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14.危険な花摘み

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結果は俺の予想通りだったと、ここに報告しておきます。

たしかに美しく荘厳な雰囲気の場所ではあったけど、パワースポットの効能が安産祈願だなんて、ちょっと予想してたとはいえ微妙すぎた。
安産か…俺も願っといた方がいいんかね。はぁ…。
真剣な面持ちで祈願する人達を横目に、俺は引きつった顔で笑うしかなかった。一応お賽銭は投げておいたよ。
そんな態度で罰当たりだって?だってさー、考えてもみてよ。この世界の神様って、アレだよ、アレ。お賽銭をドブに捨てるようなもんだよホント。

そんなこんなでテンションだだ下がりな俺と腹ペコな狼さんは、一路周りを見渡せる景色が最高だと人気の丘の上を目指して歩いている。ふうふう、結構いい運動になるな。
こちらにペースを合わせて少し前を行くアレクさんの大きな尻尾が、さっきから左右に機嫌よく揺れている。表面上は普段通りクールな顔をしてるけど、そうとう楽しみにしてくれてるみたいでこちらも落ち込んでた気分が徐々に上がってくる。
ここまでやって来たんだから、楽しまなくちゃ損だよな。

ほどなくして着いた丘の頂上にある展望台では、すでに数多くの様々なカップルや家族連れが各々プライベートな時間を満喫していた。その一角に俺たちも加わり、早速シートを広げお弁当を食べることにした。ベンチも数多く設置してあるんだけど、やっぱりそこはピクニックらしい雰囲気を出したいじゃないか。

「このいい匂いのする揚げ物はなんだ?」
「唐揚げですか?これ鶏肉を一晩じっくり下味をつけておいたので、とっても美味しくできてると思いますよ。たくさんあるので、どうぞ食べてください」
「唐揚げは食べたことがあるが、これは使っているスパイスが違うのか?」
「そうなんです!よく気付きましたね!カレーの粉があったんで混ぜてみたんですよこれ」
「ほう、カレーの粉とは聞いたことがないスパイスだな。うん、これは美味い!」
「こっちに普通の味のもありますよ」
「どちらも美味しいな。この三角に握った米はおにぎりというやつか?」
「ええ!アレクさんよく知ってますね!これも中に色々と具を混ぜて握ってるんですよ。こっちが魚で、こっちは~……」

意外と日本食の知識があるアレクさんと盛り上がりながら食べるお弁当は美味しかった。自分にはそれほど料理の知識がないと言っていたのに、まさか日本食について調べてくれたりしたんだろうか。そのちょっとしたアレクさんの俺への心遣いがじんわりと暖かくしてくれる。
作れる品数はそれほど無いけど、そのかわりに味のバリエーションなどでごまかして、色々と工夫した料理を褒めてもらえるのは嬉しい。ちょっと形が歪なのはご愛敬ってことで多めに見てくださいな。

「はあー、たくさん食べたな」

満足そうにお腹をさするアレクさんを横目に、俺は今ちょっと困ったことになっていた。ずっと我慢してたけど、そろそろ限界なんです。

「トトト、」「??どうしたんだ、アラタ?」
「トイレ!!!!!」
「アラタ!おい!?」
「ごめんなさいっ!!すぐに戻りましゅからっ!!!」

慌てすぎてちょっと噛んでしまった。
展望台でのお昼ご飯は最高だったけど、トイレが少し遠くにあったようだ。テキパキと片付け始めるアレクさんを置いて、一人で俺は丘を下る。お前も一緒に片付けを手伝えよ、と思ったそこの貴方。ちょっと今、色々と
ギリギリなんです…そこら辺は察してください…。
かなり慌てていた俺は、背後で焦ったような声で俺を呼ぶアレクさんに気が付かなかった。




「ふぅ、なんとか間に合った……」

争い難い生理現象から解き放たれて至福の時を堪能した俺は、出し尽くして心持ち軽く感じるブツをしまい、ご機嫌に鼻歌まで歌いながら手洗い場へと移動する。手洗い場といっても、水の入った瓶が手酌と一緒においてあるだけなんだけどね。

さて気になる異世界のトイレ事情なんだけど、そこら辺はやはり転移者の要望が多かったとかで、向こうでよく見かける公園なんかの簡易的なトイレぐらいには整備されている。
でも流石にウォシュレットや水洗ではなくて、昔ながらの汲み取り式みたいだけど、そこら辺は魔法でなんとか清潔に保たれているんだとか。便利だよな、魔法。

