1 / 3
1994年 始まり
しおりを挟む
...目覚めると無機質なコンクリートの灰の天井が私を出迎えた。
体が重く起き上がる事が難しい、ゆっくりと横に顔だけを倒す。
私はボロボロのソファの上に寝かされていた事に気づいた。ソファからかび臭い匂いが鼻につき、酷く咳き込んだ。
「ここは...。」
ぼんやりとした意識で首を動かし辺りを見渡す。
暗く湿っぽい空間。見渡す限り死んだ灰色。
部屋にしては酷く殺風景で寂しい。多分ここは廃墟か何かだろう。
状況が読めない自分に無理に納得させた。
──今思えばあの時。どうやってここに来たのか、何故ここに寝かされていたのか見当もつかなかった。
割れたガラス窓から、夜の月が顔を覗く。
「寒い...」
夜の淡い冷えた気が私の身体に触れ身震いを起こさせた、震える身体に鳥肌が立つ。
...私はこんな所でずっと寝ていたのか。
一刻も早くここを出なければ。
鼻をすすり起き上がろうとする。
「.....っ!」
...全身に力を入れた瞬間、後頭部が痛みだした。
ズキズキと釘で頭を割られているかの様な激しい痛みに私はうぅぅと呻いた。
気が引けるが頭の後ろを右手で触ると髪がどろりと何かで濡れていた。察したくはなかったが、それだけで私に何が起こっているのかは容易に想像出来た。
何処かで頭でも打ってしまったのだろうか。
それとも誰かに殴られたのか。
...いやその両方かも。冷たい現実から逃げるように天井を仰ぎ見る。
だが変わりなくそこには死んだ灰色が佇んでいるだけだった。
■
何分その場にいただろう、覚えてはいないがこの場所では時間でも遅くなっているのか数分でも何時間とも思えた。
...ふと、奇妙な感覚に襲われ左手を見る。
麻痺しているみたいに左手は絶えずびりびりとした感覚を私に送っていた。
痺れたんだろう。当時の私はそんな事しか思いつかなかった。
...いや、思い込むしかなかったのかもしれない。
厭な予感がして左手を目の前に高く挙げてみる。
「えっ?」
厭な予感は現実へと、変様した。
私の驚く声が空間に響き渡る。
それもその筈、左腕がぴくりとも上がらないのだ。
「嘘でしょ...?」
右手で左腕を持ち上げる。左腕に触られた感覚はなくまるで冷たい粘土を持っている様。
私の頭は左腕に何度も指令を出すが反応がない。左腕はうんともすんとも言わず肩からぶら下がるモノに成り下がってしまった。
夢だと信じて、頬を叩いたけど痛いだけだった。
夢じゃないと分かった時私は泣いていた。
独りのこの状況下でおかしくならない理由がなかった。私は自暴自棄になり動く筈もないのに自分の左手を叩いていた。「叩けば直る」にしてはあまりにも阿呆らしい。
...時間が経ち少し正気に戻った私は青い痣が付いた左手を見ると今度は可笑しくなり笑みがこぼれた。
なんてことしているのだろう。
本当に馬鹿みたいじゃない。
「...そんな事するより、助けを呼ばないと。」
狂った笑いが収まると、突拍子もなく私から、言葉が漏れる。
戸惑いを隠せなかったが、私の考えだと、ひとつも疑問も持たなかった。
それもそうだ。この儘ずっとは居られない。
痛いのを我慢して、起き上がる。
「...っ!!」
ベットから脚に力を込め立ち上がった瞬間。私は膝から倒れ込んだ。
地を踏んだ瞬間脚にも電撃に打たれた痛みが走ったのだ。
「.....いったぁ...。」
駄目だ。とても歩ける身体ではない。
「ん...?」
...不意に。
目の前に、何かがあることに気づく。
なんだろう。それは月光の影に隠れよく見えない。
ぼやける視界に目を凝らすとそれは薄く四角いものだと分かる。
電撃が走る程の痛みに耐えながら、芋虫の様に床を這いずり四角いソレを持ち上げた。
「なに...これ...。」
ソレはとある学生証だった。
顔写真は剥がされコンクリートに擦られ汚れていて、読むのにも一苦労かかる。
「晨乃(あさの)高校...一年...。むら...し?...紫堂(しどう)...れ...怜(れい)...?」
誰だろう。そんな名前、私の記憶にない。
でも、この名前は私の事かもしれない。
あれ?
