婚約破棄を告げられましたので、本日をもって私は自由になります。

婚約破棄を告げられましたので、本日をもって私は自由になります。

「君との婚約は本日をもって破棄とする！」

　婚約者ヴェーグルはある日突然そんなことを宣言してきた。

　彼は勝ち誇った顔をしていた。横に二つ並んだ鼻の穴を大きく開き、鼻と口の間を斜め方向に伸ばし、顎を片方にずらして。そうやって、自慢げな顔つきをしていた。

　婚約破棄をしたことがそんなに誇らしいのだろうか？

「分かりました。では、失礼します」

　私はそれだけ言って彼の前から去った。

　もう彼と関わりたくなかったから。


　◆


　婚約破棄から数年、私は今、世界を飛び回って旅人をしている。
　ヴェーグルかや解放された時、自由を得た私は、旅をすることを選んだのだ。

　もとより旅への憧れはあった。

　一人で生きることの苦労は確かにある。が、旅をして生きることには、苦労以上の喜びがある。それに、人々の優しさや温もりを知ることだってできる。

　ちなみにヴェーグルは酒の飲み過ぎで肝臓を悪くして若くして亡くなったらしい。


◆終わり◆