19 / 21
19.やきもち
しおりを挟む
「すまん。だからそんな膨れっ面しないでくれ」
顔つきはアレクさんより厳ついぐらいなのに、ルーヴさんって意外とおちゃめというかよく笑う。
今だって「すまん」と謝りながらも見事にバッキバキの腹筋が堪えきれずにヒクヒク震えていて、笑いを堪えてるのが丸分かりだった。
ぐぅきゅるるるるる
そしてタイミングを見図ったかのように俺の腹が鳴った。
「っ……、今持って行かせるから。その前にコイツを紹介させてくれ」
更に腹筋のヒクヒク具合が増したルーヴさんが「ほら」と背を押して自分の前に押し出したのは、ルーヴさんをそのまま小さくしたような獣人の子供。
身長はルーヴさんのお腹辺りで、俺より頭一個分ぐらい小さいぐらいだろうか。部屋の中からジッと見ているアレクさんの視線に怯えているようで、三角の耳がへにゃりと倒れている。
「この子は俺の倅のルーディーだ。俺はこの部屋に入れないから、代わりに連れて来た」
「ほら、お前も挨拶しなさい」と言われてその子とようやく目が合った。
ルーヴさんに似ているということは、すなわちアレクさんにも似ているということで、俺は一目でハートを撃ち抜かれた。
子供ながらにキリっとした顔立ちなのは種族的なものなのか、そこに子供らしい丸っこい要素も加わって、アンバランスな可愛らしさを醸し出している。
「は、はじめまして。ルーディーでしゅ、っ!?」
語尾を盛大に噛んで恥ずかしかったのか、モフモフの手で顔を覆い隠してしまった。そんな仕草も可愛くて癒されるのだけれど、本人は落ち込んでしまったようだ。
「はじめましてルーディーくん、新です。仲良くしてくれると嬉しいな」
もし仲良くなれたらフワフワの耳と尻尾を少しだけでも撫でさせてくれないだろうか。そんな下心を押し隠して俺はルーディーくんに笑いかけた。
ぐぅきゅるるるるる
またしても性懲りもなく鳴った腹の音にビックリしたのか、顔を覆い隠していた手の間から覗いてくるルーディーくんの視線が痛い。この空気、気まずい…。
「すみません……」
「はじめは軽いものがいいかと思ってスープを用意したんだ。ほらルーディー、アラタくんのお腹が限界だって鳴いてるだろう。早く持って行って食べさせてあげなさい」
「う、うん」
ルーヴさんから手渡されたお盆を持って、ルーディーくんがゆっくりとこちらに歩み寄る。
ベッドの脇まで近付きサイドテーブルにお盆を置くと、慣れた手つきで起き上がる手助けをしてくれた。
「ありがとう。それにしてもルーディーくん、ずいぶん手際が良いね」
「うちは母さんで慣れてるから。お手伝いしてたら自然と覚えました」
「そうなんだ…お母さんどこか悪いの?」
「あ、全然元気ですよ!ただ、ついこの間弟を生んだばかりなんです」
「そっかー、ルーディーくんお手伝いして偉いね」
「そんな、たいしたことしてないですから」
褒められて照れたのか耳がさっきから忙しなくピクピク動いてる。こう、目の前で動いてると掴みたくなるな。
ルーディーくんの話によると、ルーヴさんのお相手も俺と同じ転移してきた日本人の男性らしい。
今は二人目が生まれたばかりで動けないから、俺のお世話係の役は消去法でルーディーくんに白羽の矢が立ったのだとか。
近くに寄るとよく分かるんだけど、ルーディーくんは十歳にしては逞しいと言うか、全体的にがっしりしていて俺よりもよほど力がありそうだ。
「スープ、冷めないうちに食べちゃいましょう!」
「う、うん。そうだね」
そう言うとルーディーくんは、うまく体に力が入らない俺の代わりに、ふーふーしたスプーンを口元に持ってきてくれる。いわゆる「あーん」というやつだ。
溢さないように必死に口を開ける俺は、さぞ滑稽な顔をしているんだろうな。
「……(かわいい)」
「ん?ルーディーくん、なにか言った?」
「いいえ!言ってません!!」
「そう?」
もごもご口が動いてたように見えたんだけど気のせいだったのか。
はじめのぎこちなさはすぐになくなり、俺も「あーん」が上手くなったのか、スープを全部食べ終わりやっとお腹がいっぱいになった。
食後はルーディーくんに汚れた口元までかいがいしく拭いてもらってしまった。この子将来いい旦那さんになるな。
「ごちそうさまでした」
「お水と飲み薬を持ってきますね」
「うん。なにからなにまでありがとう、ルーディーくん」
「いいえ。あの、僕のことはルーって呼んでください。家族や仲のいい子はみんなそう呼ぶんです」
「いいの?じゃあお言葉に甘えて。ルーくんって呼ばせてもらうね」
「……すぐ、薬持ってきますね!」
ギュッと尻尾を抑えて慌てて駆け出したルーディーくんが部屋から出て行った。さすが獣人、足が早い。
すぐに戻って来たルーディーくんに薬も飲ませてもらい、そのまま休むことになった。
お腹がいっぱいになった途端に眠くなるなんて子供みたいだけど、まだまだ本調子じゃないからしょうがないよね。
「…アレク唸るのをやめろ、大人げないぞ」
「相手はまだ子供だ」
「はぁ?自分がしてあげたかっただと?」
「だったらさっさと元に戻れ」
「お前が誰彼かまわず威嚇するから、俺らしかこの家にも入れないんだぞ。あんまり我がまま言うな」
少し離れたところでルーヴさんがアレクさんと口論している。
と言っても、はたから見るとルーヴさんが独り言をブツブツ言っているようにしか見えないんだけど、ルーガルー同士だとあの姿でも意思の疎通も可能なのかもしれない。
俺にはアレクさんの声、ガウガウとしか聞こえないんだけどね。
あーダメだ眠いや、おやすみなさい。
顔つきはアレクさんより厳ついぐらいなのに、ルーヴさんって意外とおちゃめというかよく笑う。
今だって「すまん」と謝りながらも見事にバッキバキの腹筋が堪えきれずにヒクヒク震えていて、笑いを堪えてるのが丸分かりだった。
ぐぅきゅるるるるる
そしてタイミングを見図ったかのように俺の腹が鳴った。
「っ……、今持って行かせるから。その前にコイツを紹介させてくれ」
更に腹筋のヒクヒク具合が増したルーヴさんが「ほら」と背を押して自分の前に押し出したのは、ルーヴさんをそのまま小さくしたような獣人の子供。
身長はルーヴさんのお腹辺りで、俺より頭一個分ぐらい小さいぐらいだろうか。部屋の中からジッと見ているアレクさんの視線に怯えているようで、三角の耳がへにゃりと倒れている。
「この子は俺の倅のルーディーだ。俺はこの部屋に入れないから、代わりに連れて来た」
「ほら、お前も挨拶しなさい」と言われてその子とようやく目が合った。
ルーヴさんに似ているということは、すなわちアレクさんにも似ているということで、俺は一目でハートを撃ち抜かれた。
子供ながらにキリっとした顔立ちなのは種族的なものなのか、そこに子供らしい丸っこい要素も加わって、アンバランスな可愛らしさを醸し出している。
「は、はじめまして。ルーディーでしゅ、っ!?」
語尾を盛大に噛んで恥ずかしかったのか、モフモフの手で顔を覆い隠してしまった。そんな仕草も可愛くて癒されるのだけれど、本人は落ち込んでしまったようだ。
「はじめましてルーディーくん、新です。仲良くしてくれると嬉しいな」
もし仲良くなれたらフワフワの耳と尻尾を少しだけでも撫でさせてくれないだろうか。そんな下心を押し隠して俺はルーディーくんに笑いかけた。
ぐぅきゅるるるるる
またしても性懲りもなく鳴った腹の音にビックリしたのか、顔を覆い隠していた手の間から覗いてくるルーディーくんの視線が痛い。この空気、気まずい…。
「すみません……」
「はじめは軽いものがいいかと思ってスープを用意したんだ。ほらルーディー、アラタくんのお腹が限界だって鳴いてるだろう。早く持って行って食べさせてあげなさい」
「う、うん」
ルーヴさんから手渡されたお盆を持って、ルーディーくんがゆっくりとこちらに歩み寄る。
ベッドの脇まで近付きサイドテーブルにお盆を置くと、慣れた手つきで起き上がる手助けをしてくれた。
「ありがとう。それにしてもルーディーくん、ずいぶん手際が良いね」
「うちは母さんで慣れてるから。お手伝いしてたら自然と覚えました」
「そうなんだ…お母さんどこか悪いの?」
「あ、全然元気ですよ!ただ、ついこの間弟を生んだばかりなんです」
「そっかー、ルーディーくんお手伝いして偉いね」
「そんな、たいしたことしてないですから」
褒められて照れたのか耳がさっきから忙しなくピクピク動いてる。こう、目の前で動いてると掴みたくなるな。
ルーディーくんの話によると、ルーヴさんのお相手も俺と同じ転移してきた日本人の男性らしい。
今は二人目が生まれたばかりで動けないから、俺のお世話係の役は消去法でルーディーくんに白羽の矢が立ったのだとか。
近くに寄るとよく分かるんだけど、ルーディーくんは十歳にしては逞しいと言うか、全体的にがっしりしていて俺よりもよほど力がありそうだ。
「スープ、冷めないうちに食べちゃいましょう!」
「う、うん。そうだね」
そう言うとルーディーくんは、うまく体に力が入らない俺の代わりに、ふーふーしたスプーンを口元に持ってきてくれる。いわゆる「あーん」というやつだ。
溢さないように必死に口を開ける俺は、さぞ滑稽な顔をしているんだろうな。
「……(かわいい)」
「ん?ルーディーくん、なにか言った?」
「いいえ!言ってません!!」
「そう?」
もごもご口が動いてたように見えたんだけど気のせいだったのか。
はじめのぎこちなさはすぐになくなり、俺も「あーん」が上手くなったのか、スープを全部食べ終わりやっとお腹がいっぱいになった。
食後はルーディーくんに汚れた口元までかいがいしく拭いてもらってしまった。この子将来いい旦那さんになるな。
「ごちそうさまでした」
「お水と飲み薬を持ってきますね」
「うん。なにからなにまでありがとう、ルーディーくん」
「いいえ。あの、僕のことはルーって呼んでください。家族や仲のいい子はみんなそう呼ぶんです」
「いいの?じゃあお言葉に甘えて。ルーくんって呼ばせてもらうね」
「……すぐ、薬持ってきますね!」
ギュッと尻尾を抑えて慌てて駆け出したルーディーくんが部屋から出て行った。さすが獣人、足が早い。
すぐに戻って来たルーディーくんに薬も飲ませてもらい、そのまま休むことになった。
お腹がいっぱいになった途端に眠くなるなんて子供みたいだけど、まだまだ本調子じゃないからしょうがないよね。
「…アレク唸るのをやめろ、大人げないぞ」
「相手はまだ子供だ」
「はぁ?自分がしてあげたかっただと?」
「だったらさっさと元に戻れ」
「お前が誰彼かまわず威嚇するから、俺らしかこの家にも入れないんだぞ。あんまり我がまま言うな」
少し離れたところでルーヴさんがアレクさんと口論している。
と言っても、はたから見るとルーヴさんが独り言をブツブツ言っているようにしか見えないんだけど、ルーガルー同士だとあの姿でも意思の疎通も可能なのかもしれない。
俺にはアレクさんの声、ガウガウとしか聞こえないんだけどね。
あーダメだ眠いや、おやすみなさい。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
266
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる