11 / 116
第十一回 モチルン(2)
しおりを挟む
正月に飾る鏡餅。その下に二本の人間のような足が生えている、モチルン。今日は彼とスーパーへ買い物に行ったが、「人が怪人をどのような目で見るのか」ということが非常によく分かった。
モチルンはいかにも悪そうではない。
それに、極めて恐ろしい姿をしているわけでもない。
だがそれでも、人間とは違うというだけのことで、驚かれたり恐れられたりしてしまう。
僕にとっては、そのこと自体の方が怖いことだ。
だってそれは、もし普通の人間の姿でなくなってしまったら、僕だってあんな目で見られるかもしれないということだから。
「今日は助かりましたぁー」
帰り道、モチルンはそんな風にお礼を言ってきた。
とても穏やかな顔で。
「あ、いえ」
「一緒にいてもらえたので、心強かったですぅー」
僕はほとんど何もしていない。ただ、少し心を痛めただけで。
だが、モチルンは僕に心から感謝してくれているようだった。きっと、純粋な心の持ち主なのだろう。
「いえ、僕は何も……」
「一緒にいてもらえるだけで嬉しかったですぅー。それに、今日はちゃんと買い物できましたぁー」
「……え?」
今日は。
その言葉が妙に引っかかって。
「前にコンビニに行った時、追い出されてしまってぇー。まともに買い物もできず、困ってしまったんですぅー」
モチルンは買い物袋を頭の上に乗せている。
買い物袋が、まるで、鏡餅に乗っているミカンのよう。
「そんなことが……」
「けど、今日は売ってもらえましたぁー。本当に助かりましたぁー」
買い物をする、商品を売ってもらう。そんな何でもないことさえ、一人でいたらさせてもらえないというのか。
大きな衝撃だった。
そんなこと、欠片も想像していなかったから。
「……それは少し、辛いことですね」
僕は思わず漏らす。
しかし、モチルンは頷かなかった。
「辛くはないですよぅー」
「え?」
「買い物ができれば、それで十分ですぅー」
彼は多くを望んではいなかった。買い物ができる、それだけで満足していたのだ。
なんて慎ましいのだろう。
「またいつか、同行を頼むかもしれませんけどぉー、その時はよろしくお願いしますぅー」
「は、はい! もちろんです!」
当然だ。断る理由なんて、どこにもない。
一緒に買い物へ行く。ただそれだけのことで他人の役に立てるなら、そんな良いことはない。僕でも、他人のためになることをできるのだから。
「あ、そうでしたぁー」
「何ですか?」
「今度、お餅をプレゼントしますねぇー」
鏡餅そっくりのモチルンから、餅を貰う。
何とも言えない心境である。
だが、せっかく言ってくれているのだ。断るわけにはいかないだろう。彼の善意を踏みにじるようなことは、僕にはできない。
「いいですよ、そんなのは」
「今日のお礼ですぅー!」
「え、でも、お金払っていただいていますよね……?」
僕の勤めている『悪の怪人お悩み相談室』では、相談に乗る対価として、少々のお金を受け取っている。
「払いましたよぅー。けど、あんなちょっとのお金だけではぁー、十分なお礼にはなりませんー」
だから、それ以上のお礼など要らないはずで。
しかし、モチルンはどうしても、僕たちに餅を贈りたいようだ。
「そう言っていただけるのでしたら……受け取らせていただきます」
「良かったですぅー」
モチルンはいかにも悪そうではない。
それに、極めて恐ろしい姿をしているわけでもない。
だがそれでも、人間とは違うというだけのことで、驚かれたり恐れられたりしてしまう。
僕にとっては、そのこと自体の方が怖いことだ。
だってそれは、もし普通の人間の姿でなくなってしまったら、僕だってあんな目で見られるかもしれないということだから。
「今日は助かりましたぁー」
帰り道、モチルンはそんな風にお礼を言ってきた。
とても穏やかな顔で。
「あ、いえ」
「一緒にいてもらえたので、心強かったですぅー」
僕はほとんど何もしていない。ただ、少し心を痛めただけで。
だが、モチルンは僕に心から感謝してくれているようだった。きっと、純粋な心の持ち主なのだろう。
「いえ、僕は何も……」
「一緒にいてもらえるだけで嬉しかったですぅー。それに、今日はちゃんと買い物できましたぁー」
「……え?」
今日は。
その言葉が妙に引っかかって。
「前にコンビニに行った時、追い出されてしまってぇー。まともに買い物もできず、困ってしまったんですぅー」
モチルンは買い物袋を頭の上に乗せている。
買い物袋が、まるで、鏡餅に乗っているミカンのよう。
「そんなことが……」
