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34話 味つけの違い
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転倒しそうになった私を、リンツが支えてくれた。
そのことが何だか嬉しくて、急に勇気が出てきたので、私はシートの上に座ることができた。
こんなことを言えば、「支えてもらったこととシートに座ることに何の関係があるんだ」と突っ込まれてしまいそうだ。確かに、これら二つのことは、あまり関係のないことだと思う。
しかし、嬉しさが勇気をくれたことは間違いないのだ。
最初は座りたくなかったのに、支えてもらえた後はわりとすんなり座ることができたのだから、まったく無関係ではないだろう。
「座るのが嫌なら、無理しなくていいんだよ? キャシィさん」
「いえ、もう平気です」
急に座った私を、リンツは、まだ不思議そうな顔で見ている。
私の行動が急に変わったから、驚くと同時に戸惑っているのだろう。無理もない。もし私がリンツの立場であったら、多分、今の彼と同じようになっていたと思う。
「それならいいのだがね……もし無理をさせてしまっていたら、と思って」
「大丈夫です、私は無理なんてしませんから。嫌なことにははっきりと『嫌だ』と言います」
「おお! それはありがたい!」
そんな風に話しながら、リンツは、カゴを私たち二人の間へと移動させる。そして、干し草を編んだような蓋をゆっくりと開けた。
「え! 凄い!」
カゴの中身を見た瞬間、私は思わず声をあげてしまった。
というのも、カゴの中にはサンドイッチがびっしりと詰まっていたのである。
「料理長に頼んでこっそり作ってもらったものだよ」
「これは、サンドイッチですね! 知っています!」
ピシアへ来てから、私は、生まれ育ったアックス王国には存在しなかった料理をいくつも見てきた。その度に驚き、それと同時に、その素晴らしい味に興奮していた。
が、今回は違う。
サンドイッチは、アックス王国にも存在した料理だ。
「たまにはキャシィさんが食べたことがありそうなものを、と頼んでみたのだよ。すると、こんなものが出来上がってきた。一瞬戸惑ったよ。なぜサンドイッチなのか、とね」
「サンドイッチ、何度も食べたことがあります!」
「ピシアの料理人が作ったものだから君の口に合うかは分からないが……良かったら食べてみてくれたまえ」
リンツは笑顔でそんなことを言ってくれた。
その口調は柔らかで、大人の余裕を感じさせる。
「いただいて良いのですか?」
私はそう確認した。
美味しかった場合に、どんどん食べ進んでしまう可能性があるからだ。
するとリンツは、ゆったりした動作で一度頷き、カゴの中からサンドイッチを一つ取り出した。
「はい」
そう言って、取り出したサンドイッチを差し出してくれる。
茶色い縁のついたありがちな食パンに、卵を焼いたものやレタスが挟まれているだけの、いたってシンプルなサンドイッチだ。
これといった特徴はない。
目立つような具材が入っているわけでもなさそう。
でも、なぜだろう。差し出されたサンドイッチは、妙に美味しそうに見える。
「ありがとうございます」
「それが一番普通のものだよ。もちろん他の具のサンドイッチもあるから、遠慮なく食べてくれたまえ」
「はい!」
私はリンツに手渡された「一番普通」のサンドイッチを食べることにした。
どんなものでも、まずは基本形を食べてみることが大事。
そう思ったからだ。
「いただきます」
「どうぞ」
普通のサンドイッチは、卵やレタスしか入っていないように見えるのに、案外重みがある。ずっしりとしていて、これは期待できそうだ。
まずは一口。
端をかじると、パンだけしか口には入らなかった。
「……甘い?」
食パン二枚を合わせただけの部分が口に入り、私はそれを咀嚼する。その後、一番に口から出たのは、そんな言葉だった。
「リンツさん。このパン、凄く甘いですね」
「ん? そうかね?」
リンツもサンドイッチを食べていたが、彼は、食パンに甘みがあることに驚いてはいないようだった。
「これが普通の味ですか?」
「そうだと思うが……キャシィさんにとっては違うのかね? もしかして、お口に合わなかったかな?」
「いえ、美味しいです。ただ、少し驚いてしまいました」
ピシアで使われている食パンはこういった味なものなのかもしれない。
「驚いた、とは?」
「その……食パンが甘かったので」
「おぉ、それは失礼したね。今後は甘くないものを用意させるように——」
「い、いえ! 大丈夫です!」
驚きはした。が、美味しくないということではない。
慣れていないため、甘めの味は不思議な感じはするものの、触感はふんわりしているし、文句なしである。
そのことが何だか嬉しくて、急に勇気が出てきたので、私はシートの上に座ることができた。
こんなことを言えば、「支えてもらったこととシートに座ることに何の関係があるんだ」と突っ込まれてしまいそうだ。確かに、これら二つのことは、あまり関係のないことだと思う。
しかし、嬉しさが勇気をくれたことは間違いないのだ。
最初は座りたくなかったのに、支えてもらえた後はわりとすんなり座ることができたのだから、まったく無関係ではないだろう。
「座るのが嫌なら、無理しなくていいんだよ? キャシィさん」
「いえ、もう平気です」
急に座った私を、リンツは、まだ不思議そうな顔で見ている。
私の行動が急に変わったから、驚くと同時に戸惑っているのだろう。無理もない。もし私がリンツの立場であったら、多分、今の彼と同じようになっていたと思う。
「それならいいのだがね……もし無理をさせてしまっていたら、と思って」
「大丈夫です、私は無理なんてしませんから。嫌なことにははっきりと『嫌だ』と言います」
「おお! それはありがたい!」
そんな風に話しながら、リンツは、カゴを私たち二人の間へと移動させる。そして、干し草を編んだような蓋をゆっくりと開けた。
「え! 凄い!」
カゴの中身を見た瞬間、私は思わず声をあげてしまった。
というのも、カゴの中にはサンドイッチがびっしりと詰まっていたのである。
「料理長に頼んでこっそり作ってもらったものだよ」
「これは、サンドイッチですね! 知っています!」
ピシアへ来てから、私は、生まれ育ったアックス王国には存在しなかった料理をいくつも見てきた。その度に驚き、それと同時に、その素晴らしい味に興奮していた。
が、今回は違う。
サンドイッチは、アックス王国にも存在した料理だ。
「たまにはキャシィさんが食べたことがありそうなものを、と頼んでみたのだよ。すると、こんなものが出来上がってきた。一瞬戸惑ったよ。なぜサンドイッチなのか、とね」
「サンドイッチ、何度も食べたことがあります!」
「ピシアの料理人が作ったものだから君の口に合うかは分からないが……良かったら食べてみてくれたまえ」
リンツは笑顔でそんなことを言ってくれた。
その口調は柔らかで、大人の余裕を感じさせる。
「いただいて良いのですか?」
私はそう確認した。
美味しかった場合に、どんどん食べ進んでしまう可能性があるからだ。
するとリンツは、ゆったりした動作で一度頷き、カゴの中からサンドイッチを一つ取り出した。
「はい」
そう言って、取り出したサンドイッチを差し出してくれる。
茶色い縁のついたありがちな食パンに、卵を焼いたものやレタスが挟まれているだけの、いたってシンプルなサンドイッチだ。
これといった特徴はない。
目立つような具材が入っているわけでもなさそう。
でも、なぜだろう。差し出されたサンドイッチは、妙に美味しそうに見える。
「ありがとうございます」
「それが一番普通のものだよ。もちろん他の具のサンドイッチもあるから、遠慮なく食べてくれたまえ」
「はい!」
私はリンツに手渡された「一番普通」のサンドイッチを食べることにした。
どんなものでも、まずは基本形を食べてみることが大事。
そう思ったからだ。
「いただきます」
「どうぞ」
普通のサンドイッチは、卵やレタスしか入っていないように見えるのに、案外重みがある。ずっしりとしていて、これは期待できそうだ。
まずは一口。
端をかじると、パンだけしか口には入らなかった。
「……甘い?」
食パン二枚を合わせただけの部分が口に入り、私はそれを咀嚼する。その後、一番に口から出たのは、そんな言葉だった。
「リンツさん。このパン、凄く甘いですね」
「ん? そうかね?」
リンツもサンドイッチを食べていたが、彼は、食パンに甘みがあることに驚いてはいないようだった。
「これが普通の味ですか?」
「そうだと思うが……キャシィさんにとっては違うのかね? もしかして、お口に合わなかったかな?」
「いえ、美味しいです。ただ、少し驚いてしまいました」
ピシアで使われている食パンはこういった味なものなのかもしれない。
「驚いた、とは?」
「その……食パンが甘かったので」
「おぉ、それは失礼したね。今後は甘くないものを用意させるように——」
「い、いえ! 大丈夫です!」
驚きはした。が、美味しくないということではない。
慣れていないため、甘めの味は不思議な感じはするものの、触感はふんわりしているし、文句なしである。
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