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プロローグ:タイムリープ

職業:メタバースクリエータ

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2052年の現代では、或る画期的な科学的発見とその後の爆発的な技術進化により、フルダイブ型メタバースが普及しつつある。このメタバース空間は、実際の身体は別の場所にあるVRMMOやマトリックスと異なり、アバターではなく本物の自分自身の身体を使って参加することができる。

これを可能した科学的発見は、光のある特殊な波長帯「X波長帯」の発見であった。X波長帯の光は人間の眼には見えない。いわゆる不可視光線である。しかしこのX波長帯の光を用いると、眼球を介して脳にあらゆる情報を伝達できることが発見されたのである。

2024年でも光は既に情報通信に活用されており、動画などあらゆる情報が光で送受信されている。使用されている波長は1310nm帯や1550nm帯である。

これら1310nm/1550nm帯とX波長帯の違いは、X波長帯の光で送信された情報は眼球を介して脳で直接、受信及び処理ができる点である。

このX波通信を用いて、あらゆる感覚や情報をプレーヤーに伝達することができる。感覚は、映像、音声、嗅覚、味覚、触覚、そして性感、これら全てを伝達可能である。プログラムでコーディングされた感覚であるため「人工五感アーティフィシャルセンス」という。

また複雑な情報を瞬時に送り込み、記憶に一時的に保存させることも可能だ。これを利用して、例えばゲームの世界観、設定、「これまでのあらすじ」などを、プレーヤーの「記憶」として一時的にインストールすることも可能だ。この記憶は、プレーヤーもなんとなくこれは夢だなと意識するが、メタバースからログアウトすると完全に夢であったと認識される。この特徴から「揮発性仮想記憶フィクショナル・メモリ」と呼ばれている。

更に、特殊なデバイスを用いてプレーヤーの周辺環境をスキャンしてクラウドに送信し、量子コンピュータでリアルタイムに書き換えてプレーヤーにフィードバックする技術により、メタバースは一層の進化を遂げた。この技術を「認知即時書き換えリアルタイムオーバーライト」という。

「認知リアルタイム書き換えオーバーライト」は、プレーヤーが窓を見ると窓の外には南国の海が広がっている、あるいはプレーヤーがアパートの風呂で大浴場気分を満喫する、といった効果に利用されている。

実際には物理的に存在しないNPCも、「認知リアルタイム書き換えオーバーライト」でメタバース空間に登場させることができる。NPCには、AI制御で高度な自律行動を取らせることが可能だ。

これらを実現するゲーム機には、X波長帯信号をクラウドから受信し眼球に照射する機能と、周辺環境をスキャンしてクラウドに送信するセンサー機能が必要だ。

当初ゲーム機はバカでかいゴーグル型であった。今では僅か2ミリ四方程度の金色のチップに進化しており、コンタクトレンズの中に埋め込まれている。プレーヤーはこのコンタクトレンズをはめてメタバース空間にログインする。設定や操作は、高度生成AI音声アシスタントに呟いて行うのだ。

リュウの職業はメタバースクリエータである。例えばバナナの甘い香り」の「人工アーティフィシャル五感」をプログラムしたり、格ゲーであれば「僕が今、不良たちにケンカを売られているいきさつ」のような「揮発性仮想記憶フィクショナル・メモリ」のシナリオを作成したりするのが仕事だ。これらはライブラリとしてクラウドに保管され活用されるのである。

膨大な人数のクリエータにより世界中で開発されたライブラリは今や莫大な量になっている。が、バイクツーリングの擬似体験のように、メタバース空間では十分に実現できていない体験・経験エクスペリエンスはまだまだ多数ある。
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