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第十九回 ネーオン(3)
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ネーオンは突如立ち上がった。
僕は「何だろう?」と思いつつ、椅子から立った彼女をじっと見つめる。
すらりと伸びた脚。それは、黒と銀色という無機質な色をしているにもかかわらず、何とも言えない魅力がある。肌色をしているわけでも、柔らかそうな質感なわけでもない。それなのに、妙に心が奪われて。一度見ると、目が離せなくなってしまう。
「もういいわ」
彼女の唇から放たれたのは、冷ややかな声だった。
「お兄さんまったく役に立たない感じだもの、帰らせていただくわ」
……もしかして、怒っている?
僕は何か、失礼なことをしてしまったのだろうか。断りなく脚を見つめたから、機嫌を損ねてしまったのだろうか。
「え、あの……相談は」
「ノー! もう結構よ」
「えっ。しかし、そんな!」
慌てて立ち上がり、彼女と扉の間に立つ。
「し、失礼なことをしてしまったなら謝ります。ですからどうか、怒らないで下さい」
「邪魔よ、退いて」
「な、なぜお帰りに!?」
するとネーオンは黙った。
それから数秒して、彼女は僕の肩をぐいと押しのける。
さすが悪の怪人。女性でも力がある。
「時間の無駄だと思ったから。それだけよ」
「ま、待って……」
このまま帰られてしまっては困る。そんなことになったら、僕は、由紀に怒られてしまうだろう。由紀はせっかく親しくなれそうな女性だ、こんなところで嫌われるわけにはいかない。彼女に幻滅されたりなんかしたら、僕はもう終わりだ。最悪、ここに来ることができなくなるかもしれない。
「待って下さい! あの、きちんとお話聞きますから!」
ネーオンを引き留めようと必死になる。
だが、彼女が一度動き出した足を止めることはなかった。
「ノー。もう結構だと言っているでしょう」
彼女の声は冷ややかで、胸に突き刺さる。
「心配せずとも、お金は払うわ。きちんとね」
ネーオンはさらりとそう述べて、そそくさと部屋から出ていった。
……なんてことだ。
ついにやらかしてしまった。
解決もせず、しかも時間内に帰らせてしまうなんて、大問題だ。
確かに僕はこれまでも、たいしたことはできていなかった。だが、それでも感謝されていた。できることをすれば、それだけで、皆温かくお礼を言ってくれた。
だが、それは偶々運が良かっただけなのだろう。
僕は幸運に甘えていた。
その甘えが今回のことで露呈してしまったということか。
悩み解決に至らないどころか、こんなことになってしまって。僕は由紀に、このことを、どんな顔をして報告すればいいのだろう。
悔しかった。とにかく、悔しくて仕方がなかった。
あの時こうしていれば。あそこでこうこう言っていれば。今さらそんなことを思いつくが、そこには何の意味もない。ネーオンはもう帰ってしまったのだから。
……あぁ。
なんてことだ。なぜこんなことになってしまったのだろう。
僕は椅子に座り込み、溜め息を漏らす。
もう誰もいなくなった、一人きりの部屋で。
僕は「何だろう?」と思いつつ、椅子から立った彼女をじっと見つめる。
すらりと伸びた脚。それは、黒と銀色という無機質な色をしているにもかかわらず、何とも言えない魅力がある。肌色をしているわけでも、柔らかそうな質感なわけでもない。それなのに、妙に心が奪われて。一度見ると、目が離せなくなってしまう。
「もういいわ」
彼女の唇から放たれたのは、冷ややかな声だった。
「お兄さんまったく役に立たない感じだもの、帰らせていただくわ」
……もしかして、怒っている?
僕は何か、失礼なことをしてしまったのだろうか。断りなく脚を見つめたから、機嫌を損ねてしまったのだろうか。
「え、あの……相談は」
「ノー! もう結構よ」
「えっ。しかし、そんな!」
慌てて立ち上がり、彼女と扉の間に立つ。
「し、失礼なことをしてしまったなら謝ります。ですからどうか、怒らないで下さい」
「邪魔よ、退いて」
「な、なぜお帰りに!?」
するとネーオンは黙った。
それから数秒して、彼女は僕の肩をぐいと押しのける。
さすが悪の怪人。女性でも力がある。
「時間の無駄だと思ったから。それだけよ」
「ま、待って……」
このまま帰られてしまっては困る。そんなことになったら、僕は、由紀に怒られてしまうだろう。由紀はせっかく親しくなれそうな女性だ、こんなところで嫌われるわけにはいかない。彼女に幻滅されたりなんかしたら、僕はもう終わりだ。最悪、ここに来ることができなくなるかもしれない。
「待って下さい! あの、きちんとお話聞きますから!」
ネーオンを引き留めようと必死になる。
だが、彼女が一度動き出した足を止めることはなかった。
「ノー。もう結構だと言っているでしょう」
彼女の声は冷ややかで、胸に突き刺さる。
「心配せずとも、お金は払うわ。きちんとね」
ネーオンはさらりとそう述べて、そそくさと部屋から出ていった。
……なんてことだ。
ついにやらかしてしまった。
解決もせず、しかも時間内に帰らせてしまうなんて、大問題だ。
確かに僕はこれまでも、たいしたことはできていなかった。だが、それでも感謝されていた。できることをすれば、それだけで、皆温かくお礼を言ってくれた。
だが、それは偶々運が良かっただけなのだろう。
僕は幸運に甘えていた。
その甘えが今回のことで露呈してしまったということか。
悩み解決に至らないどころか、こんなことになってしまって。僕は由紀に、このことを、どんな顔をして報告すればいいのだろう。
悔しかった。とにかく、悔しくて仕方がなかった。
あの時こうしていれば。あそこでこうこう言っていれば。今さらそんなことを思いつくが、そこには何の意味もない。ネーオンはもう帰ってしまったのだから。
……あぁ。
なんてことだ。なぜこんなことになってしまったのだろう。
僕は椅子に座り込み、溜め息を漏らす。
もう誰もいなくなった、一人きりの部屋で。
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