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8.騒がしい客

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午後から初日に悲惨な状態になってしまった庭を修復するために、庭師がやって来る。それだけならわざわざ帰宅して家で待つこともないのだが、その庭師の中には俺と同性の転移者の人もいるというので、予定を変更し慌てて帰宅したのだ。
だって、これはまたとないチャンスだろ。
チャラ神の呪いと言う名の祝福(矛盾が酷い)経験者の先輩に、色々と聞きたい事がある。と言うか疑問だらけだ。
だから、こんなにも早く会える機会がもててよかった。




ーーーーーー




待っている間にいつの間にかソファーでうたた寝をしていた俺は、激しく叩かれるドアの音に驚いて床に転げ落ちた。ぶつけた腰と尻が痛い。
情けなく腰をさする俺とは違い、気配で来訪者を察知していたのか、すでにドアへと向かっていたらしいアレクさんは、一人の男性を伴ってすぐにリビングへやって来た。

「どうぞ」
「おじゃましまーす」

クセのあるくすんだ金髪に、美しいヘーゼルアイ、彫りの深い顔立ちのマッチョとまではいかないが、ヒョロヒョロの俺からしたら充分な逞しい肉体美が目に眩しい青年だ。歳はまだ三十代後半ぐらいといったところだろうか。
汚れてはいないが軽作業をやりやすそうな服装からして、彼が転移者の庭師で間違いなさそうだ。
まあ、鱗や獣の耳などがない時点で彼が転移者お仲間なのは間違いようがないのだが。

「新入りが来たって聞いたんだけど、どこにいるんだ?」
「アラタならあそこだ」

アレクさんに指差され、俺と青年の目が合ったが、なぜかすぐにそらされた。

「いやお前、ありゃどう見ても未成年だろ。どっかの転移者んとこのガキじゃないのか」

言葉は酷いがどこか困惑ぎみな彼の表情に、これがよく聞く東洋人あるあるなんだな、と思いながら俺は苦笑いで答えた。

「日本では18歳はまだ未成年ですから、ガキと言われればガキですが」
「なにっ!こんなチビで18だと?
……ってちょっと待て!今こいつ未成年って言わなかったか!」
「チビで悪かったですね…」
「身長なんか、今は関係ねえ!」
「なっ…そもそも貴方が先に言い出したクセに!」
「まあ二人とも落ち着け。とりあえず座って話そう」

アレクさんのとりなしで、青年はドカリと俺の向かい側へと座った。
ソファーを挟んで睨み合う俺たち。気まずい沈黙を破ったのは青年の方だった。

「怒鳴ってすまなかった。改めて仕切り直そうじゃないか。
俺はエヴァン、地球ではアメリカに住んでいた。5年前にこっちへ呼ばれた転移者だ」
「俺は角倉 新かどくら あらたです。地球では日本に住んでいました」
「よろしくな、アラタ」
「はい」

エヴァンさんから差し出された手をなんの疑いもなく握ると、急に引き寄せられ、意地悪な色をしたヘーゼルの瞳がすぐ目の前にあった。突然の行動に驚いて固まっていると、顎を捕らえられてジッと正面から見つめられる。
一体なにがしたいんだ、この人は。

「握手はしちゃダメだと、隣の奴に教わらなかったか?」
「あっ!」

エヴァンさんに言われて、俺はやっと気が付いた。そう言われれば、こちらでは握手は特別なサインだったじゃないか。

「俺に拐われてもいいってことだよな?」

ニヤニヤと笑いながら、結構な力で俺を強引に引っ張り自分の横へと座らせるエヴァンさんは、からかい甲斐のあるターゲットを見つけたいじめっ子みたいな顔をしてる。ジャイ●ンか。

「エヴァン、アラタはまだ昨日こちらへ来たばかりなんだ。こちらの風習に慣れるまでは、多少大目に見てやってくれ」
「そんな風に甘やかして、後々困るのはコイツなんだぞ?俺はこの握手に一番苦労したから、先輩からの忠告として覚えておけよ」 
「はい、エヴァンさんありがとうございます。あのアレクさん、ごめんなさい…次からはきちんと気を付けます」
「俺は別にアラタを甘やかしてはいないし、これからしっかりと教えていくから大丈夫だ」

