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4.アヴァーロ神の祝福

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現代風カフェのテラス席で、パスタをクルクルと器用に巻いて食べるアレクさんの姿を見ていると、異世界へ迷い込んだのは自分の方だということを忘れてしまいそうだ。

皿にはパスタだけでなく、こんもりと肉も山積みで肉食獣人向けになってる。
べろりと口の周りを舐めとる仕草は人だったら眉を潜める仕草なのに、彼がやると野性的でとてもワイルドで艶かしい舌の動きにさえドキドキする。

知らなかったとはいえ、この人に俺は熱烈な「好きです」アピールをしてしまっていたなんて、穴があったら、いや…自分で掘って地中深くへ埋まっていたい。
アレクさんは、あの時どう思っていたんだろう。このまま知りたく無いような、聞いてみたいような…。

「これから行くアラタの新居に、護衛の関係上俺も一緒に住むことになるから。よろしくな」
「へぁっ?!一緒に…ですか?!」
「お前さてはちゃんと説明を聞いてなかったな?受付で説明されたはずだぞ」

たしかに受付のお姉さんの獣耳と尻尾に夢中で説明中は上の空だったけど…そんなの聞いてないよ!

「ぅあ…すみません。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」

少し困ったような顔もカッコよく見えちゃうなんて困るよ。初めて見たときに襲ってきた野獣と混同して怯えてたのが嘘みたいだ。



「え?求愛されるって……俺が?」
「異世界人はこっちでは人気があるからな。そのうち嫌でも分かるさ」
「求愛……つまり、こちらに来たら強制的にモテ期が到来するってことですか?!」
「モテキ?」

なんてこった、聞きました?モテ期が来るんだって。
このモブ属性の俺に。モテ期だって。嬉しいから何度だって言っちゃう。

「あー、そうか。だからあんなに詳しくしおりに載ってたんだ!モテ期、最高ー!!!」
「モテキがなんだか分からないが、残念ながら喜んでばかりはいられないぞ。色々と面倒な奴らが多いからな、アラタも気を付けろよ。贈り物を受け取ると有無を言わさず了承されたと勘違いされ、そのまま連れて行かれて結納が交わされる。結婚を望まない相手からの贈り物は決して受け取らない方がいい」
「…ぇ?」
「あと鱗ある種族は普段は大人しいが、あいつらは本来好戦的で、断られれば最悪逆上して暴れることもある。危険だと感じたら近付かないことだ」
「…モテ期…やったぁー…」

気のせいかな…俺の思ってた『モテ期』とは少し違う気がする。なんかいちいち物騒なんだよな。そういえば、しおりにも沢山注意が書いてあったような…。え、あれって俺も対象なの?

「どうした?口に合わなかったか?」
「…いいえ、美味しいです。ただ少し俺には量が多いかな」
「アラタは随分少食なんだな」

なんか一気に食欲が失せた。もとからそんなに食べる方じゃないけど。

「アラタはアヴァーロ神から「神の祝福」のことはなにか聞いているか?」
「いいえ、なにも。あの神様がアヴァーロという名前だってことも知りませんでした」
「…そうか。じゃあ、まずはそこからか」

ゴクリと水を飲み干し、言いにくそうに切り出すアレクさんの態度にとても嫌な予感がした。

そうだ。ずっと忘れてたけど、チャラ神がさいごにサラッともらした「望まぬ妊娠」だか「セーフセッ××」とか、あれは一体どういう意味だったんだろう。

「転移者はアヴァーロ神によりこちらへ渡る時際に、男女共に子を産める体に作り替えられていると言われている」
「…は?」
「転移者は子を産める」
「…なん、で…アヴァーロ神はそんなことを?」
「それは、こちらの住民がある時から急に妊娠しずらくなったからだ」

アレクさんの説明によると、元々こちらの住人は両性が多く繁殖力も普通だったそうだ。
まず両性が存在するという事に驚いた。両性は寿命が長く強い種族に多いらしい。一応聞いて確認してみたらアレクさんは雄型だそうだ。

説明を聞いてなるほどな、と納得がいった点もあった。おもてを歩いている人の中で女性が異常に少ないこと、そして転移者は必ず女性が選ばれるとは決まっていない点。

チャラ神の体を作り替えるという裏技でそこら辺はカバーされているけど、強制的にモテ期が到来する神の祝福はそのためにあるのかもしれないな。

男でも妊娠を強制される世界だなんて、聞いてないぞ!
しかも、そんなモテ期いらないっての。俺を非モテモブに戻して…。




ーーーーーーーー

〈アレクside〉




扉をノックすると、すぐに中から応えが返ってきた。
入室と共に鋭い視線に射止められる。

「今回はお前か、アレク」
「はい、そのようです。今回の転移者は、カドクラ アラタ、18歳、小柄な男性で黒髪黒目のアジア系、ニホンジンだそうです」
「またニホンジンか。最近はアジア系がやけに多いな。まあ、ニホンジンはたいてい飲み込みが早くてこちらとしても助かるんだが、今回はお前が相手とはな」

深いため息を吐きこちらを睨み付ける鋭利な顔をした狼の獣人は、俺の上司でこの隊のトップ、つまり纏め役。俺と同じルーガルーのルーヴ。血は遠いが一応親族ではある。

銀灰色の被毛に青い瞳、ルーガルーらしくがっしりとした体格。ルーヴは森へ捜索に出ていた俺とは違い、内勤用の羽織を着ている。

「アレク、お前はあまり乗り気じゃないタイプだと思っていたんだが、違ったのか?」
「そうですね…正直助けるかどうか悩みましたけど。抗えない何かを感じたと言ったら、信じて貰えますか?」
「はっ!そんなもの、忌々しい神の祝福の効果せいだろうが!」

声を荒げるルーヴに、俺は明確な答えを返せなかった。俺がアラタに興味をひかれたのが神の祝福のせいだと思いたくはない。
それが明確に分かるのは、子が生まれてからだ。

異世界転移者に俺たちのような目付役が必ずつくのには諸々の理由がある。

まず彼らが現れる場所がなぜか人里離れた所であること。だいたいが野獣が多く森でも浅い所ではなく、深部に限られているため、その分捜索する人員にも相応の実力が求められる。

その他にも彼らは全ての生物に異様に好かれる体質であるため、害意あるものにも非常に狙われやすい。普段街で生活する程度なら狙われることはないが、アラタを街まで送り届ける間、森では絶え間なく野獣の襲撃があった。
もしあのまま野獣に捕まっていれば、犯されて食い殺される運命が待っている。

またこちらの住人にも過度に好かれるため、頻繁に付き纏われたり、強引な者が拐って監禁しようとするなど問題を起こすことも多く、保護という名の継続した監視が必要なのだ。

あとこれは隊内部では公然の秘密でもあるのだが、保護した者が転移者を娶る率がかなり高いことから入隊倍率は毎回異様に高い。

現在ストゥラニェ一ロには、約250名の隊員が所属している。毎回その中でも50名ほどで捜索にあたる。配偶者の決まった隊員はそのまま専属となるので配置換えとなるが、転移者の神の祝福がなくなれば現役に戻る者もいる。

神の祝福とは転移者がこの世界に愛されること。失う条件はこちらの者との間に子をなすこと。

男女共に子をなせる体に作り替えられた転移者たちは、子供をその身に宿すことでようやくこの世の理から解放される。

子をなすのは転移者同士でも可能だが、その場合産まれた子に祝福が親から引き継がれることになる。

この場合厄介なのは、男性の方は転移者の女性と子をなしても本人の加護が失われないということ。
神の祝福から逃れたければ、父親となる代理をたて本人が子供を産むしかない。

そのため両親が転移者同士だと、必然的に異父兄弟になってしまうのだ。

転移者の中でも平穏を欲して、子供だけ授かりたいと願う者もいたりするのだが、そういう輩はだいたいろくな相手に捕まらない。

酷い例だと妊娠しないよう施術され、それ用の施設で保護という名の男娼紛いの扱いをされる。それも、体格や趣味趣向のため相手が見つけづらいような種族だったり、性癖の者だったりする。

稀に施術を免れた者も、繁殖のための道具として死なないように管理され使い潰されていく。

神の祝福とは、はたして転移者にとって本当に祝福と呼んで良いものなのだろうか。界渡りの代償がこれでは、あまりにも可哀想ではないか。

「まあ、俺にはお前の気持ちも分からなくはない。だがこれだけは十分気を付けろ。お前が転移者アラタの心も守ってやれ」
「心、ですか」
「転移者は本来向こうで死んだはずの者たちだということは知っているだろう。事件や事故で死の恐怖に晒された者や、自分で死ぬことを選択した者もいる。彼等の精神は非常に脆い」
「死ぬとは、どんなものなんでしょうね…」
「さぁな、俺たちがそれを理解した時にはもれなくあの世行きだ。試したくもねぇな」
「…ですね」

この世界の理不尽な愛からアラタを守ろう。
そのためなら、神の掌の上で踊ってやろうじゃないか。望むところだ。
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