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第三回 イカルド・セーラー(2)
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「飲み会の愚痴! よくあるやつね」
「そうっす! だるいやつっす!」
由紀は何事もなかったかのようにイカルドと話している。
人間とはまったく違う容姿のイカルドが、何故飲み会などという人間的なイベントに参加できるのか。そこに突っ込みを入れることはしない。恐らく、イカルドと前から知り合いである由紀は、詳しいことを知っているのだろう。
一人疑問を抱え悶々としていると、隣の席の由紀が声をかけてきた。
「岩山手くん、大丈夫?」
わりと好みの爽やか系女性から心配されている。
僕にそんな日が来るとは思わなかった。いまだに、これが現実であると、僕は信じられない。
「あ、すみません。ぼんやりしてしまって」
「何か気になることでもあるの?」
気にかけてもらえることは嬉しい。
だが、今はそれを喜んでいるほどの精神的な余裕はない。
先ほどから驚くべきことが起こりすぎていて、状況に頭が全然ついていかない。
「由紀ちゃん。もしかしたら、この状況に戸惑ってるのかもっすよ?」
イカルドは、見事に正解を言い当てていた。
まるで僕の心が見えているかのようだ。
「あー。なるほどね」
「紹介した方がいいかもっす!」
「そうね」
由紀は改めて、僕へ視線を向けてくる。
「岩山手くん、イカルドのこと少し説明しようか?」
「あ、はぁ……」
「はっきり答えて。説明が要るか要らないか、どっち?」
「お、お願いします……」
謎が多すぎて、このままでは脳がパンクしてしまいそう。だから僕は、説明を受けることにした。その方が話が早いだろうと、そう思ったからだ。
「イカルドは、地球乗っ取りを目指して日々植樹を続けている悪の組織で働いていてね。この街へ来てからは、大体二年くらいになるのかな」
説明を受けたことで、余計に疑問が増えてしまったような気がする。
「彼がうちに初めて来たのは、一年二か月と二十五日前」
「こっちへ赴任してきたものの、恥ずかしながらホームシックになってしまったんっす! そんな時、この『悪の怪人お悩み相談室』のことを知って、相談に来たのが最初っす!」
悪の怪人、というのは、そのままの意味だったのか。今になってそれに気づいてしまった。僕は知名度を上げるための個性派ネーミングなのだと思っていたが、真実はそうではなかったようだ。
「あの時は由紀ちゃんに相談に乗ってもらえて、おかげ立ち直れて、以降バリバリ働けるようになったっす!」
嬉しそうに語るイカルドを見ていると、「案外悪い仕事ではないのかもしれないな」と思えた。
相談に乗ることで、誰かが元気になる。笑顔になる。
それは多分、悪いことではない。
「いい仕事なんですね、これ」
僕は半ば無意識のうちに言っていた。
「そうっす! 困った時に相談する場所のない俺らのような存在にとっては、凄く助かる場所なんっす!」
紫色や黄土色をした擬人化イカと、まともに会話している。その状況には、いまだに動揺を隠せない。
ただ、僕の心は少しずつ変わり始めている。
そう感じた。
「そうっす! だるいやつっす!」
由紀は何事もなかったかのようにイカルドと話している。
人間とはまったく違う容姿のイカルドが、何故飲み会などという人間的なイベントに参加できるのか。そこに突っ込みを入れることはしない。恐らく、イカルドと前から知り合いである由紀は、詳しいことを知っているのだろう。
一人疑問を抱え悶々としていると、隣の席の由紀が声をかけてきた。
「岩山手くん、大丈夫?」
わりと好みの爽やか系女性から心配されている。
僕にそんな日が来るとは思わなかった。いまだに、これが現実であると、僕は信じられない。
「あ、すみません。ぼんやりしてしまって」
「何か気になることでもあるの?」
気にかけてもらえることは嬉しい。
だが、今はそれを喜んでいるほどの精神的な余裕はない。
先ほどから驚くべきことが起こりすぎていて、状況に頭が全然ついていかない。
「由紀ちゃん。もしかしたら、この状況に戸惑ってるのかもっすよ?」
イカルドは、見事に正解を言い当てていた。
まるで僕の心が見えているかのようだ。
「あー。なるほどね」
「紹介した方がいいかもっす!」
「そうね」
由紀は改めて、僕へ視線を向けてくる。
「岩山手くん、イカルドのこと少し説明しようか?」
「あ、はぁ……」
「はっきり答えて。説明が要るか要らないか、どっち?」
「お、お願いします……」
謎が多すぎて、このままでは脳がパンクしてしまいそう。だから僕は、説明を受けることにした。その方が話が早いだろうと、そう思ったからだ。
「イカルドは、地球乗っ取りを目指して日々植樹を続けている悪の組織で働いていてね。この街へ来てからは、大体二年くらいになるのかな」
説明を受けたことで、余計に疑問が増えてしまったような気がする。
「彼がうちに初めて来たのは、一年二か月と二十五日前」
「こっちへ赴任してきたものの、恥ずかしながらホームシックになってしまったんっす! そんな時、この『悪の怪人お悩み相談室』のことを知って、相談に来たのが最初っす!」
悪の怪人、というのは、そのままの意味だったのか。今になってそれに気づいてしまった。僕は知名度を上げるための個性派ネーミングなのだと思っていたが、真実はそうではなかったようだ。
「あの時は由紀ちゃんに相談に乗ってもらえて、おかげ立ち直れて、以降バリバリ働けるようになったっす!」
嬉しそうに語るイカルドを見ていると、「案外悪い仕事ではないのかもしれないな」と思えた。
相談に乗ることで、誰かが元気になる。笑顔になる。
それは多分、悪いことではない。
「いい仕事なんですね、これ」
僕は半ば無意識のうちに言っていた。
「そうっす! 困った時に相談する場所のない俺らのような存在にとっては、凄く助かる場所なんっす!」
紫色や黄土色をした擬人化イカと、まともに会話している。その状況には、いまだに動揺を隠せない。
ただ、僕の心は少しずつ変わり始めている。
そう感じた。
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