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第一章 暴食の権能篇
第二十七層目 脱出への道
しおりを挟むツイントゥースドラゴンの巣から出た一輝は、地図もないままに謎のダンジョンをさ迷い歩く。
襲撃を受けた時に通信機はおろかその他荷物さえも失くなっていたので、ジェイに連絡がとれないのが痛い。
「しかし……モンスターの影がまったくないな。気配は微かに感じるけど」
一輝という存在を恐れてか、ダンジョンのモンスターは各々が身を隠し、息を殺して嵐が去るのをじっと待っていた。
薄々、一輝もそれには気がついていたが、いまは脱出が最優先なので別段探して狩ろうとも思わない。
「本当はゴーレムの成長的にも戦ったほうが良いんだろうけどなぁ」
ゴーレムの戦闘プログラムにあたるものは、自己成長を遂げる特性がある。起動したばかりのゴーレムは単純な戦い方しかできず、正直それだけなら自身で戦った方が早い。
しかも、ゴーレムを動かすには魔力を消費する。
魔導倶の分類はいくつかあるのだが、『丙型』と呼ばれるものは内部に備わっている『核』に魔力を充填することで起動することが出来る。イメージとしては充電式といった感じだ。
対して、ジェイが使っていた『ダーインスレイヴ』などは『乙型』と呼ばれていて、直接魔力を注ぎながら起動する。こちらは武具になる魔導倶に多い。
なので、ゴーレムを運用するにあたっては、魔力の管理が必要なのだ。
しかし、幸いな事に今回はゴーレム・マジシャンというレアなゴーレムがいた。
『魔力採集』によって空気中にある魔力を集めることができ、『魔力変換』でそれぞれに適した魔力へ変換。『魔力譲渡』によって、それらを他のゴーレムに渡すことが出来るのだ。つまり、マジシャンは発電システムと言える。
「最初は人間の魔術師が魔力を供給して貰うために作ったと考えてたけど……こうみたら、もしかしたら制作者はゴーレムの軍隊でも作ろうとしていたのかもしれないなぁ」
三体のゴーレムは見た目こそバラバラだが、それぞれに共通した意匠が施されている。恐らく制作者が同じなのだろう。
数体のゴーレムによる半永続的に活動する部隊。考えてみれば、かなり物騒な話である。
「それほどまでして戦わなきゃいけない何かがいた……? うーん……まぁ、いま考えても仕方ないか。とりあえず出口を探そう」
それからしばらくさ迷った一輝は、上に昇る階段を見つけた。
階層が上がると見たことのある壁の模様になり、少しだけ見えてきた光明に顔を明るくする。
「ここ、もしかして旧世田谷区サブ・ダンジョンなんじゃないかな……?」
ツイントゥースドラゴンの出現によって潜れなくなった旧墨田区サブ・ダンジョン。その代わりに潜り始め、正宗達と出会った思いでのダンジョンである。
「こんな所に巣を作ってたのか……いや、もしかしたら巣は複数あるのかもしれない。ダンジョンを渡り歩くくらいだから」
いくつもダンジョンを行き来するのであれば、先程の様な貯蔵区が各ダンジョンにあってもおかしくはない。
今後それも念頭に入れて行こうと思いつつ、一輝は出口の捜索にあたる。
「もしかしたら正宗さん達がまだ居るかもしれない。ツイントゥースドラゴンと出会ったら大変だ……! 急ごう!」
言霊というものが実在するかの論議は、結論が見えることがないので控える。
だが、面白いことに、なぜか人とは口にしたことが実際に起こってしまう事がままある。
「グオオォォオオオオォォォォォォオオオッツッ!!!!」
ダンジョン全体を揺さぶる程の咆哮。
本来、ダンジョンの階層を行き来できないモンスターの声や攻撃は、他の層を跨いで聞こえることはない。
だが、『ダンジョン渡り』という特性からだろうか。
声の主の怒りの咆哮は、すべての階層をぶち抜いて一輝の耳へと届く。
「来たかッ!!」
ズンッ、ズンッと巨大な足音と共に、微細な振動が伝わってくる。
まだかなり遠くに居るであろう存在なのに、一輝はその凄まじいまでのプレッシャーに頭の天辺から足の先まで汗をかいていた。