私の名前って...
「.....。」
自分の名前が思い出せない。
私はあの時。1994年。記憶と左手を失っていた。
体が重く起き上がる事が難しい、ゆっくりと横に顔だけを倒す。
私はボロボロのソファの上に寝かされていた事に気づいた。ソファからかび臭い匂いが鼻につき、酷く咳き込んだ。
「ここは...。」
ぼんやりとした意識で首を動かし辺りを見渡す。
暗く湿っぽい空間。見渡す限り死んだ灰色。
部屋にしては酷く殺風景で寂しい。多分ここは廃墟か何かだろう。
状況が読めない自分に無理に納得させた。
──今思えばあの時。どうやってここに来たのか、何故ここに寝かされていたのか見当もつかなかった。
割れたガラス窓から、夜の月が顔を覗く。
「寒い...」
夜の淡い冷えた気が私の身体に触れ身震いを起こさせた、震える身体に鳥肌が立つ。
...私はこんな所でずっと寝ていたのか。
一刻も早くここを出なければ。
鼻をすすり起き上がろうとする。
「.....っ!」
...全身に力を入れた瞬間、後頭部が痛みだした。
ズキズキと釘で頭を割られているかの様な激しい痛みに私はうぅぅと呻いた。
気が引けるが頭の後ろを右手で触ると髪がどろりと何かで濡れていた。察したくはなかったが、それだけで私に何が起こっているのかは容易に想像出来た。
何処かで頭でも打ってしまったのだろうか。
それとも誰かに殴られたのか。
...いやその両方かも。冷たい現実から逃げるように天井を仰ぎ見る。
だが変わりなくそこには死んだ灰色が佇んでいるだけだった。
■
何分その場にいただろう、覚えてはいないがこの場所では時間でも遅くなっているのか数分でも何時間とも思えた。
...ふと、奇妙な感覚に襲われ左手を見る。
麻痺しているみたいに左手は絶えずびりびりとした感覚を私に送っていた。
痺れたんだろう。当時の私はそんな事しか思いつかなかった。
...いや、思い込むしかなかったのかもしれない。
厭な予感がして左手を目の前に高く挙げてみる。
「えっ?」
厭な予感は現実へと、変様した。
私の驚く声が空間に響き渡る。
それもその筈、左腕がぴくりとも上がらないのだ。
「嘘でしょ...?」
右手で左腕を持ち上げる。左腕に触られた感覚はなくまるで冷たい粘土を持っている様。
私の頭は左腕に何度も指令を出すが反応がない。左腕はうんともすんとも言わず肩からぶら下がるモノに成り下がってしまった。
夢だと信じて、頬を叩いたけど痛いだけだった。
夢じゃないと分かった時私は泣いていた。
独りのこの状況下でおかしくならない理由がなかった。私は自暴自棄になり動く筈もないのに自分の左手を叩いていた。「叩けば直る」にしてはあまりにも阿呆らしい。
...時間が経ち少し正気に戻った私は青い痣が付いた左手を見ると今度は可笑しくなり笑みがこぼれた。
なんてことしているのだろう。
本当に馬鹿みたいじゃない。
「...そんな事するより、助けを呼ばないと。」
狂った笑いが収まると、突拍子もなく私から、言葉が漏れる。
戸惑いを隠せなかったが、私の考えだと、ひとつも疑問も持たなかった。
それもそうだ。この儘ずっとは居られない。
痛いのを我慢して、起き上がる。
「...っ!!」
ベットから脚に力を込め立ち上がった瞬間。私は膝から倒れ込んだ。
地を踏んだ瞬間脚にも電撃に打たれた痛みが走ったのだ。
「.....いったぁ...。」
駄目だ。とても歩ける身体ではない。
「ん...?」
...不意に。
目の前に、何かがあることに気づく。
なんだろう。それは月光の影に隠れよく見えない。
ぼやける視界に目を凝らすとそれは薄く四角いものだと分かる。
電撃が走る程の痛みに耐えながら、芋虫の様に床を這いずり四角いソレを持ち上げた。
「なに...これ...。」
ソレはとある学生証だった。
顔写真は剥がされコンクリートに擦られ汚れていて、読むのにも一苦労かかる。
「晨乃(あさの)高校...一年...。むら...し?...紫堂(しどう)...れ...怜(れい)...?」
誰だろう。そんな名前、私の記憶にない。
でも、この名前は私の事かもしれない。
あれ?