冷静な態度を崩さないアレクさんが面白くないのか、むうっとむくれるエヴァンさん。アヒル口になってますよ。
揶揄うのが失敗して悔しいのかもな。
表情といい、言動といい、子供っぽい人だなエヴァンさんって。

「チッ、こんな青臭えガキにも手を出しやがって…。お前、ちゃんとアッチの方は手加減してやってんだろうな!」
「ちょっと…な、なに言ってんですか!やめてくださいよ!」
「手加減も何も、まだ指も入れてないんだが」
「わぁーーあー!アレクさんも!ちょっと、なに言ってんですか!」

突然始まった二人のあけすけな会話が、奥ゆかしい日本人の俺には耐えられない。

「なにぃーーー!!俺の時はこっち来てすぐ、なんの説明もなしにズコバコ掘られたんだぞ?!しかもアイツ、なかなか終わらねーし、1週間は問答無用でヤラレまくったぞ!!」
「えぇっ、1週間?!」
「それはまた、災難だったな」
「そうだ!ひっでえだろ!!あんときゃまじで死ぬかと思ったぜ!!女相手なら結構場数を踏んでたが向こうでは俺もノーマルだったから、尻はバージンだったんだ。そもそも、あいつは………」

エヴァンさんのあまりの勢いに、思わず頷いてしまった俺。そしてそこから勢いの止まらないエヴァンさんの、怒涛の愚痴トークが始まった。
やれ旦那が巨根すぎて同衾が辛かっただの、仕事にも細かく口出されてイライラするだとか、子供ができてから態度が変わりすぎだとか。息つく暇もなく愚痴が止まらない。
こっちが相談しようと思っていたのに、これはどうしたらいい状況なんだろうか。
唯一の頼みの綱のアレクさんは、真剣な顔でエヴァンさんの話を聞いている。こちらも頼れそうにない。

話は最近誘っても有耶無耶にされて断られるという、セックスレスのことまで及び、奥ゆかしい日本人の俺には上手い対処法が全く分からないが、ガッチリ抱きこまれていて逃げられない。
どうしたらいいんですか、これ。

「一つ質問してもいいか?」
「ああ。俺に答えられることなら、なんでも聞いてくれ」
「旦那の態度が急に変わったのは、子供を産んでからなんだな?」
「そうじゃないか、としか言えねえが。段々と冷めた顔をしだしたのは産んだあとからだった」
「言いにくいことだが、二人の間に子供が産まれ、祝福の呪縛が解けたんだろう。…それにしても貴方の相手は酷い奴だ」
「祝福の呪縛か……。なんだよそれ…。もとはといえばあっちから激しく俺のことを求めてきたくせに、子供ができた途端ころっと態度を変えやがって…納得できるかってんだ!」

呻くように吐き捨てて暗い顔で俯くエヴァンさんの目元には薄ら涙が浮かび、きつく噛み締めた唇が痛々しかった。

こんなエヴァンさんの状態ではとてもじゃないが、相談なんてできそうもない。子供のこととか、出産や育児のこととか、疑問は尽きないが、こればかりはしょうがない。日本人は場の空気を読む民族である。
それに、これは俺にとって全くの他人事じゃない。将来自分がこうなるかもしれない未来の姿なんだ。

重苦しいお通夜のような空気の中、突然荒々しくドアが開けられ、一人の獣人が入ってきた。鍵はかけてなかったのかな…。
けして狭くはないうちの玄関が窮屈に見える、2メートルはあろうかという巨体のグリズリーが、怒りに毛を逆立てて恐ろしい形相で牙を剥きだしにしている。
ぐ、グリズリー、きたーー!こっわ!なんか俺睨まれてない?

「シリウス…!」 
「どういうことだ…!急に一人で先に出たと思ったら、客に色目を使うなんて…!」

突然現れたグリズリーこと、シリウスさん(仮)は、もしかしてエヴァンさんの旦那さんなのかな。めちゃくちゃ怒ってるみたいだけど、怖すぎる…。

「はぁ?なに言ってんだよ!誰が色目なんて使ったって!」
「目の前で堂々と抱きついているクセに、言い訳が通用すると思ってるのか!
やはり君に仕事なんてやらせるべきじゃなかった!」

これは、修羅場というものが始まってしまった感じなんだろうか。
そろそろエヴァンさん、手を離してくれないかな…。
俺は絶対安全なアレクさんの隣に座りたいです。
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