肩口に残る傷跡も疼き、強い吐き気を催す。
「に、逃げなきゃ……!」
ツイントゥースドラゴンの怒りの咆哮。
その理由には、十分すぎるほどの心当たりがある。溜め込んでいた食料をすべて食ってしまったのだから。
一輝はゴーレムの核に手を添えて、『格納』を命じる。
これはゴーレムが元来持つ機能であり、核を中心として体のパーツをコンパクトに収納することができるのだ。
そうして三つの玉になったゴーレムを小脇に抱えた一輝は走り始める。
まさに怪物と呼んで差し支えないほどのスピードによって。
名称:神園 一輝
種族:人間
職業:私立ルーゼンブル学生
年齢:17
健康状態:良好
体力:189
筋力:166
俊敏:212
頭脳:143
魔力:499
能力:『調理』、『暴食の権能』、『砕呀』(UP!)、『音撃』(UP!)、『解析』、『駿歩』(UP!)、『二等級水魔術』(UP!)、『ストリングマジック』(UP!)、『自己再生』、『消化液・極』、『二等級剣術』、『二等級格闘術』、『剛力』、『三等級土魔術』、『二等級風魔術』、『エレメンタルバリア』、『挑発』、『武器防御の心得』、『居合いの極意』、『指弾』、『超級投擲術』……etc。
食べたモンスターの能力をすべて手に入れた為、一輝のパラメーターは凄い事になっていた。
幸いに『解析』では必要なものだけを表示できるので、あまり有用ではないものは非表示にしている。二本の足で立つ一輝に『二足歩行』の能力など必要ない。ちなみに、『二足歩行』は『パンツァーベア』という熊のモンスターが持っていた。
マーダードッグから獲た『みかわし』は他にもあった速度に関する能力に統合され、『駿歩』という能力へと変化した。
他にもアップグレードする形で能力名が変わってはいるが、意識をすれば前の段階に戻すことも出来る。なので、ゴーレム・ガードナーにも『自己再生』の下位にあたる『自己治癒』を渡すことが出来たのだ。
だが、やはり特筆すべきはその素の肉体の強度である。
以前測った正宗のステータスを圧倒的に上回る能力値。いままで食べたことのなかった高位のモンスターを食べたことにより、飛躍的な上昇が見られたのだ。
その圧倒的な俊敏さに『駿歩』の能力を重ね合わせた一輝の姿を捉えることは、かなり困難である。
まさに一迅の風となった一輝は、階層の階段を探しながら走る。
ひたすらに、走る。
「ギギィ!!」
「ギャッ、ギャッ!」
だが、そんな一輝を妨害しようとする存在が目の前に現れた。
ダンジョンの殺し屋の異名を持ち、これまた某RPGのせいで雑魚扱いをされがちな亜人系モンスター、ゴブリンだ。
ひとりひとりの脅威は少ないが、武器や罠を巧みに使い、時には風景に擬態しながら探索師の命を狙うことから、殺し屋と呼ばれているのだ。
斥候のゴブリンから人の気配がするとの報告があり、入念な罠を準備して一輝を待っていたのだ。
一本道の通路に、所狭しと仕掛けられた罠の数々。
それでいて、一見すると見落としそうになるカモフラージュの巧みさ。
これが旧世田谷区サブ・ダンジョンに潜り始めた頃の一輝なら、まったく歯がたたずに負けていただろう。
だが、いまの一輝にとってそれはまったくの脅威にたりえなかった。
「おっ、ゴブリン。ということは、ここは十階から五階のどれかだ! 近いぞ!」
一切スピードを緩めずに一本道を走り抜ける一輝。
当然罠は発動するのだが……。
『ガギンッ!』
『ガシャンッ……』
『カキンッ』
「ギャアアアァァァ……」
虎ばさみは閉じる前に足を抜かれるし、爆発の罠は信管を一瞬のうちに外され、壁から発射された矢は掴まれて『超級投擲術』によってすべてゴブリンの眉間へと収まっていた。
「流石に亜人系だけは食べるのに抵抗があるからなぁ……退治だけしとこう」
物言わぬ多数のゴブリンを一瞥し、一輝は上の階層へと向かって全力疾走するのであった。
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