弱小転移者の戦旅譚

ぶなしめじ

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一章 スタートライン

星導の天龍王

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 「ガハッ」
 私は肺に溜まった血を吐き出します。と言ってもほとんど貫かれて消えてますがね。
 「し、心臓ごと抜かれてると、・・・血液中の魔力が流れないじゃないですか」

 大変ですねぇ。
 そんな私を見てカマエルは大笑い。
 「ギャハハハハハ!! いい気味ね! どう? 知覚外からの一撃で沈む気分は?」
 おや? この悪魔は何か勘違いされてますねぇ。

 「・・・いつ体を貫かれて死ぬなど言いましたか?」

 「・・・は?」
 しかしこの傷だと少し助力を乞わなければいけませんね。
 
 リオー。出番ですよ。起きてくださーい。

 『ぐう・・・』

 ・・・いや、寝ないでくださーい。契約主がピンチですよー。

 『んぁ? ・・・ハッ、なんだお前?腹に穴空いてんじゃんか!ガハハハハ!』

 いや、笑わないで下さいよ。凄く遠い所から狙撃されたんですよ? しっかり多重防御壁張っててこれなので仕方ないですよ。というか起きてるじゃないですか。見てましたよね? 見てたなら分かりますよね?

 『知ってるわ。時計塔の屋上だろ? 今のお前じゃ、倒せんぞ?』

 知ってますよ。だから貴方を使いたいのですが?

 『はぁ。・・・しゃーねーな。今回だけだぞ?』

 ありがとうございます。ご協力感謝します。
 ふう。

 「現界と五次元空間の接続。・・・完了。
〈星光領域〉スターライトエリアから必要分の空間魔力の供給。・・・完了。必要分の自己体内魔力の移動開始」
 カマエルが興味深そうに見てますが無視です。
 狙うは私の腹を貫いた悪魔。他は全て無視無視。

・・・あ。そういえば使わなければいけない物が有りましたね。使っておきましょう。
 「・・・全工程完了オールクリア
ふう。・・・疲れます。肺の昨日がほぼ死んでるのでそれも辛いです。

 「〈開門〉サモン〈星導の天龍王〉オルファリオ・ドラゴンロード
  私は時計塔に手をかざして自己魔力で生み出した巨大な魔法陣と、空間魔力から生み出した小さな複数の魔法陣を生み出します。


 グラァァァァァァ!!!!


 絶対的な強者の咆哮。巨大な魔法陣から現れたのは龍の頭。高さは10m程。全てが白で染まっており、その輝きは地上から見える太陽そのものです。そして現界した瞬間から溢れ出している存在感、内包した圧倒的なまでの高濃度な魔力が咆哮と共に荒れ狂います。

 「リオ! 狙えますか?」
 そんな私の問いかけにリオは鼻で笑います。
 『誰に聞いてんだよ! 余裕だ!』
 リオが口を開く。頭しか出てないので攻撃方法は一つしか無いですね。
 一応街を壊す訳にはいかないので手加減はします。と言っても人外の領域ですが。

 「第六位魔法!・・・〈星導の王砲〉オルファリオ・ロードカノン

 圧倒的な魔力の保有者から放たれる圧倒的な力の奔流。途中にある全ての建物を塵へと変え、そのまま時計塔も塵へと化しました。
 「ベリアル!」
 カマエルが叫びます。が、もう遅いです。

 私から時計塔までの8km。いえ、その後ろは何もかも塵になりました。


~~~~~~~~~~~~~~~


 「嘘・・・よね?」
 カマエルは死人の様に顔が青ざめていました。
 (ベリアルが死んだ? つまり作戦は失敗だ。こんな報告、閣下が許すはずが・・・)
 『あー。あー。聞こえるか?』
 「っ!!」

 聞き覚えのある声がカマエルの脳に響く。
 「ベリアル! 生きていたのね!」
 『あ、ああ。障壁で防げるは分防いだ。だが、両腕は確実に死んでる』
 ここでカマエルは悩んだ。作戦続行か、撤退か。
 『だが雷閃の魔女を討ち取った。作戦は第二段階に移行する』

 「っ! そうね!」
 作戦はあくまでエリスを倒すこと。その目標が達成された今、アリスティア城に攻め込むべきだ。
 『これより鏡界の雫作戦は第二段階へと移行する!繰り返す! これよ・・・・・・。っっ!』

 突然ベリアルからの〈念話〉メッセージが聞こえなくなった。
 「ベリアル? 応答して!」
 そんなカマエルを見てニヤリと笑うエリスがいた。

 「別に私の攻撃で仕留める事が出来なくても予め保険を打っておくのは当たり前の事ですよ。・・・リオはお疲れ様でした。ゆっくり休んで下さい」
 「ちっ!」
 これもエリスの策略か、と思ったカマエルが視力強化を全力で発動させる。障害物が何も無いのでよく見える。



 そこには倒れ伏すベリアルと、そのベリアルの頭部に銃口を向けているレクトの姿があった。



 「流石レクトさん。私の思い通り動いてくれましたね」
 相変わらず腹の空洞を気にせずにニコニコとしているエリス。
 「では、そろそろ体を戻しましょう」
 エリスの一言で一瞬で元に戻る。カマエルと違い、衣服に空いた穴も元に戻っていた。

 「は?」
 カマエルは呆然としていた。無理もない。仲間の生涯最後の一撃を無きものとしたのだ。
 「おや? どうしましたか? 希望を打ち砕いたら逆に打ち砕かれましたね。人生お疲れ様です」
 
 またもやニコニコと煽る。
 「ちなみに、これは私の特殊技能スキルです。能力は時間の巻き戻し、自分と身に付けてる物の時間を最大二十四時間巻き戻すって感じですね。インターバルの時間? 言うわけ無いですよ」

 「ちっ! バディン! 撤退だ! 今すぐに撤退しろ!」
 焦ったカマエルはバディンに撤退の指示を出す。
 「いえ? 逃がしませんよ? 〈龍雷の雨〉レイン・ドラゴンライトニング

 エリスがカマエルに魔法を放つ。
 「・・・〈転移〉テレポーテーション
 カマエルは転移魔法で逃げる。しかしカマエルが消える瞬間にバチッと、かする音がした。

 「はあ。行ってしまいましたか。ですが想定通りでしょう。布石も打てましたし」
 さてレクトさんの所に行きますか、とエリスは塵の道を真っ直ぐ歩いていった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~


 時間はエリスが星導の天龍王オルファリオ・ドラゴンロードを召喚する直前まで遡る。
 俺とアディルが時計塔に向かっている途中の事だった。

 グラァァァァァァ!!!!

 大きな叫び声が聞こえるな。それにまた体が重くなった。
 「お? エリスの嬢ちゃん本体を召喚しやがったな」
 「この声が?」
 アディルが首を縦に振る。

 ここまで離れてても感じる圧力。なるほど確かに化け物だな。・・・まあ本能的なものだけど。俺には相手の力を測る能力は無いし。
 そのまま次の悪魔へ向かおうとした時、俺の体に異変が起こった。

 「ん? 体が・・・」
 「レクト、お前体が透けてるぞ?」
 そう。透けてるのだ。やがてどんどん薄くなっていき・・・。

 一瞬の浮遊感。そして俺はさっきより時計塔に近い位置にいた。
 「どういうこ・・・」
 そんな事を考える暇もなく、目の前に光の光線が通り過ぎる。

 「うおっ!」
 いや、これは多分エリスの星導の天龍王オルファリオ・ドラゴンロードの攻撃だろう。一瞬で目の前の家々が塵になってるし。

 ・・・理由もなく俺がここに飛ばされる訳が無い。つまりこれは・・・。
 「誰か・・・、いやエリスの作戦か?」
 俺よりも頭がいいエリスの事だ。即興で作戦を練って、・・・いや違うか。

 「多分これだろ」
 それはエリスに渡された銀の十字架。おそらくこれに転移魔法でも仕組まれていたのだろう。
 「いつ使うか分からないけど、どんな物でも自分の一手に出来るようにする。・・・なるほど」

 そのための準備か。なら、
 「エリスの期待に応えるしか無いな!」
 やがて攻撃が収まり、砂埃も止んでいく。

 元々時計塔のあった場所の中央には一人の男が蹲っていた。
 「アイツだな」
 俺の位置は丁度死角。銃を構え、ここであのスキルを使べきだろう。
 「・・・」

 俺は一歩を踏み出す。音の無い一歩を。
 軍人時代に教わった技、無音歩行スニーキングだ。実際エリスの魔法や、ベルの剣技には数段劣るだろう。誰でも出来ると言ってもおかしくない。
 だがこの状況で大きな音のする魔法よりもこの技の方が有能では無いだろうか?

 そしてもう一つ、単純に気配を消す事だ。
 呼吸音を最小限な抑え、心拍数をフラットな状態にする。これも努力次第で誰でも出来る。

 つまり凡人が少し技を使っただけである。そんな技だが効果は覿面。問題なく背後を取る。
 自動拳銃のベレッタなら引き金を引くだけでいい。
 だから俺は頭に照準を合わせ、ほぼゼロ距離で引き金を引いた。
 
 ドパン!
 
 乾いた銃声が何も無くなった空間に響く。
 ボロボロだった男はそのまま倒れ伏す。即死の様だ。
 俺の中には何かモヤモヤした感情が流れる。だがすぐに気づいた。俺は・・・俺は初めて・・・。

 「俺は初めて人を撃ったのか」

 軍人時代でも絶対にやらなかった事。

 心の何処かで撃つなと叫んでいたあの時。

 俺はどんな時でも人に撃たなかった。

 全部友人がやってくれていたから。

 確かに銃は好きだ。今までで一番好きになれた。自分を別の道に進めてくれたきっかけだから。

 でも銃は兵器。使えば生き物を殺せる。

 そんな事分かってる。分かってるけど・・・

 「・・・はぁ」
 矛盾してる。・・・のかな?
 しばらくはこの感情と過ごすしかないか。


