42 / 87
第二章 大阪カニ騒動篇
第四十二層目 『天照』と『月詠』
しおりを挟む「『天照』と、『月詠』?」
「そうじゃ。ゴーレムの核のシステムを利用した、脳波コントロール兵器じゃ。ゴーレムが持ち主の魔力を認識して命令を効くプログラムを応用し、一輝の放つ魔力に感応して自在に動く事ができる。まずはこいつらにゴーレムを起動させた時の様に魔力を込めてくれ」
ボブに促された一輝は、二つの球体に手を添えて魔力を注いでいく。すると、ゴーレムを起動させた時の様に球体を包む光が紫から黄色に変化し、一輝に寄り添う様に宙に漂う。
「あとは一輝が動かしたい方向に思い描けば、そちらへと動く。推進力や出力は一輝の魔力次第じゃが、ゴーレム・マジシャンに搭載されておった魔力充填機能と魔力変換機能を補助に使っておるから、持ち主の負担はかなり軽減できておるはずじゃ。どうだ?」
一輝は頭のなかで球体を左方向へ動かそうと念じる。すると、二つの球体は考えた方向に考えた距離だけ移動した。
「基本動作は追い追い慣れていってくれ。まずは機能説明をするぞい。赤い模様が入っている方が『天照』じゃ。こいつは防御、回復などの補助の役割を持つ。いまの所デバイスには最新の対物シールドと回復魔術Ⅱを搭載しておるが、まだ容量も残っておるし、カスタマイズは任せる」
「なるほど……『対物シールド』、ON」
一輝の声に従い天照の形が変化し、赤い半透明のシールドを展開する。丁度、大盾くらいの大きさであり、しゃがめばからだ全体を隠すことが出来そうだ。
「対物シールドじゃから魔力のよる攻撃は防げん。あいにく魔力に対応するデバイスがなくてのう」
「それなら大丈夫です。知り合いに伝手がありますから」
実際は伝手ではなく、一輝が所有している『エレメント・バリア』なのだが。『エレメント・バリア』は属性魔術に対して大きな効果を持つ防御魔術だ。以前、ツイントゥースドラゴンの食料を大量に横取りした時に得た能力である。
「ふむ、ならば大丈夫そうじゃな。次に『月詠』じゃが……これは攻撃に特化した能力を持っておる。まずは『ブレード』じゃ。魔力を剣状に展開し、魔粒子の振動によって物質を切断する」
「魔粒子?」
「む? そうか、技術者でなければあまり知らんわな。簡単に言えば、魔力は魔粒子が集まったものじゃ。魔粒子はそれだけではただ空中に漂うものじゃが、指向性を与えてやることで様々な働きができるようになる。それが魔術だ」
「えっと……また勉強しておきます……」
「ホッホッホ! まぁとりあえず、そう言うものだと思っておくんじゃな。それで、『ブレード』が一つ目の武器。もう一つは『レーザー』じゃ。これは魔力をそのまま照射し……うーむ、説明すると長くなるのじゃが、魔粒子を照射することによって、物質が持つ魔粒子の配列を狂わせることで破壊効果を誘発するのじゃ」
「つまり、魔力を持たない物には意味がないって事ですか?」
一輝の後ろでじっと話を聞いていた恵がひょっこりと顔を覗かせる。
「その通りじゃ。基本的にいまのこの世界に生きるものは大概が魔力を持っておるので、効果はある。じゃが、例えば鉄などの魔力を通さない物には効果がないし、極端に魔力を持たぬ者には効かんのう。お嬢ちゃんはなかなか理解がある」
「えへへ……魔工学にちょっと興味があって」
「おぉ、若いのに見所があるのう。最近の若いもんはやれ魔術はファンタジーのものじゃと思っとる節がある。魔術、牽いては魔力は科学の一種じゃ。ちゃんと物事には理由があるのに……っと、そんな話は置いといて。最後にとっておきのモードがあってのう……」
ボブがそう言いながら一枚の紙を取り出す。そこには変形した天照と月詠が合わさった物の図面が描かれていた。
「これこそ、儂が追い求めた『力』の終着点じゃ。その名も、荷電魔粒子砲……『須佐之男』じゃッ!」
