40 / 87
第二章 大阪カニ騒動篇
第四十層目 蟹鍋
しおりを挟む「では、まずは簡単な聞き取りをさせて貰う。答えられないなら答えられないでも構わんからのう。持っておる能力の中には人には知られたくないものあるじゃろうし」
「はい。出来るだけお答えさせて貰います」
「うむ。では、一輝は近接と遠距離、どちらが主体かのう?」
「えっと……」
ボブの問いかけに一輝は考え込む。
実際にはどちらも使えると言えば使えるし、更に言えばゴーレムも活用すれば更に幅は広がる。
「あの、俺こういうゴーレムもありまして」
「ふむ? なるほど……攻・守・魔のタイプじゃな。となれば、本体はサポートでも良いかもしれんが……んんッ!?」
ボブは一輝のゴーレム……その中でもゴーレム・マジシャンを見て目をカッと開いた。
「こいつは……まさか、『魔人兵』か……?」
「魔人兵?」
「う、うむ……ダンジョンで一度だけ発掘されたゴーレムでの、どうもこいつだけは普通のゴーレムと運用方法が違うのじゃ。その事は一輝は?」
「えぇ、知ってます。魔力を供給出来るんですよね?」
「その通りじゃ。一輝、頼みがある……こいつを、このゴーレムを任せてはくれんか!!」
土下座でもしそうな勢いで頭を下げるボブに、一輝が目を白黒させる。
「そ、そんなに珍しいんですか? これ」
「うむ……これがあれば、儂がずっと温めておったアイデアが完成するのじゃ。ただ……その場合はこのゴーレムはゴーレムとしては動かんなる」
「えぇえ……それは困るかもしれない……」
とは言え、実際ゴーレムマジシャンの役割は一輝でも代用できる。魔術はほとんどの属性で使えるし、グラハムの使っていたような燃費が極悪な物でなければ、早々魔力切れを起こすこともない。
そしてなにより、伝説とも言われるボブの温めて来たアイデアがとにかく気になった。
「わかりました。これはお預けします」
「おぉッ! ありがとう、本当にありがとう!」
そう言って一輝の手を握りしめるボブ。
そうして、その後いくつかの聞き取りと調整内容を詰めて、今日は終わりとなった。
「あーあ、うちは一輝の新装備のお披露目が見られんのかぁ」
「仕方ないでしょう。先輩は先輩で忙しいんですし」
「まぁね。で、これからどないするん?」
ボブの工房を後にし、三人は再び繁華街まで戻ってきていた。
「私は昼間言った通り、友人と会う約束がある。一輝君はそのまま和葉君に街を案内して貰うといいのではないか? あぁ、ホテルは私の名前でそれぞれ部屋をとってあるから、そのままチェックインしておいてくれ」
「わかりました。それでは……」
「うむ。和葉君、これは少ないが……」
ジェイはスーツの内ポケットから封筒を取りだし、和葉に渡そうとする。だが、和葉は首を横に振ってニカッと笑った。
「せんせぇ、気にせんといて。お客さんに出して貰ろうたら、親父にぶっ飛ばされるわ。うちがちゃんと出しますので」
「それはいけない。君はまだ学生で、うちの生徒だ。受け取ってくれないと私が困る」
「うーん……せやったら、こうしましょうか。明日のお昼はせんせぇの奢りで。今日はカズの奢りで」
「あれぇ!? さっき先輩が出すって話じゃなかったですぅ!?」
「にゃっははは! 冗談や、じょうーだん! てなわけで、カズ行こか」
唖然とするジェイをそのままに、一輝の腕を引いていく和葉。
「……すっかり煙に巻かれてしまったな」
勢いのままに結局現金の入った封筒を渡せなかったジェイは、苦笑いのまま封筒をしまいながら街に消えていった。
◇◇◇◇◇◇
「そういや、今回はダンジョンに潜らへんのか?」
鍋から蟹の足を取りだし、ハサミで殻を割っていく和葉。
一輝は同じ鍋に白菜を入れつつ、先に取っていた豆腐を頬張る。
「えっと、明日は下見みたいなもんです。夕方には向こうに帰りますし。おっ、豆腐が美味しい」
「せやろ? ここは蟹が旨いのは勿論、他の具材も旨いんよ。ほら、もっと食べぇ」
「おわっ!? そんなに一気に入れないでください! 鍋の汁が濁ります!」
「それがまた旨いんやないか~」
