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17.再会
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あ~気持ちいいなぁ。それに、あったかいや。
全身を余すところなくモフっとしたものに包みこまれて、その最高に気持ちいい肌触りに俺は我を忘れてしまいそうだ。
嗚呼この手触り、絶妙な加減の獣臭さと温かさは人肌ならぬケモ肌とでも言えばいいんだろうか。人より高い体温がまたたまらない。
これ夢かな、たぶん夢だろうな。そうじゃなきゃ今頃ユキの後ろ足キックに凶悪な爪でバリバリと容赦なく引っかかれてるはずだもん。
うちの飼い猫のユキはいつも魅惑のお腹は全然触らせてくれないんだ。目の前に堂々と晒しているくせに、ひどいと思わないか?
でも撫でるモーションに入った時点ですぐに勘付くのはすごいと思う。そこまで嫌がられると諦めもつくというもんだよね。それがお猫様と奴隷の関係というものだろうか。
それにしても、ユキちゃんちょっと大きくなった?そんなにメタボにゃんだったっけ?
いや、この感触はぷにぷにのお肉じゃなくて筋肉じゃね?筋肉とモフモフの神コラボ、ありがとうございます(拝)。
「んはっ」
ふいうちでザラリとした舌の感触が頬に触れて変な声が出ちゃった…うわぁ、地味に恥ずかしい。
「???うっ、ちょっ、ユキ…」
ベロベロと顔中を余すところなく舐め回されてうれしい悲鳴をあげる俺。いやー愛されてるね。
「ぐえ…っ、ひゃっ!な、なに?」
突然コロリと転がされ、俯せの状態になって今度は首筋を重点的に舐められる。徐々に下がる舌は、まるで背中を撫でおろすように降りていく。
「ひっひゃぁ……ひゃん」
くすぐったくて我慢ができす、俺の口からは甘ったるい気持ちの悪い声が出た。
この辺りになると俺もこれは夢じゃないし相手がユキじゃないと気付いた。いや、だいぶ遅いんだけどね。
恐る恐る瞼を開けると、俺の目に入ってきたのは青味の強い黒い被毛に覆われた獣の前足だった。
「アレクさん……?」
それは完璧に獣の前足で、もしかしてアレクさんじゃないのか?と慌てて背後を振り返ると、どことなくアレクさんの面影のある狼がそこにいた。
――ど、どちらさまですか……?え、待って…めっちゃカッコいい……じゃないや。落ち着け俺!
はぁ、動悸がヤバい。こんなドキドキしたの一回目にトラックに轢かれて死んじゃった時ぐらいじゃないの?
「あ、レクさ、ん……ですか…?」
「…………」
ピタリと動きを止めた狼は、なぜか俺の視線に怯えるようにサッと目をそらすと、機敏な動きでヒラリと俺の上から飛びのいた。離れてしまう体温が無性に恋しくて寂しさが胸を突く。
もしかして、本当にアレクさんじゃないのか?こんなに胸がドキドキするのに?
俺、他のイケメン狼に浮気しちゃったのか?
そんな不安が顔に出てしまったのか、少し離れたところで立ち尽くしていた狼がこちらにそろりそろりと近付いてくる。まるで、俺に恐れられるのが怖いかのような怯えた態度に見えた。
「もし違ったらごめんなさい。でもアレクさん、でいいんですよね…?」
もし違ったら盛大な独り言になってしまって恥ずかしいけど、俺は猫飼いなんだ。独り言がなんだ!独り言が怖くてペットが飼えるか!…じゃなかった、ついつい話が脱線してしまった。
目の前の狼は先ほどとは違い、目を逸らすことなくこちらを見つめ返してくる。少し青みを帯びた黒い体毛も、一見したら堅そうなのに触ると案外柔らかい毛の肌触りも、なによりもその瞳がこの狼を彼だと感じる所以かもしれない。
ギリギリ俺の手の届かない位置まで近付いてくれた狼は、だけどそれ以上俺の方へと近付いて来る様子はない。
その微妙な距離感が避けられている気がして、ズキンと心が痛んだ。
そういえば俺、あの時に神様にこうお願いしたんだった。
「チートなんて要りません!」って――――
その時の俺は、その可能性について少しも考えてもいなかった。今になって思えば、なんて傲慢なんだろう。
もしかして俺、本当はアレクさんに嫌われてたんじゃないの…?
その可能性に気付いてしまった瞬間、全身の血がザっと引いた。さっきまでのどこかふわふわとして幸せだった気分が、一変してどん底へと叩き込まれたような衝撃と、湧き上がって溢れそうになる涙。
ぐちぐちゃの濁流みたいな感情が色々と押し寄せてきて、今にも決壊してしまいそうだ――。
「……わふん」
わふん?! 今、わふんって言った?!?!
か わ い い ! ! ! ! !
はぁ、はぁ、お、おちつけ……おちつくんだ俺。荒ぶるな…またドン引きされてしまう…。
気持ち悪いぐらいに息が荒くなった俺のことを心配したのか、湿った鼻先がピトっと手の甲に当てられる感触がした。
ヒヤッとしたその鼻に齧り付きたい衝動をなんとか抑え込み、怯えられないようにゆっくりと鼻先を撫でてみる。
逃げられないのをいいことに少し調子に乗って両手で顎の下の毛をわっしわっしと揉みしだくと、たまらないと言わんばかりに目が蕩けて細まった。かわいいかわいいかわいい。
「心配してくれたんですか?」
「わふっ!」
「かっわ…………ありがとうございます!」
撫で撫でが止まらない魅惑のボディーにうっとりしていた俺が、そんなことしている場合ではないとやっと気付いたのは、アレクさんが俺の服の裾を控えめにくいくいっと引っ張ったから。
さすがにそろそろ現実に帰らなきゃ。
まず問題が一つ。色々ことの顛末を聞きたいのに、アレクさんが人型に戻れないっぽいこと。
なんとなく俺がそうなんじゃないかって思うだけなんだけど、多分当たってると思う。
なんだか本人がこの姿を好きじゃないみたいなんだよな。俺は大大大好きだけど!!
はじめ起きた時に感じた微妙な距離感は、この獣の姿のせいなんじゃないかな。
アレクさんの獣姿も素敵だし大好きだけど、やっぱり話せないのは寂しい。
一体どうしたらいいんだろう。
全身を余すところなくモフっとしたものに包みこまれて、その最高に気持ちいい肌触りに俺は我を忘れてしまいそうだ。
嗚呼この手触り、絶妙な加減の獣臭さと温かさは人肌ならぬケモ肌とでも言えばいいんだろうか。人より高い体温がまたたまらない。
これ夢かな、たぶん夢だろうな。そうじゃなきゃ今頃ユキの後ろ足キックに凶悪な爪でバリバリと容赦なく引っかかれてるはずだもん。
うちの飼い猫のユキはいつも魅惑のお腹は全然触らせてくれないんだ。目の前に堂々と晒しているくせに、ひどいと思わないか?
でも撫でるモーションに入った時点ですぐに勘付くのはすごいと思う。そこまで嫌がられると諦めもつくというもんだよね。それがお猫様と奴隷の関係というものだろうか。
それにしても、ユキちゃんちょっと大きくなった?そんなにメタボにゃんだったっけ?
いや、この感触はぷにぷにのお肉じゃなくて筋肉じゃね?筋肉とモフモフの神コラボ、ありがとうございます(拝)。
「んはっ」
ふいうちでザラリとした舌の感触が頬に触れて変な声が出ちゃった…うわぁ、地味に恥ずかしい。
「???うっ、ちょっ、ユキ…」
ベロベロと顔中を余すところなく舐め回されてうれしい悲鳴をあげる俺。いやー愛されてるね。
「ぐえ…っ、ひゃっ!な、なに?」
突然コロリと転がされ、俯せの状態になって今度は首筋を重点的に舐められる。徐々に下がる舌は、まるで背中を撫でおろすように降りていく。
「ひっひゃぁ……ひゃん」
くすぐったくて我慢ができす、俺の口からは甘ったるい気持ちの悪い声が出た。
この辺りになると俺もこれは夢じゃないし相手がユキじゃないと気付いた。いや、だいぶ遅いんだけどね。
恐る恐る瞼を開けると、俺の目に入ってきたのは青味の強い黒い被毛に覆われた獣の前足だった。
「アレクさん……?」
それは完璧に獣の前足で、もしかしてアレクさんじゃないのか?と慌てて背後を振り返ると、どことなくアレクさんの面影のある狼がそこにいた。
――ど、どちらさまですか……?え、待って…めっちゃカッコいい……じゃないや。落ち着け俺!
はぁ、動悸がヤバい。こんなドキドキしたの一回目にトラックに轢かれて死んじゃった時ぐらいじゃないの?
「あ、レクさ、ん……ですか…?」
「…………」
ピタリと動きを止めた狼は、なぜか俺の視線に怯えるようにサッと目をそらすと、機敏な動きでヒラリと俺の上から飛びのいた。離れてしまう体温が無性に恋しくて寂しさが胸を突く。
もしかして、本当にアレクさんじゃないのか?こんなに胸がドキドキするのに?
俺、他のイケメン狼に浮気しちゃったのか?
そんな不安が顔に出てしまったのか、少し離れたところで立ち尽くしていた狼がこちらにそろりそろりと近付いてくる。まるで、俺に恐れられるのが怖いかのような怯えた態度に見えた。
「もし違ったらごめんなさい。でもアレクさん、でいいんですよね…?」
もし違ったら盛大な独り言になってしまって恥ずかしいけど、俺は猫飼いなんだ。独り言がなんだ!独り言が怖くてペットが飼えるか!…じゃなかった、ついつい話が脱線してしまった。
目の前の狼は先ほどとは違い、目を逸らすことなくこちらを見つめ返してくる。少し青みを帯びた黒い体毛も、一見したら堅そうなのに触ると案外柔らかい毛の肌触りも、なによりもその瞳がこの狼を彼だと感じる所以かもしれない。
ギリギリ俺の手の届かない位置まで近付いてくれた狼は、だけどそれ以上俺の方へと近付いて来る様子はない。
その微妙な距離感が避けられている気がして、ズキンと心が痛んだ。
そういえば俺、あの時に神様にこうお願いしたんだった。
「チートなんて要りません!」って――――
その時の俺は、その可能性について少しも考えてもいなかった。今になって思えば、なんて傲慢なんだろう。
もしかして俺、本当はアレクさんに嫌われてたんじゃないの…?
その可能性に気付いてしまった瞬間、全身の血がザっと引いた。さっきまでのどこかふわふわとして幸せだった気分が、一変してどん底へと叩き込まれたような衝撃と、湧き上がって溢れそうになる涙。
ぐちぐちゃの濁流みたいな感情が色々と押し寄せてきて、今にも決壊してしまいそうだ――。
「……わふん」
わふん?! 今、わふんって言った?!?!
か わ い い ! ! ! ! !
はぁ、はぁ、お、おちつけ……おちつくんだ俺。荒ぶるな…またドン引きされてしまう…。
気持ち悪いぐらいに息が荒くなった俺のことを心配したのか、湿った鼻先がピトっと手の甲に当てられる感触がした。
ヒヤッとしたその鼻に齧り付きたい衝動をなんとか抑え込み、怯えられないようにゆっくりと鼻先を撫でてみる。
逃げられないのをいいことに少し調子に乗って両手で顎の下の毛をわっしわっしと揉みしだくと、たまらないと言わんばかりに目が蕩けて細まった。かわいいかわいいかわいい。
「心配してくれたんですか?」
「わふっ!」
「かっわ…………ありがとうございます!」
撫で撫でが止まらない魅惑のボディーにうっとりしていた俺が、そんなことしている場合ではないとやっと気付いたのは、アレクさんが俺の服の裾を控えめにくいくいっと引っ張ったから。
さすがにそろそろ現実に帰らなきゃ。
まず問題が一つ。色々ことの顛末を聞きたいのに、アレクさんが人型に戻れないっぽいこと。
なんとなく俺がそうなんじゃないかって思うだけなんだけど、多分当たってると思う。
なんだか本人がこの姿を好きじゃないみたいなんだよな。俺は大大大好きだけど!!
はじめ起きた時に感じた微妙な距離感は、この獣の姿のせいなんじゃないかな。
アレクさんの獣姿も素敵だし大好きだけど、やっぱり話せないのは寂しい。
一体どうしたらいいんだろう。
応援ありがとうございます!
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