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プロローグ:タイムリープ

目が覚めると平成4年

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「わぁっ!」リュウは大声をあげて飛び起きた。
「生きてる…」リュウは心の底から安堵した。窓から差し込む光が眩しい。朝らしい。

周囲をゆっくり見回す。布団の上である。が、病院ではないらしい。どこか懐かしい空間。
「なんか覚えてる場所だぞ…。」

四畳半の狭い部屋。あるのは布団、小さなローテーブル、小型の単身者用冷蔵庫、積み上げられたプラスチックの衣装ケースだけだ。
「この昭和な雰囲気の空間は…」リュウの記憶が蘇ってくる。「こりゃ俺の学生時代のアパート『大・下宿館』じゃないか。」

リュウは立ち上がり、ウロウロしてみた。壁に画鋲でカレンダーが留めてある。
「平成4年…西暦1992年…だと?」リュウはつぶやく。
「あぁ。そりゃそうだ。俺大学一年だもん。今日は休講だったな。」リュウはすぐに「元通り」になった。

リュウには昨晩寝るまでの記憶が完全にある。と同時に、81歳でバイクで転倒するまでの未来の記憶もまた完全にある。

タイムリープもののSF小説やコミックでは、タイムリープした主人公の意識は未来の世界から飛んできており、未来の世界では主人公は昏睡状態というパターンが多い。またタイムリープ先の過去の自分は、未来の世界から飛んできた自分の意識に乗っ取られているパターンが多い。

リュウの場合は、81歳までの記憶を保持したまま時間が巻き戻ったケースである。したがって未来の世界で意識が戻ってくるのを待っている昏睡状態の自分、は存在しない。

つまりリュウは、正体は81歳の老人である若者、ではない。未来の記憶や経験を保ったまま、正真正銘の若者に戻ったのである。

「それにしても」リュウは腕を組んで首を傾げた。
「なんでこんなことが起きたんだ?」リュウは部屋の中をウロウロ歩き回りながら考えた。
「こういう場合って、目を覚ますとまず女神様?みたいのが迎えてくれるもんじゃないの?」
「それで目的を教えてくれたり。それからスキルを授けてくれたり。」
「おーい!女神様ーっ!」リュウは天井を見上げながら呼びかけてみた。しーん。何の応答もない。リュウは天井をじっと見つめたが、見えるのはシミだけだ。
「異世界に転生したわけじゃないもんな…。」リュウはため息をついた。「俺のはタイムリープのケースか…。」
「せめて何かスキルが付与されてたりしないのか?」リュウは全身を観察してみたが、なんの変化も見いだせない。
「魔法が使えるとか?」リュウは左手をバッとカッコよく突き出してみた。が何も起きない。
「あの光るカッコいい魔法陣みたいなやつ、出ないな…。」リュウはシュンとした。
「詠唱か?」しかし詠唱すべき魔法の術式などカケラも思い浮かばない。
「身体強化か?」飛び跳ねてみたり、冷蔵庫を持ち上げようとしてみたりしたが、なんの変化も無い。
「なんなんだ。わけがわからないよ。女神様っ、返事してくださーいっ、おーいっ」無論返事はない。
「ただタイムリープして大学1年からやり直すだけってこと?」リュウは途方に暮れてへたりこんだ。
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