悪の怪人☆お悩み相談室

四季

文字の大きさ
上 下
7 / 116

第七回 A115(2)

しおりを挟む
 頼まれてしまうと、どうしても断れない。

 A115の言葉から、僕は、彼が善良な人間——いや、怪人であることを理解した。

 人間の社会にも親切ゆえに苦労する者がいる。が、それは何も、人間の社会においてだけではなくて。どんな世界にも、優しさゆえに苦労している者はいるのだろう。

「無理だと思う時には、勇気を持って断りましょう!」

 僕はそう提案した。しかし彼は頷かなかった。

 ……いや、頷かなかったのではなく、頷けなかったのであろう。

「デ、デキマセン。イマサラコトワルナンテ、フカノウデス」
「けど、任されるのが嫌なんですよね?」

 そう問うと、彼はこくりと頷いて、小さく「ハイ」と発した。
 自分の考えに自信がないのか、弱々しい声だ。

「ジブンガツメタイカイジンダトイウコトハ、ショウチシテイマス。タダ、カテイデスゴスジカンサエナイヨウナマイニチハ、モウイヤデス」

 家庭もあるなら、なおさらだ。

 他者のためになることをする、というのは悪いことではないだろう。しかし、ただ周囲から利用されるだけの存在になってしまうというのは、可哀想だと思ってしまう。

「勇気を出して、言ってみたらどうですか? もう手伝いません、って」

 僕の発言に、俯くA115。

「ハイ……シカシ、ドノヨウニイエバイイモノカ……」

 彼はこれまで、よほどすべてを受け入れてきたのだろう。
 ただ断るだけのことをこんなに難しそうにしている者を見るのは、初めてかもしれない。

「ええと、例えば……『これからは自分でやって下さい』と言うのはどうですか?」

 僕は一体何の話をしているのだろう。
 少し、そんな風に思ってきてしまった。

 こんなことに人生を使うなんて、勿体ないことをしているのではないだろうか。そんな考えが脳内をよぎる。しかし僕は、心の中で、首を強く左右に振った。少しでも働くと決意したのだから、と。

「コレカラハジブンデヤッテクダサイ、デスカ?」
「それならシンプルで分かりやすいと思いますよ」
「シカシ……ソンナストレートニイッテシマッテ、ヨイノデショウカ?」

 A115は、納得しきれていないような調子で言った。

 様子から察するに、今の彼は「これからは自分でやって下さい」なんて言えそうにない。もし仮に勇気を出して言おうとしても、途中で詰まってしまうものと思われる。

「あ、いきなり直接的な言い方は難しいですよね」
「ユウキガ、タリマセン……。テイアンシテクダサッタノニ、モウシワケナイデス……」

 彼は僕にまで気を遣っているようだ。

 べつに、仕事でやっている僕なんかに気を遣うことはないのに。

「いやいや! 気にしないで下さい! 他を考えましょう!」
「アリガトウゴザイマス……」

 僕はひたすら思考を巡らせる。
 何か良いアイデアはないだろうか、と。

「では、『今度からは自分でやって下さい』と遠回しに言っておくとかはどうですか?」
「イヤミミタイナコトハ、イエマセン……」
「なら、『今は自分の仕事で手がいっぱいなので』はどうでしょう」
「ソレハムリデス……。アトデイイカラトイワレテ、ケッカハオナジコトデス……」

 幾つか提案してみたものの、すべて却下されてしまった。

 原因は僕のアイデアが悪かったことなのだろうが、それでも、何度も却下されるというのは精神的にダメージを受けるものだ。

 だが、A115とて、悪気があって却下し続けているわけではない。なので、彼を恨むというのも、おかしな話である。彼はただ善良なだけであって、別段罪はないのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

千紫万紅の街

海月
キャラ文芸
―「此処に産まれなければって幾度も思った。でも、屹度、此処に居ないと貴女とは出逢えなかったんだね。」 外の世界を知らずに育った、悪魔の子と呼ばれた、大切なものを奪われた。 今も多様な事情を担う少女達が、枯れそうな花々に水を与え続けている。 “普通のハズレ側”に居る少女達が、普通や幸せを取り繕う物語。決して甘くない彼女達の過去も。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

新日本警察エリミナーレ

四季
キャラ文芸
日本のようで日本でない世界・新日本。 そこには、裏社会の悪を裁く組織が存在したーーその名は『新日本警察エリミナーレ』。 ……とかっこよく言ってみるものの、案外のんびり活動している、そんな組織のお話です。 ※2017.10.25~2018.4.6 に書いたものです。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

八卦は未来を占う

ヒタク
キャラ文芸
「あなたには死が見える」  初めて出会った少女から告げられた言葉はあまりに強烈だった。  最初こそ信じられなかった主人公だが、不思議なことが起きてしまい、少しずつ少女の言葉が信憑性を帯びていく。主人公は死の運命から逃れることが出来るのだろうか。  ※シリアスっぽい感じですが、私が書く関係上シリアスになり切れません(え   そのあたりご了承くださいませ。

処理中です...