~~~~~~~~~~~~~~~


 「ナッ・・・。ベリアルガヤラレタ?」
 俺が体勢を立て直している最中にエリスがやりやがったな。

 『ベリアル撃破ですよー。と言ってもトドメはレクトさんです。カマエルは撤退しました。ベルキューアさんは転移不可領域を展開出来るアイテムを持ってましたよね? 出来れば逃がさないで欲しいのですが・・・、出来ますか?』
 エリスが〈念話〉メッセージで話しかけてくる。

 「おうよ! 問題ねぇ!こっちはこっちでぶっ倒してやる!」
 『すみませんね。よろしくお願いします』
 エリスは〈念話〉メッセージを終える。
 それじゃ、こっちもやりますか。
 俺は指輪型のアイテム、『儚き幻想』ベイン・イリュージョンを起動させた。

 「グググ・・・。テッタイ・・・〈転移〉テレポーテーション・・・」
 バディンの周りが光る。だが、消える前に俺が儚き幻想ベイン・イリュージョンを使用する事で半径30mの転移不可領域が発生する。

 「無理だぜ。こっからは逃げられない。それじゃ、最後まで付き合って・・・貰おうかっ!」
 俺は思いっきり地面を蹴る。家は倒壊しているからどれだけ強く蹴っても問題無ねぇ!

 俺の直線的な動き。相手は予想通りクイックモーションからの右ストレート。そんなものは軽く避けられる。
 「ガァ!」
 「〈三重強化〉ドライ〈魔法盾〉マジックガード
 
 一枚目の踏台用の盾を使って左上へ回避。
 「〈三重強化〉ドライ〈氷槍〉アイススピア
  俺は氷属性の魔法を放つ。狙いは高熱の腕。
「グガァ!」

 魔法は上手く当たり、水蒸気爆発が発生。バディンが悲鳴を上げた。・・・いや、いつもと同じだな。いっつも呻いてるから紛らわしいぜ。
 まあもちろん俺も飛ばされるけどな! っと、形を短剣に変えなきゃな。
 俺はそのまま左上に吹き飛ぶ・・・。けど、

 「よし! 方向、狂いなし!」
 吹っ飛ばされる方向には盾を張ってあったから問題ねぇ!
 俺はこいつを蹴って、首元への一閃。
 「ァァッ」
 まあ、これで同じ所に三撃目。流石にダメージは入るな。水蒸気爆発の爆風で怯んでる今がチャンス!

 そのまま着地、そして跳躍して真正面で魔法を放つ!
 「〈七重強化〉ズィーベン〈氷槍〉アイススピア
 俺の多重強化は〈七重強化〉ズィーベンまでしか出来ないからな。俺の最大火力だ!

 1つは首の傷、残りは全て両腕!!
 「グガァァァァ!」
 やはり水蒸気爆発は効果覿面だな!
 俺も吹き飛ばされ、バディンの正面に配置した最後の盾を蹴る。絶対に・・・

 「ここで決める! 〈付与〉エンチャント〈氷属性〉アイス
 ここは賭けだ。だがもし、そうならば・・・
 
 「でりゃァァァァ!!!」
 再び同じ箇所に思いっきり突きを入れる。

 ドバン!

 バディンの首が盛大に爆散する。
 「ヴヴヴグゥ・・・」
 俺は剣を鞘に仕舞う。
 「最後のは単なる賭けだったな」

 今のは体の中央が高温である事に賭けた一撃。氷属性の魔法で小型の水蒸気爆発を起こし、撹乱。俺は爆風に乗って高速移動して同じ箇所を切りつけて傷を深くして、最後は斬撃よりも中央に届きやすい突きの一撃で内部で水蒸気爆発を誘発させてのトドメ。

 「首は柔らかかったのが救いだったぜ。じゃなきゃ活路がなかったぞ?」
 そんな弱点があったから良かった。これで済ませておく事にしようか。

 それじゃ、エリスのとこに行くか。
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