そんな風に呑気に異世界のトイレ事情を考察しながらハンカチで濡れた手を拭っていた俺は、背後から突然現れた人物にあっという間に羽交い締めにされてしまった。そういえば、慌てていたから気づかなかったけど、周りには人影がなくて俺一人だけだったようだ。そこを狙われた。

「いいか、騒ぐなよ。もし騒げばこの場でた~っぷり可愛がった後に嬲り殺してやろう。騒がずにオレに大人しく従うか、今ここで死ぬか、選べ。死にたくはないだろう?」

ドスの効いた冷たい声に脅されて、大人しく頷くことしかできなかった。背後から羽交い締めにされている為、俺からは相手の顔を伺うことはできない。ドクドクと早鐘を打つ心臓が痛い。背後で掴まれた腕がヒヤリと冷たい皮膚に触れているが、相手が鱗のある種族だと分かっても、なんの慰めにもならなかった。極度の緊張のためか、周囲の賑やかな喧騒がどこか遠く感じる。信じたく無い現実に目を晒すかの如く視界に霞がかかるようだ。

「歩け」と命じられて、腕を背後から握られたまま、男と共にトイレを後にする。周囲にバレないようにピッタリとくっ付いて離れない男の体温が酷く気持ちが悪い。

「まさか、祝福持ちがこんな無防備に一人でほいほい歩いてるなんてなあ。ちょいと色気は足りんが、これはこれで需要はたんまりあるだろうよ」

クヒヒヒと卑しく笑う男の言葉に、自分はなんて迂闊なんだと後悔してもすでに何もかもが遅い。

「はぁ~たまんねぇな~。これが祝福持ちの香りか。ガキは好みじゃねえが、売っ払う前にオレ達・・・が隅々まで可愛がってやるぜ。もうしばらく待ってな!」
「ゔぐぅ……」

顎が外れそうな程物凄い力で掴まれ背後に引っ張られると、残忍な爬虫類の顔をした男の欲望に濡れた瞳と目が合う。恐らくこいつは冊子に載っていた中でも、とくに危険な部類の種族だったはず。鱗持ちは危険だ。そう散々聞かされている俺は、動くことが出来ない。

大きく左右に避けた口から伸びる細く長い舌が、にゅるりと顔を舐め上げる。その生臭く、ヌメヌメとした気色の悪い涎が頰を伝って落ちていく。微かに震え怯える俺に満足したのか、ニマニマと笑う男はまた「さっさと歩け」と命令してくる。

迂闊だった、本当に俺は自分のこの世界での扱いを理解しているようで本当には理解できていなかったんだ。俺の周りが特別優しい人ばかりだったから勘違いしてしまっていた。いや、周りのせいにしてはダメだ。考えが足りなかった。そして、覚悟も足りていなかった。

こちらに来てから毎晩続けられている、アレクさんとのあの行為。時には触れられるのを嫌がり拒絶してしまった行為が、どんなにこちらに配慮された優しいものだったのかを今になって理解してしまった。

…泣くな。まだだ、まだ諦めるな。アレクさんはきっと気付いてくれる。それまでバカな真似はしちゃいけない。
ここでやけになっても、死んで終わりだ。
なにかないのか、俺がここにいることを知らせるなにか。
考えろ、簡単に諦めるな。なにかあるはずだ。

ノロノロと歩く俺に痺れを切らしたのか、後ろから忌々しそうに舌打ちしながら男の蹴りが飛んでくる。人気が無くなった隙に何かで縛られたのか、腕が動かせない。ろくに抵抗もできずに顔から転び、強く打ったのか鼻血が垂れる。手でそれを拭うこともできない俺は、倒れたままの姿勢で流れる血を草に擦りつけて拭う。下敷きにした草には俺の血がべったりと付いていた。

「チッ、こっちはお前さんをなるべく傷を付けずに運びてぇんだ。オレをあんまり怒らせるんじゃねーよ。もっと早く歩きな」

苛立つ男の声を無視して、その後もなるべくゆっくりと歩き、何度か痺れを切らした男に蹴られて転ぶことを繰り返し、辿り着いたのはとある船着場。時間稼ぎできる機会チャンスは、どうやらここで終わってしまったようだ。
それと同時に、背後の男と似たような格好の男達が船からゾロゾロと出てくるのを目にして、争い難い絶望が俺の胸を押し潰していった。もうダメなのか…。

「さぁ、乗りな」


ーーー助けて、アレクさん
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