「けど、今日は売ってもらえましたぁー。本当に助かりましたぁー」
買い物をする、商品を売ってもらう。そんな何でもないことさえ、一人でいたらさせてもらえないというのか。
大きな衝撃だった。
そんなこと、欠片も想像していなかったから。
「……それは少し、辛いことですね」
僕は思わず漏らす。
しかし、モチルンは頷かなかった。
「辛くはないですよぅー」
「え?」
「買い物ができれば、それで十分ですぅー」
彼は多くを望んではいなかった。買い物ができる、それだけで満足していたのだ。
なんて慎ましいのだろう。
「またいつか、同行を頼むかもしれませんけどぉー、その時はよろしくお願いしますぅー」
「は、はい! もちろんです!」
当然だ。断る理由なんて、どこにもない。
一緒に買い物へ行く。ただそれだけのことで他人の役に立てるなら、そんな良いことはない。僕でも、他人のためになることをできるのだから。
「あ、そうでしたぁー」
「何ですか?」
「今度、お餅をプレゼントしますねぇー」
鏡餅そっくりのモチルンから、餅を貰う。
何とも言えない心境である。
だが、せっかく言ってくれているのだ。断るわけにはいかないだろう。彼の善意を踏みにじるようなことは、僕にはできない。
「いいですよ、そんなのは」
「今日のお礼ですぅー!」
「え、でも、お金払っていただいていますよね……?」
僕の勤めている『悪の怪人お悩み相談室』では、相談に乗る対価として、少々のお金を受け取っている。
「払いましたよぅー。けど、あんなちょっとのお金だけではぁー、十分なお礼にはなりませんー」
だから、それ以上のお礼など要らないはずで。
しかし、モチルンはどうしても、僕たちに餅を贈りたいようだ。
「そう言っていただけるのでしたら……受け取らせていただきます」
「良かったですぅー」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
新日本警察エリミナーレ
四季
キャラ文芸
日本のようで日本でない世界・新日本。
そこには、裏社会の悪を裁く組織が存在したーーその名は『新日本警察エリミナーレ』。
……とかっこよく言ってみるものの、案外のんびり活動している、そんな組織のお話です。
※2017.10.25~2018.4.6 に書いたものです。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
ハレマ・ハレオは、ハーレまない!~億り人になった俺に美少女達が寄ってくる?だが俺は絶対にハーレムなんて作らない~
長月 鳥
キャラ文芸
W高校1年生の晴間晴雄(ハレマハレオ)は、宝くじの当選で億り人となった。
だが、彼は喜ばない。
それは「日本にも一夫多妻制があればいいのになぁ」が口癖だった父親の存在が起因する。
株で儲け、一代で財を成した父親の晴間舘雄(ハレマダテオ)は、金と女に溺れた。特に女性関係は酷く、あらゆる国と地域に100名以上の愛人が居たと見られる。
以前は、ごく平凡で慎ましく幸せな3人家族だった……だが、大金を手にした父親は、都心に豪邸を構えると、金遣いが荒くなり態度も大きく変わり、妻のカエデに手を上げるようになった。いつしか住み家は、人目も憚らず愛人を何人も連れ込むハーレムと化し酒池肉林が繰り返された。やがて妻を追い出し、親権を手にしておきながら、一人息子のハレオまでも安アパートへと追いやった。
ハレオは、憎しみを抱きつつも父親からの家賃や生活面での援助を受け続けた。義務教育が終わるその日まで。
そして、高校入学のその日、父親は他界した。
死因は【腹上死】。
死因だけでも親族を騒然とさせたが、それだけでは無かった。
借金こそ無かったものの、父親ダテオの資産は0、一文無し。
愛人達に、その全てを注ぎ込み、果てたのだ。
それを聞いたハレオは誓う。
「金は人をダメにする、女は男をダメにする」
「金も女も信用しない、父親みたいになってたまるか」
「俺は絶対にハーレムなんて作らない、俺は絶対ハーレまない!!」
最後の誓いの意味は分からないが……。
この日より、ハレオと金、そして女達との戦いが始まった。
そんな思いとは裏腹に、ハレオの周りには、幼馴染やクラスの人気者、アイドルや複数の妹達が現れる。
果たして彼女たちの目的は、ハレオの当選金か、はたまた真実の愛か。
お金と女、数多の煩悩に翻弄されるハレマハレオの高校生活が、今、始まる。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる