組織の基地にも蜘蛛が出るのか。
正直、そこは意外だった。
庭のある一軒家、アパートやマンション。そういった、人々が暮らしている場所になら、蜘蛛が出るのも分かる。また、自然のある場所に出るというなら、それも分かる。
だが、悪の組織の基地となれば、そういったところではないだろう。普通の人間が使わないようなところを基地としているはずだ。
それだけに、「そんなところにまで!」といった気分である。
「小さい蜘蛛ですか?」
「そうなのー! 指先くらいの大きさの、くろーい蜘蛛なのっ」
ハエトリグモというやつだろうか。
「それなら、あまり気にしなくていいと思いますよ」
小さい蜘蛛など、どこにでもいる。
いちいち気にすることもないように思うのだが。
「嫌なの! 気になっちゃって、仕事に支障がでちゃうー!」
「お嫌いなのですね」
「嫌いっ。だってだって、何だか怖くなーい?」
小さな蜘蛛は家で何度か見かけたことがある。ただ、僕はあまり気にしたことはない。好きということはないが、特別苦手ということもなかったからだ。
だが、エルモソにとっては、蜘蛛は嫌なものなのだろう。
それは仕方ない——個人の感覚によるところが大きいから。
「害虫を食べてくれますよ」
「えー? でもでも、蜘蛛の方が嫌っ」
エルモソは可愛い声で言う。だが、その表情といったら、まったく可愛らしいものではない。そもそも、目と目の間には三本ほど横しわができている今の状態が、可愛い表情なわけがない。
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