そんなチートは要りません!

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16.神の願い

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ふわふわと揺れる意識と無意識の狭間。白い、ひたすら白い、けれどどこか見覚えのある空間に俺は漂っていた。

あーここ、なんか見覚えがあるはずだ。つい最近、正しくは一週間ほど前にも一度来たことがある場所だからね。さすがにまだ忘れてないわ。
そう気付いた瞬間、どこからかシャララーーンと気の抜けるような音がしたかと思うと、俺の目の前に現れたのはやはりアイツだった。見た目残念な神様こと、チャラ神である。

「君ね~、アラタくんだっけ?まさかこんなに早くまた死んじゃうなんて、これじゃ~せっかく立てた僕の予定が台無しじゃないか。もう、君の死んだ現場は、それはそれは悲惨な光景だったよ?分かるかな。君まだ死んじゃダメなんだよ。こっちにはもうしばらく来ないでくれないかな~」

また勝手なことを一方的に言ってくるチャラ神に死んだと断言された俺は、愚痴を聞く気力さえ残っていない。

「ねぇ、聞いてるの??まだこっちに来ちゃダメだって、言ってるんだよ?」
「うるさいな、ダメだと言われたって、もう俺は死んじまってんだから仕方ないじゃないか」
「あー、もしかして、アラタくんったら見た目に似合わず、「潔く死ぬのが男の美学だ!」とか言っちゃうタイプ?」

ノン、ノン、ノン!!

そう叫びながら鬱陶しく耳元で騒ぐチャラ神を俺は無視して、目を閉じただ漂うに任せて意識に蓋をする。もう何も考えずにすむように、それはただの逃げだと、あの人には怒られてしまうかもしれないけれど。俺だって疲れたんだから。少しぐらい休ませてくれよ。

「もぉー!!この頑固者ぉ~~!!!ふぅ~んだ!!寝たふりしても神様には全てお見通しなんですぅー!えいっ!!」

弱そうな掛け声とともにふるわれる神の一撃は、思ったほど弱くなかった。おいこら、普通に痛いんですけど!

「あーー、うるさい!!うるさいっ!!ねぇ、少しぐらい黙っててくれないかな!?俺これでも死にたてほやほやで、すっっっっっっっっっっっっっっごく、落ち込んでるの!!アンタに付き合って、バカ騒ぎする気力もないの!!」

ウザさにとうとう耐えられなくなった俺は、半狂乱になってチャラ神に猛抗議する。

「だからー、アラタくんが落ち込む必要は全然ないんだって。さっきから言ってるけどね、こっちに来られちゃ困っちゃうの」
「『困っちゃうの』って言われても、二度も死んだ俺にどうしろと?」
「へへ~ん、神様はなんでも知っているんだよ?日本語のことわざにもあるでしょう?「三度目の正直」ってやつだよ!ほらほら!」
「いや、ドヤ顔でそんなこと言われても。それってつまり、俺に三度めも死ねってこと?さすがに少しは休ませて欲しいんだけど…」

輪廻転生で生まれ変わるのか?神様、さすがに貴方チートですね。はい、パチパチー……、じゃねーわ!!嫌だからな、俺!

俺の心の中での盛大なノリツッコミに、チートな神様はニヤニヤしてる。勝手に人の心読んでんじゃねーわ、恥ずかしいだろうが!

「そうじゃないよ、ちょこっとだけおしいけどね。君を今すぐに輪廻転生の輪の中に加えることは、まだできないんだ。まだ、ね」
「へーそうですか」

だから貴方は、何が言いたいんでしょうかね。そろそろ、ハッキリさせてくれませんか?

「えーまだ続きやろうよ~~!プリーズ、ワンモアチャンス!ギブミ~!」
「ヤダね、却下」
「冷たくない?ちょっと君、神様に対して対応が冷た過ぎない??こっちは敬われてナンボの神様ですよ??」
「偉い神様は、アンタみたいにふざけたりしない」

ガガーーーン、と背景に無駄な神力でデカデカと効果音を書く神様なんて、アンタ以外いないでしょうよ。付き合うのもアホらしいから、早く話を進めてくれ。

「ふふっ、ふふふ。やっぱり君って面白いよね、そんな冷たいところも、ぼくはスキだよ~」
「こっちはアンタになんて、好かれたくないです」
「あ~~、その塩対応!クセになっちゃいそう☆」
「………………」
「………………」

「………………」
「………………」

「………………」
「………………」

「………………」
「………………」

「………ごめんなさい、ごめんなさい。無言は一番堪えます。そろそろ話を進めさせて頂きます」
「…それで?」


ここから聞かされた話は俺にとって、度肝を抜かれる、そんなとんでもない話の連続だった。いや、神なんだから、これぐらいなんでもないのか?だから、これも普通だと?
それなら俺にも一つだけ要望が有るんだけど、もちろん聞いてくれるよね?

「ほうほう、要望とな。もちろん、君の要望は全て叶えてあげるよ!まかせて、これでも腐っても神様だよ、ぼく!」
「じゃあ、貴方からはじめに頂いたチート能力は要りませんので、外してください」
「んなっっっ、なんですとぉっっっっ!!!?」
「だから、チートは要らないって言ってるんです」
「チートが不要なんて……。君、そんなに縛りプレイに燃えるタイプだったの??」
「あーもー!!ガタガタ言わずにさっさと外してください!マジでジャマなんですよね、アンタの祝福。いや、あれはもう呪いの類いだろ、分類的に」

そして再び現れる、無駄な、本当に無駄な、神力による目に見えるデカデカとした文字の効果音。それ、もーいいから。無駄なことしてないで早くしてくれませんかね?

「……………。
ーーハッ!?君のあまりの衝撃発言に、危うく昇天しかけてしまったよ!」

へーそーですか、そのまま昇天してくださっても結構ですよ?

「さすがぁ~~♪神がかった塩対応~~♪神は君じゃなくて、ぼくだけどぉ~~♪」
「変な曲作ってないで、さっさとしてください。こっちは向こうで待たせてる人がいるんですから。戻れるものなら少しでも早く向こうへ戻りたいんです!」

ふざけて歌い出す神なんてアンタだけだよホント。日本って他所の国よりも断然神様が沢山いると言われてる国だけど、アンタほどおちゃらけたキャラの神は存在してないから。

「ふふふ、そうかい。日本の神様はみんなお堅いのかね?
大丈夫、ちゃんと君の気持ちはわかってるよ。それでも少し、寂しくなってしまっただけだから。こんなにぼくと対等に話をしてくれるのは、君が初めてだったからね」
「…別に、今回が最期の別れでもないんじゃないですか?またもう一度、俺は確実にこの場所に来るんですから」
「ふふふ、そうだよね!それじゃあ、君とはそれまでの間お別れだね」
「次は何十年も先の予定ですけどね」
「何十年なんて、ぼくにとっては一瞬さ!ほらほら、ごめんよ。そんな顔しないで。ぼくのわがまま聞いてくれて、ありがとう。そして、次こそは君も、ぼくの世界で幸せになっておくれよ?」

あー、やられた。負けましたよ。さすが神様です。泣くつもりなんて全然なかったのに。最後にそんなこと言いますか。そんな顔して、言ってくれるんですか。

まったく。そんな顔するから、貴方の望みを叶えてあげたくなってしまったじゃないですか。
言われなくても、幸せになってやりますよ!

だから、見ててくださいね。アヴァーロ神様。

あとは一つだけ、貴方は間違ってます。日本語のことわざは知ってるって、自信満々にさっきは言ってましたよね?でも使い方、間違ってますから!俺はまだ、死んで蘇るのはこれでまだ二度目ですから!「三度目の正直」じゃないですよ!

まあ、色々言っちゃいましたが怒らないでください。湿っぽいのは苦手なんです。それじゃあ、そろそろ行きますね。しばらく待たせることになると思いますが、貴方にとっては一瞬なんですもんね。


「アレクさん、待ってて。もうすぐ会えるよ」

最期に薄ら覚えている、酷く悲しげな彼の声を思い出すだけで胸がギュッと締め付けられる。
一度は彼と過ごす生を諦めてしまった。でも今度は二度目の正直だから、三度目はいらない。

嗚呼、早く貴方に会いたいよ。アレクさん。





ーーーーーーーーー

〈+○$=%<side〉



「アラタくんってば、最期の最期に盛大な惚気を神の前で披露するとは…なんて恐ろしい子!もう、やっと行きましたね~」

はぁ、ホント全く世話の焼ける奴らだ………。
それにしても、泣き顔もなかなか可愛いじゃないか。羨まし、くなんてないぞ!
………うそ、ちょっと羨ましいな~アレクの奴め!
ふふふ、オレの正体はアラタちゃんに気付かれていないよな?さすが、オレ!
それにしてもホント面白い子だよな、あの子!『チャラ神』なんて奇抜なあだ名つけてくれる子、アラタちゃん以外そうそう現れないよ。断言できるね!
それじゃーオレも、特等席でゆっくりと見物させて貰うとしますかね!
あ、そうだった。アレクの奴になんて言い訳しましょう…。アイツ怒ると怖いんだよなぁ…。
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