「須佐之男……! それはいったいッ……!」
「それはのう…………すまん、使用できんのじゃ」
「…………はい?」
「いや、システムだけは出来ておるんじゃがの? ただ、理論上これを放つには一級探索師相当の魔力が50人分は集まらんと無理じゃ。魔力補助システムだけでは、恐らく一輝は二秒も持たずに魔力欠乏に陥って死ぬ」
「意味ないじゃない! 一輝はただでさえ魔力が低いのにッ!」
「ホッホッホッ! 面目ない!」
笑って誤魔化そうとするボブにツッコミを入れる恵。
実の所、一輝の魔力量は一級探索師50人分など軽く賄える。ツイントゥースドラゴンを食った事によって大幅に上がったステータスは、その数値だけで言えば瑞郭やグラハムを越えているのだ。
名称:神園 一輝
種族:人間
職業:私立ルーゼンブル学生
年齢:17
健康状態:良好
体力:1087
筋力:879
俊敏:662
頭脳:318
魔力:18280
一般的な一級探索師の魔力を数値化すれば、およそ200~300程度。魔術特化型でも400程だ。
グラハムは特殊な肉体なので例外だが、瑞郭でさえ1000に届くかどうかである。もはや一種の魔力の塊と言っても良い。
ただし、それらはダンジョンの出入りでバレてしまう可能性もあるので、通常時は『擬態』という能力で抑えてはいるが。
勿論、一輝はこの数値については誰にも教えていない。そもそもステータスが数値として見えるなど人に知られれば、一輝が今後どういう扱いを受けるかわかったものではないからだ。なので、瑞郭にもジェイにもこの数値の事とベルゼブブのことだけは伏せていた。
「まぁこのロマン砲は実用的でもないし、ちょっとしたおふざけじゃよ。良いじゃないか! ジジイの趣味だものッ!!」
「人の装備で遊ばないでくださいよ……ちなみに、これを放つとどうなるんです?」
「理論上、『城塞蟹』でも穴をぶち開けることが出来るッ!! ……はず」
「どんな物騒なもの積んでるんですか……」
溜め息をついて呆れる一輝と恵。
しかし、一輝はそれでもちゃっかりと図面を記憶していた。
それを起動する為のプロダクトキーを。
「まぁそこまでしないと倒せないモンスターじゃと、どのみちみーんなお陀仏じゃ。諦めるんじゃな。と、まぁこんなもんじゃ。習うより慣れろ。色々と動かしてみるといい」
「わかりました。それじゃあ、少しガレージをお借りしても良いですか?」
「うむ。お嬢ちゃんも探索師を目指しておるのじゃろう? そこの棚にあるものなら好きに見て貰って構わんからのう」
「ありがとうございます!」
早速、天照と月詠の起動テストを始める一輝。
その様子を眺めつつ、恵はこのガレージに来てから内心思っていた事を一人心の中で叫ぶ。
(どうなってるのよ! なんで一輝がこんな凄い装備作って貰ってるのッ!? ジェイ先生の仕業にしても、常識外れ過ぎでしょ!?)
ジェイが一輝に個別指導をしているのはクラスでも有名な話だ。
そもそも一輝が何故私立ルーゼンブル学園に入学できたのかもよくわかってはいないのだが、それにしてもあまりにもここ最近の一輝の周りで動く変化が大きすぎる。
恵としても、一輝が力を付けてくれる事に関しては喜ばしく思っている。だが、自分が知る最底辺の探索師見習いだった一輝が、どうしてこんなにも変化してしまったのか、身近な存在であるが故にモヤモヤとしていた。
「……なによ、一輝のくせに」
口を尖らせながらポツリと呟く恵。
と、その時。鞄から着信音が聞こえてきた。
「誰かしら……? え?」
取り出したスマートフォンの画面に映し出される文字。
そこには『日本ダンジョン協会』と書かれていた。
0
お気に入りに追加
423
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる