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第三十一回 食事(1)
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土曜日の夕暮れ時。僕は『悪の怪人お悩み相談室』の事務所へと向かった。今日は仕事の日ではないが、由紀と根源市市内の中華料理店へ行く約束をしているからである。
「来てもらっちゃってごめんねー」
「い、いえ!」
事務所へ着いた僕を迎えてくれた由紀は、なぜか、いつもより女性らしく見えた。
……単にそんな気がしただけかもしれないが。
桜色のブラウスを着ていて、その上に太ももまでの丈のカーディガンを羽織っている。穿いているのは、ジーンズ生地の長スボン。
特にこれといった特徴はない、シンプルな服装。
なのに特別感があるのは——不思議だ。
「じゃ、行こうか」
「もうですか?」
すると、由紀はニコッと笑う。
「そ! 早い方が良くない?」
「はい」
「あ。もしかして、遅い方が良い?」
「い、いえ!」
こうして、僕は事務所を出た。
事務所を出て、歩くこと数分。
「着いたよ」
「おぉ……!」
僕は平屋をイメージしていたのだが、意外にも、立派な二階建てだった。また、道に面している南側の面はすべてガラス張りで、外からでも店内がよく見える。昼間であれば、太陽の光が店内にしっかりと降り注ぎそうな感じだ。
「意外と立派ですね」
「えー、意外?」
「あ、いえ、変な意味では……」
深く考えず物を言ってしまったことを後悔していると、由紀はクスッと小さく笑った。
「いいよいいよ。さ、行こ」
由紀は歩き出す。
僕はそれに続いて歩く。
大きな瓶かめが並べられている間を通過し、入り口の自動ドアを通り抜け、店内に入る。
「いらっしゃいませ」
入ってすぐのところにレジが設置されていて、そこには、黒い服をきちんと着た背の高い男性が立っていた。
「六時に予約している安寧です」
「二名様ですね。それでは、お席までご案内します」
由紀のおかげで、すんなり案内してもらうことができた。
黒服の男性を先頭に、由紀、僕、と続く。二階へ続く階段を登ってゆくのである。
二階へ上がり、一番突き当たりまで歩いたところが、僕たちの席だった。
二人二人が向い合わせになっている四人席だが、そこを二人で使うことができる。広々とした空間を使わせてもらえるというのはありがたいことだと思った。
「岩山手くん、飲み物は?」
ドリンクメニューをこちらへ向けて置きつつ、由紀は尋ねてきた。
「ソフトドリンクもありますか?」
僕は尋ね返す。
すると、由紀はドリンクメニューの端を指差す。
「この辺じゃない?」
彼女が指差しているところには、確かに、ソフトドリンクの一覧があった。と言っても、種類はあまり多くなく。紅茶、コーヒー、ジュース数種類、烏龍茶くらいしか書かれていない。
「由紀さんは?」
「あたし? あたしはー……そうね……烏龍茶にしようかな!」
烏龍茶とは、これまたベタである。
だが、僕もアルコールは駄目だ。だから、このあまり多くないソフトドリンクの欄から選ばなくてはならない。
「岩山手くんは?」
「僕は……」
「烏龍茶にする?」
なぜ烏龍茶を推すのか。
「えぇと、では……紅茶で。アイスティーにします」
「アイスティー! おしゃれだね!」
「い、いえ。普通です」
「来てもらっちゃってごめんねー」
「い、いえ!」
事務所へ着いた僕を迎えてくれた由紀は、なぜか、いつもより女性らしく見えた。
……単にそんな気がしただけかもしれないが。
桜色のブラウスを着ていて、その上に太ももまでの丈のカーディガンを羽織っている。穿いているのは、ジーンズ生地の長スボン。
特にこれといった特徴はない、シンプルな服装。
なのに特別感があるのは——不思議だ。
「じゃ、行こうか」
「もうですか?」
すると、由紀はニコッと笑う。
「そ! 早い方が良くない?」
「はい」
「あ。もしかして、遅い方が良い?」
「い、いえ!」
こうして、僕は事務所を出た。
事務所を出て、歩くこと数分。
「着いたよ」
「おぉ……!」
僕は平屋をイメージしていたのだが、意外にも、立派な二階建てだった。また、道に面している南側の面はすべてガラス張りで、外からでも店内がよく見える。昼間であれば、太陽の光が店内にしっかりと降り注ぎそうな感じだ。
「意外と立派ですね」
「えー、意外?」
「あ、いえ、変な意味では……」
深く考えず物を言ってしまったことを後悔していると、由紀はクスッと小さく笑った。
「いいよいいよ。さ、行こ」
由紀は歩き出す。
僕はそれに続いて歩く。
大きな瓶かめが並べられている間を通過し、入り口の自動ドアを通り抜け、店内に入る。
「いらっしゃいませ」
入ってすぐのところにレジが設置されていて、そこには、黒い服をきちんと着た背の高い男性が立っていた。
「六時に予約している安寧です」
「二名様ですね。それでは、お席までご案内します」
由紀のおかげで、すんなり案内してもらうことができた。
黒服の男性を先頭に、由紀、僕、と続く。二階へ続く階段を登ってゆくのである。
二階へ上がり、一番突き当たりまで歩いたところが、僕たちの席だった。
二人二人が向い合わせになっている四人席だが、そこを二人で使うことができる。広々とした空間を使わせてもらえるというのはありがたいことだと思った。
「岩山手くん、飲み物は?」
ドリンクメニューをこちらへ向けて置きつつ、由紀は尋ねてきた。
「ソフトドリンクもありますか?」
僕は尋ね返す。
すると、由紀はドリンクメニューの端を指差す。
「この辺じゃない?」
彼女が指差しているところには、確かに、ソフトドリンクの一覧があった。と言っても、種類はあまり多くなく。紅茶、コーヒー、ジュース数種類、烏龍茶くらいしか書かれていない。
「由紀さんは?」
「あたし? あたしはー……そうね……烏龍茶にしようかな!」
烏龍茶とは、これまたベタである。
だが、僕もアルコールは駄目だ。だから、このあまり多くないソフトドリンクの欄から選ばなくてはならない。
「岩山手くんは?」
「僕は……」
「烏龍茶にする?」
なぜ烏龍茶を推すのか。
「えぇと、では……紅茶で。アイスティーにします」
「アイスティー! おしゃれだね!」
「い、いえ。普通です」
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