悪の怪人☆お悩み相談室

四季

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第九回 一枚の写真

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 僕の暮らす根源市は、朝から活気に満ちている。

 例えば、近所の商店街。
 シャッターばかりの商店街が増えているとも言われるこの時代でも、活発な経済活動が行われている。

 魚屋、八百屋、肉屋などの新鮮な食品を売る店。文房具屋や古本屋といった、昔ながらの雰囲気を味わうことのできる店。また、手芸の道具を売っている店や刃物を販売している店などもある。

 商店街へ行くと、近くに住む高齢者たちをよく見かける。
 その誰もが生き生きしていて、少なくとも僕よりかは元気そうだ。

 そんな商店街を通り抜け、僕は『悪の怪人お悩み相談室』の事務所へと向かう。週二回の仕事のために。


 事務所へ着く。
 入り口の鍵は開いていた。

「こんにちは!」

 意識して元気な声を作り、挨拶しながら中へ足を進める。

 その途中、ふと、異変に気がついた。
 返事がないのである。

 いつもなら由紀から明るい挨拶が返ってくるのだが、今日はそれがない。

 ただ、まだ来ていないということはないはずだ。入り口の鍵は開いていたのだから。外出中ということも考えられないことはないが、入り口に鍵もかけずに出ていくことはないだろうし。

「由紀さん?」

 彼女がいつも仕事をしている机の方へ歩み寄ってみる。

「いない……」

 仕事机の上には、書類らしき紙とファイルが置かれていた。つい先ほどまで用事をしていた、というような状態だ。

 一応机の下も確認してみる。
 が、そこにも彼女の姿はなかった。

 そんな時だ。

 ふと、机の端に飾られた写真に目がいった。

「……写真?」

 シンプルなデザインの木製の写真立て。その中に入っている一枚の写真に、僕は視線を奪われた。

 由紀と、怪人だと思われる人物の、ツーショット。

 最初は、客の怪人と撮った写真だろうと思った。だが、段々そうではないような気がしてくる。数多の客の中で彼との写真だけを飾るとは、とても思えないからだ。

 いくつか飾ってあるのなら、思い出としてという可能性もあるだろう。だが、一枚だけ。ということは恐らく、大切な一枚なのだろう。

 ——その時。

「岩山手くん?」

 背後から声。僕は咄嗟に振り返る。

 そこには、由紀の姿があった。

 茶色がかったショートヘアは今日もさらさら。爽やかな顔立ちとあいまって、凄まじい清潔感を周囲に振り撒いている。

「あ、その、これはっ……」

 突然の展開に対応しきれずあたふたしてしまう僕に、由紀は笑顔で述べる。

「いいよ、慌てなくて。あたしを探してくれてたんだよね?」
「は、はいっ……」
「探させてごめん。ちょっと、隣の相談室に行ってたんだ」

 良かった。怒られそうにはない。

「相談室に? どうしてですか?」
「掃除と花を生けるためだよ」
「お、お花?」
「そうそう。たまには、と思ってね」

 僕は男だが、それでも花は嫌いでない。
 色鮮やかな花は、心を晴れやかにしてくれるからだ。

 もしかしたら……女々しい、と言われてしまうかもしれないが。

「今日もよろしくね!」
「は、はいっ!」

 こうしてまた、新しい一日が始まる。
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