冬と言えば鍋。と言うことで、和葉のお勧めの蟹料理屋で鍋をつつく二人。
その周囲では、日も暮れて店内には人がごった返していた。
「でも、下見ねぇ……わざわざ来る必要あんのか?」
「場所が場所ですからね。一度見ておきたくて」
「『城塞蟹ダンジョン』かぁ……うち、あそこ苦手なんよね」
『城塞蟹ダンジョン』。ダンジョンと名が付いているが、その実は超巨大なモンスターのことである。
ダンジョン黎明期に東京を襲った超巨大甲殻類モンスター『グランド・シザース』。その全長は数kmあると言われ、二本あるハサミだけでも数百mはくだらないという、正真正銘の化け物だ。
あまりの大きさに探索師ではどうにもならず、陸上自衛隊、航空自衛隊による攻撃と、海上自衛隊の艦隊砲撃でなんとか撃退をしたという記録がある。
ただ、撃退が出来ただけで、結局のところ討伐は出来なかった。自衛隊の攻撃は確かに怯ませることは出来たが、その堅牢な甲殻に阻まれてしまい、決定的なダメージは与えられなかったのだ。
そうしている内にグランド・シザースは大阪へと移動し、そのまま大阪湾の中心で海底に潜り、そのまま動かなくなってしまった。
その後調査が進んでいくと、どうやらグランド・シザースは死んだ訳ではなく、海底を根城にして自身をダンジョンへと変化させた事が判明。
こうして世界で初めて、ダンジョン現界以外でのダンジョン誕生という珍しいケースが発生したのであった。
「ダンジョンの中は甲殻類のモンスターばかりだそうですね」
「せや。やから、うちの魔術がほとんど効かんのよ。ほら、うち水属性やし?」
「あー、それは厳しいですね」
和葉は名門であるルーゼンブルに在籍しているだけあって、得意の魔術に関しては非凡である。学生の身でありながら既に『二級水魔術』を取得しており、これは二級探索師レベル相当であることを意味する。
しかし、甲殻類モンスターのほとんどは水属性に対して耐性があり、その甲殻素材は水対策に用いられる程である。
「まぁ、そっちは協力できへんから、頑張ってきてな。あ、でも夕方やったら帰りは一緒かもな」
「そうですね……ご一緒出来たら良いですね」
フッと笑みを浮かべる一輝。
実際のところ、下見といえば下見なのだが、その本当の目的は一度でも足を踏み入れることにある。
『ダンジョン・トラベラー』の能力である『ダンジョン渡り』を使うためだ。一度でも足を踏み入れておけば、遠い東京のダンジョンからでも渡って来ることが出来る。
「よっしゃ、ほな明日の景気づけに仰山食べな。おばちゃーん、おかわりー」
「あいよー」
「せ、先輩? お金とか大丈夫なんですか?」
「ん? あれ? 言って無かった? ここ、食べ放題やで!」
「なんと、食べ放題……ッ!!」
「お? カズは食べ放題に燃えるタイプ? それとも、食べ放題なんてくだらん言うタイプ?」
世の中には食べ放題をいやに否定する勢力が存在する。
確かに、食べ放題は時間に追われたり、妙に落ち着かないという意見もわからないでもない。
だが、それはそれ。
「俺は食べ放題も好きですよッ!」
「よっしゃ! じゃあ食おう食おう!」
『暴食の権能』、ここにあり。
ベルゼブブが見たら白目を剥いて泡を吹きそうだが。
そうして二人で次々と皿を空にしていく。和葉は和葉で痩せの大食いというタイプで、一輝ほどでは無いにしろ、どこに消えて行くのかという勢いで食べ進める。
「か、和ちゃん……そろそろ、堪忍してくれへん?」
「なんの、まだまだッ!」
「はぁ~……なんちゅう日や。こんな大食らいを二組も同時に相手せんといかんなんて……」
「ん? 二組?」
「あぁ、なんか外国から来たお客さんがな。そこにおるんやけんどな」
そう言って店の女将さんが指差した先。
そこの席に座っていた小柄な白髪の少女は、まるでトリック映像の様に次々と蟹を口に放り込んでいた。
0
お気に入りに追加
423
あなたにおすすめの小説

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる