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第二回 イカルド・セーラー(1)
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初日、僕は『悪の怪人お悩み相談室』で出会った女性である安寧 由紀と、初めての仕事に挑戦する。
といっても、僕は由紀の仕事を見学するだけだ。
しかし、ここが最も重要なところと言っても過言ではないだろう。しっかり見て聞いて、どのようなことをするのか覚えておかなくてはならないのだから。
「いい? 岩山手くん。普通と少し違う外見のお客さんだけど、驚いたら駄目だよ」
「あ、はい」
普通と少し違う外見のお客さん、か。
恐らく、容姿にコンプレックスのある人なのだろう。
由紀の忠告はもっともだ。
僕が驚いたりしてしまったら、その人の心を傷つけてしまうことになりかねない。
気をつけなくては。
待つことしばらく。
僕と由紀が待機していた個室のドアを、誰かがノックした。
「おっす! 来たーっす!」
ざらざらした感じの低い声。どうやら、やって来たのは男性のようだ。ということは、男性で容姿を気にしているということ。少しばかり珍しい気もするが、きちんと配慮して接するようにしなくては。
「どうぞ!」
由紀が爽やかな声で応じる。
すると、ドアが勢いよくバァンと開いた。
「……っ!?」
僕は思わず、息を詰まらせてしまった。
何故か?
それは簡単。部屋に入ってきたのが、明らかに人ではない姿をしている存在だったからだ。
「おっす!」
「こんにちは」
由紀は何事もなかったかのように接している。そう、まるで、学生時代からの旧友であるかのような、親しげな接し方だ。
「あぁ? 今日は男もいるんっすかー」
「今日から勤めに来てくれることになった子。岩山手 手間弥くんっていうの」
「おおー。ついに人が増えるんっすねー」
「そうそう。少し賑やかになるかも」
由紀と親しげに話す謎の存在を、僕は、つい凝視してしまった。
背の高さは成人男性とほぼ変わらないくらいだが、体つきは人間より一回り大きい。イカを若干擬人化したような形をしていて、しかし色は派手。紫色や黄土色といった、イカらしくない色合いをしている。また、イカに似た形をしているわりには、伸びているものが五本しか見当たらない。腕らしきものが二本、脚らしきものが三本という、中途半端な本数である。
「岩山手、よろしくっす!」
「あ、はい……」
「俺はイカルド・セーラーっていうっす!」
イカに似た彼——イカルドは、意外にも気さくだった。
その奇抜で不気味な容姿からは想像できないくらい、普通の人間と変わりない。
「あぁ? なんで無視するんすか?」
「あ! す、すみません!」
ついぼんやりしてしまっていた。
いきなり返事を忘れているようでは、社会人にはなれない!
……気をつけよう。
「俺はイカルド・セーラーっていうっす! よろしく!」
「はい! よろしくお願いしみゃす!」
はきはきと返そうとしたところ、うっかり発音をミスしてしまった。
かなり恥ずかしい。
だが、由紀はもちろん、イカルドも、何も突っ込んではこなかった。単に気づかなかっただけということも考えられるが、もしかしたら、彼らなりの優しさなのかもしれない。
「それで、今日は何の用事?」
由紀が話を変える。
「あぁ、そうそう! 今日は先週の飲み会の愚痴を聞いてもらいに来たんっす!」
イカルドは楽しげに答える。
それにしても、イカルドがどこかの飲み会に参加しているとは驚きだ。信じられない。僕でさえ参加したことがないというのに。
といっても、僕は由紀の仕事を見学するだけだ。
しかし、ここが最も重要なところと言っても過言ではないだろう。しっかり見て聞いて、どのようなことをするのか覚えておかなくてはならないのだから。
「いい? 岩山手くん。普通と少し違う外見のお客さんだけど、驚いたら駄目だよ」
「あ、はい」
普通と少し違う外見のお客さん、か。
恐らく、容姿にコンプレックスのある人なのだろう。
由紀の忠告はもっともだ。
僕が驚いたりしてしまったら、その人の心を傷つけてしまうことになりかねない。
気をつけなくては。
待つことしばらく。
僕と由紀が待機していた個室のドアを、誰かがノックした。
「おっす! 来たーっす!」
ざらざらした感じの低い声。どうやら、やって来たのは男性のようだ。ということは、男性で容姿を気にしているということ。少しばかり珍しい気もするが、きちんと配慮して接するようにしなくては。
「どうぞ!」
由紀が爽やかな声で応じる。
すると、ドアが勢いよくバァンと開いた。
「……っ!?」
僕は思わず、息を詰まらせてしまった。
何故か?
それは簡単。部屋に入ってきたのが、明らかに人ではない姿をしている存在だったからだ。
「おっす!」
「こんにちは」
由紀は何事もなかったかのように接している。そう、まるで、学生時代からの旧友であるかのような、親しげな接し方だ。
「あぁ? 今日は男もいるんっすかー」
「今日から勤めに来てくれることになった子。岩山手 手間弥くんっていうの」
「おおー。ついに人が増えるんっすねー」
「そうそう。少し賑やかになるかも」
由紀と親しげに話す謎の存在を、僕は、つい凝視してしまった。
背の高さは成人男性とほぼ変わらないくらいだが、体つきは人間より一回り大きい。イカを若干擬人化したような形をしていて、しかし色は派手。紫色や黄土色といった、イカらしくない色合いをしている。また、イカに似た形をしているわりには、伸びているものが五本しか見当たらない。腕らしきものが二本、脚らしきものが三本という、中途半端な本数である。
「岩山手、よろしくっす!」
「あ、はい……」
「俺はイカルド・セーラーっていうっす!」
イカに似た彼——イカルドは、意外にも気さくだった。
その奇抜で不気味な容姿からは想像できないくらい、普通の人間と変わりない。
「あぁ? なんで無視するんすか?」
「あ! す、すみません!」
ついぼんやりしてしまっていた。
いきなり返事を忘れているようでは、社会人にはなれない!
……気をつけよう。
「俺はイカルド・セーラーっていうっす! よろしく!」
「はい! よろしくお願いしみゃす!」
はきはきと返そうとしたところ、うっかり発音をミスしてしまった。
かなり恥ずかしい。
だが、由紀はもちろん、イカルドも、何も突っ込んではこなかった。単に気づかなかっただけということも考えられるが、もしかしたら、彼らなりの優しさなのかもしれない。
「それで、今日は何の用事?」
由紀が話を変える。
「あぁ、そうそう! 今日は先週の飲み会の愚痴を聞いてもらいに来たんっす!」
イカルドは楽しげに答える。
それにしても、イカルドがどこかの飲み会に参加しているとは驚きだ。信じられない。僕でさえ参加したことがないというのに。
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