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第三章 権能覚醒篇
第六十四層目 試験前オリエンテーションにて
しおりを挟む『諸君ッ! 本日は、我が私立ルーゼンブル学園の入学試験へようこそッ!! 君たちがこれまで培ってきた努力と情熱を、全力でぶつけてきて貰いたいッ!! 我々はその熱意と研鑽を評価し……』
私立ルーゼンブル学園、体育館。ダンジョンをその敷地内に内包するルーゼンブル学園は、その広大な敷地の中にいくつもの大型施設を持つ。体育館もそのひとつであり、ちょっとした市民ホール程の大きさがある。
その壇上で受験者に向けて熱く語りかける男、日本ダンジョン協会の会長にして私立ルーゼンブル学園の学園長である藤原源之助。
いまでこそ弾虎人気に沸いている探索師界隈であるが、源之助もそれに負けないほどに知名度と人気がある。
受験の為に集まった中学生達はキラキラとした視線を壇上の源之助に向けている。
『さて、昨今はダンジョン災害という物が増えてきているのは、諸君らの記憶にも新しいことだろう。旧墨田区サブ・ダンジョンで起こった変異災害や、大阪カニ騒動だ。我々はそれらダンジョン災害にも今後は対応していかなければならない。
その為には、協会の充実したバックアップが必要であると同時に、優秀な探索師の排出は重要な責務となってくる。そこで、今回の入学試験においては、現在世界でも屈指の探索師に試験官の協力を願うことにしたッ!!』
源之助の言葉に会場は一気にざわつき始める。
事前に聞かされていなかった生徒は勿論のこと、舞台袖で待機していた弾虎も。
(待って待って待ってッ!? 聞いてないぞ、そんなのッ!?!?)
『さぁ、登場してくれッ!』
源之助の合図があり、舞台袖から三名の探索師達が姿を現す。だが、それは弾虎のいる方とは逆の舞台袖。
先頭を歩くのは長い髪と髭をリボンで結び、背には大太刀を背負う老人。次に続くのは浅黒い肌に、筋肉が内側から押し上げるほど隆起している白スーツの男。そして最後に現れたのは、なんとも煽情的な格好をした、右に泣きホクロのある女性であった。
『ほっほ! 皆の者、おはようさん。知らぬ者もおるじゃろうから、挨拶をしておこうかのう。ワシの名は法皇寺瑞郭。こう見えてそれなりに探索師を長うやっておる』
『皆、おはようございます。私は、ジェイ・アームストロング。ここ、私立ルーゼンブル学園の理事を務めている。よろしく』
『はぁいッ! おはよう、ヒヨコちゃんたち! うーん、いいわねぇ! この若い子らの香りが充満した空間ッ! もう、舞台袖はおっさんばかりで息が詰まるかと思ったわぁ。あっ、私の名前は寿夏蓮よぅ。よろしくねッ!!』
現れた探索師達の豪華さに、学生達は沸き立って皆口々に話し始める。
それも無理はあるまい。ジェイは私立ルーゼンブル学園の理事としてだけでなく、一級探索師としてそれなりの有名人であり、特に冬の大討伐以降は知名度がうなぎ登りだ。
そこに世界で初めての特級探索師である法皇寺瑞郭と、日本三人目の特級探索師、『不滅の蓮花』・寿夏蓮までいるのだ。なかなか揃って人前に登場しない特級探索師のコラボレーションに、興奮しない者はいない。
『静粛にッ! 静粛にッッ! 今回、こちらの方々に来ていただいたのは試験官としてもそうだが、なにより諸君らに本物というモノを、見て、感じて、触れて貰いたいからだ。
この場にいる全員がルーゼンブルへ入学できればそれが一番良いのだろう。だが、カリキュラムの関係などもあってそうはいかないのが現実だ。この中には悔し涙を飲む者も出てくることだろう。
だが、それでもこの試験を通じ、何かひとつでも学んで帰って欲しい。世界の一端を知る、良き試験であって貰いたいと我々は願う。そこで、最後のゲストを紹介しよう……来てくれたまへ』
瑞郭達が出てきた方とは逆の舞台袖。そちらへ視線を向ける源之助に、全員がいったい何が現れるのかと注目する。教職員もそのゲストの事は聞かされておらず、勿論先に登場した三人もだ。
(……あのオッサン、期待度ぶち上げ過ぎだろッ!? 出ていき辛いわッ!!)