私の名前って...
「.....。」
自分の名前が思い出せない。
私はあの時。1994年。記憶と左手を失っていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
日本隔離(ジャパン・オブ・デッド)
のんよる
ホラー
日本で原因不明のウィルス感染が起こり、日本が隔離された世界での生活を書き綴った物語りである。
感染してしまった人を気を違えた人と呼び、気を違えた人達から身を守って行く様を色んな人の視点から展開されるSFホラーでありヒューマンストーリーである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
キャラ情報
親父…松野 将大 38歳(隔離当初)
優しいパパであり明子さんを愛している。
明子さん…明子さん 35歳(隔離当初)
女性の魅力をフルに活用。親父を愛している?
長男…歴 16歳(隔離当初)
ちょっとパパっ子過ぎる。大人しい系男子。
次男…塁 15歳(隔離当初)
落ち着きのない遊び盛り。元気いい系。
ゆり子さん31歳(隔離当初)
親父の元彼女。今でも?
加藤さん 32歳(隔離当初)
井川の彼女。頭の回転の早い出来る女性。
井川 38歳(隔離当初)
加藤さんの彼氏。力の強い大きな男性。
ママ 40歳(隔離当初)
鬼ママ。すぐ怒る。親父の元妻。
田中君 38歳(隔離当初)
親父の親友。臆病者。人に嫌われやすい。
優香さん 29歳(隔離当初)
田中君の妻?まだ彼女は謎に包まれている。
重屋 39歳(出会った当初)
何処からか逃げて来たグループの一員、ちゃんと戦える
朱里ちゃん 17歳(出会った当初)
重屋と共に逃げて来たグループの一員、塁と同じ歳
木林 30歳(再会時)
かつて松野に助けらた若い男、松野に忠誠を誓っている
田山君 35歳(再会時)
松野、加藤さんと元同僚、気を違えた人を治す研究をしている。
田村さん 31歳(再会時)
田山君同様、松野を頼っている。
村田さん 30歳(再会時)
田山、田村同様、松野を大好きな元気いっぱいな女性。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
いつもと違う日常
k33
ホラー
ある日 高校生のハイトはごく普通の日常をおくっていたが...学校に行く途中 空を眺めていた そしたら バルーンが空に飛んでいた...そして 学校につくと...窓にもバルーンが.....そして 恐怖のゲームが始まろうとしている...果たして ハイトは..この数々の恐怖のゲームを クリアできるのか!? そして 無事 ゲームクリアできるのか...そして 現実世界に戻れるのか..恐怖のデスゲーム..開幕!
オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員
眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ルッキズムデスゲーム
はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』
とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。
知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。
【語るな会の記録】鎖女の話をするな
鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
「怪談は金儲けの道具」だと思っている男子大学生・Kが参加したのは、禁忌の怪談会だった。
語ってはいけない怪談を語る会
通称、語るな会
美貌の怪談師が語るのは、世にも恐ろしい〈鎖女(くさりおんな)〉の話――
語ってはいけない怪談は、何故語ってはいけないのか?
語ってはいけない怪談が語られた時、何が起こるのか?
そして語るな会が開催された目的とは……?
表紙イラスト……シルエットメーカーさま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる