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ある夜婚約者が急に現れました。~壁に穴を空けるのはやめてください、迷惑の極みです~

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 ある夜のことだ。自宅内にある自分のための部屋で寛いでいたところ、急に一方の壁に穴が空いた。……物凄い音と共に。そして、その穴から現れたのは、私の婚約者である彼チローレルーンであった。彼は片手をあげて軽く挨拶してくる。壁に空けられた穴からは冷たくなった外気が流れ込んでくる。思わず身震いしてしまうほどに一気に寒くなった。

「大切な話があって来たんだ」
「わざわざ……この家を壊してまで、ですか……?」

 尋ねてみると。

「うるさいな!! うぜぇんだよ!!」

 途端に彼は激怒。

「余計なこと言ってんじゃねーよ馬鹿!!」
「すみません」
「じゃ、本題に入るから」
「何でしょうか」

 三十秒ほど経って落ち着いてきた彼は。

「婚約、破棄することにした」

 怒鳴るような調子ではなく、さらりと、そんな風に言いたいことを言った。

「ま、そういうことだから。この関係は今日までな。分かったな。じゃ、俺はこれで。さよなら。ばいばーいーんばーいーばいばいーんばいばーいー」

 彼はにやにやしながら穴を通って外へ出ていったのだった。



 あの後、私の父がチローレルーンに穴を空けた壁の修理代を持つよう求めたが、チローレルーンはそれを受け入れなかった。
 払う必要なんてない、とばかり言って。
 それに激怒した私の父は知人経由で殺し屋を雇いチローレルーンを仕留めるよう頼んだ。

 結果、チローレルーンはあの世逝きとなり、その身体から抜き出された内臓は売り払われたのだった。



 婚約破棄からどのくらい時が流れただろうか。

 もう思い出せない。
 あまりにも昔のことで。

 ただ、私は今、とても幸せに暮らしている。

 愛する夫がいて。
 賑やかそのものな子どもたちもいて。

 そんな感じで穏やかな幸せに出会えている。

 私は恵まれている、と、素直にそう思う。

 あの時理不尽に切り捨てられたからと命を投げ捨てるようなことをしなくて良かった、と、今はそうやって笑顔になれる。


◆終わり◆
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