それでも、いつまでも出ていかないわけにもいかない。
弾虎は出きるだけ見栄えが出るよう、まずは背面に装着されている二基のデバイスを起動させ、推進力を上昇させる。そして、舞台袖から躍り出ると空中を何度も回転しながら跳ね回り、最後に源之助の前に所謂『スーパーヒーロー着地』と呼ばれる、三点着地を決めて見せた。
『ご紹介しよう。世界十一番目の男、弾虎だ』
一瞬訪れる静寂。
だが、それは歓声の波によって破られた。
「ほっほっほ、なんとも派手な登場じゃのう」
「あらあらあら、良い男の香りが何処かからすると思ってたら、反対側だったのねぇ。酷いことするわねぇ、会長も」
「ほう、あれが弾虎氏か……素晴らしい鍛え方をしている」
一瞬にして表情が変わる三人の探索師。その内の二人は知り合いなので、弾虎の中身である一輝は内心ヒヤヒヤしつつも挨拶を交わす。
「今回、会長からの要請で試験に参加させて貰うことになった弾虎だ。若輩者だが、よろしく頼む」
「ほっほ、お主程の猛者が若輩者なら、ワシらはまだ受精卵にもなっておらんわな。どうすればそこまで強くなれるんかわからんが……ふむ?」
「む? どうしましたか、瑞郭殿」
「いや……気のせいじゃろう。そんなわけもないからのう」
瑞郭の中で弾虎を彷彿とさせる少年の顔が浮かび上がる。だが、それはなにかの間違いだろうと頭をふる。
何故なら先程、学園内でその少年と会って挨拶もしていたのだ。それがたった数分前のこと。ならば、この場で弾虎としているわけがない。
「ねぇねぇ、弾虎ちゃぁん。お姉さんとお知り合いにならなぁい?」
豊満な肉体をアピールしながら弾虎へと迫る夏蓮。だが、弾虎はそれを鼻で笑いとばす。
「申し訳ないが、俺はそう言うものに興味がないんでね。すまない」
「あら、つれないの。そこまで露骨に嫌がらなくても、冗談よ。冗・談」
「さて、そろそろオリエンテーションを終わりたいのだが、弾虎。締めてくれ」
源之助は良い笑顔でサムズアップを弾虎に送る。
(はぁ? マジかこのオッサン……俺は一応ここの生徒なんだぞッ!?)
とは言っても断れるわけもなく。
諦めた弾虎は、小さく溜め息をついてマイクを持つ。
『皆ッ、おはようッ! 俺の名前は弾虎ッ! よろしくなッ!!』
弾虎の自己紹介に会場のボルテージは最高潮に達した。興奮し過ぎて連れていかれる者も出始め、このままでは何か変な事でも起きかねないと、急いで締めの挨拶をする。
「今日は試験の為に多くの努力をしてきただろう。それが実を結ぶか結ばないか、君たちの中に不安もあることだと思う。だが、それでも今日はこの試験を楽しんで貰いたいッ!
探索師としての道はここだけではない。ここにいる三名の先輩も、俺自身もこの学園の卒業生ではない。それでも、こうやって探索師として活動をしている。だから、もしもダメだったとしても諦めないで欲しい」
嘘は言っていない。一輝はまだ卒業はしていないのだから。
そしてこの言葉の中には、かつて最底辺の探索師と言われていた一輝だからこその願いもあった。偶然とは言え、可能性はゼロではない。そう身をもって知っているからこそ出た言葉だ。
「だから、先ほど会長も言っていたが、今日は先生方や俺たちの胸を借りるくらいのつもりで挑んでくれッ!
エンジョイ&スマイルッ! 先ずは肩の力を抜くことだ。緊張が最大の敵だからなッ!!」
『はいッ!!』
弾虎の挨拶をもってオリエンテーションは何とか無事に終了することが出来た。
突然の大役に胃の痛みを感じる弾虎だったが、それがこれから起こる『事件』......いや、事件と呼んでもいいのか判らない程に一般的には些事なのだが、その出来事によって更なる胃痛を貰う事の前兆だとは、知る由もなかった。
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