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第一章 暴食の権能篇
第二十五層目 目覚める力、集う力
しおりを挟む「魔力の上昇量が凄いな……それに、瞬時に回復する『自己再生』。でも、これはかなり体力を使う」
探索師達の能力の中でも『自己治癒』というものがある。これは戦技のひとつであり、体力を使って怪我や毒などの状態異常を回復するものだ。しかしその有効範囲は、裂傷などの自然治癒でもなんとか治す事が出来る範囲である。
言ってしまえば、自分の持つ自然治癒能力を活性化させて治すもの。
だが、今回スライムから得た『自己再生』は段違いの性能である。
いままでの経験上、食べたモンスターの能力はそのモンスター自身の特性に大きく影響を受ける。つまりは、スライムと同等の再生能力を獲られたというわけだ。
一輝の予想では、恐らく即死をしない限り再生が可能だろうと見ている。
しかし、そんなチート能力にも弱点はある。『自己治癒』同様に体力を消費するので、体力が尽きれば使用不可になるということだ。
「現在の最大体力が47。残りが5ということは、噛み砕くで使った体力も除くと……腕や足は一本あたり10くらい持っていかれるのかもしれない……あまり多用は出来ないか」
それでも『自己再生』が凄まじい能力なのは誰の目から見ても明らかだ。
また一歩、人間から遠ざかった事を悟った一輝は、溜め息を吐き出しながら周りを見渡す。
「どうやら主は餌集めに夢中なのかな……? あれだけ騒いでも戻ってくる気配がない」
小さく呟きながら、自分の左肩を触る。何故か『自己再生』をもってしても、ツイントゥースドラゴンの刻印は消えることが無かった。傷自体は塞がっているのだが。
「脱出するにも情報がないし……それに」
一輝はもう一度辺りを見回す。
あちらこちらに転がるモンスターの数々。
死んでいるものもあれば、まだ瀕死なのか若干蠢くモノもあった。
そのどれもが一輝の見たことのない、上級のモンスターだ。
「お宝の山を目の前に、去るのも悪いよな」
本来であれば、脱出することを最優先しなければならない。
だが、体が叫んでいるのだ。『この糧を得よ』、と。
魔導倶ゆえの頑丈さから残っていた腰のホルダーから包丁を抜いた一輝は、そのまま山へと歩みを進めていく。
◇◇◇◇◇◇
時間は少し遡る。
一輝が姿を消したことで、ジェイは風の如く速さでダンジョンから脱出。直ぐ様日本ダンジョン協会へと連絡を入れた。
しかし、日本ダンジョン協会もまた、上から下への大騒ぎとなっていた。
『用件は承りました。しかし……』
「まさか、ツイントゥースドラゴンが『ダンジョン渡り』を持っているとは……これは俺のミスだ」
『不測の事態というものです。それで、御協力は……』
「勿論させてもらう。自分の可愛い生徒を連れ去られて、指を咥えているわけにもいかんからな」
『わかりました。二時間後、再び旧墨田区ダンジョンへ潜ります。調査隊は半数が怪我や死亡によって壊滅しておりますので、ジェイ様の御助力は本当にありがたいです』
一輝が連れ去られた時より更に少し前。
旧墨田区サブ・ダンジョンの調査をしていたレイドクランから緊急通信が協会へと入った。
内容はただ短く、『緊急事態発生。レイド壊滅』とだけだった。
ダンジョンにおける緊急通信の用語に、状況を伝えるものがある。例えばクランであれば、被害状況などだ。
問題が発生したが対処が済んでおり、継続した探索が可能である『問題発生。対処済み』。
メンバーに怪我が発生し、進退の判断を検討している状態の『問題発生。帰還検討』。
重大な問題が発生し、救助要請の可能性もある『緊急事態発生。要支援』、等。
その中でも『壊滅』の文字が表すのは、メンバーの半数が怪我もしくは重篤な状態、及び死亡した状態を指す。
今回の場合は『レイド壊滅』であり、五~十人のクランが四つ集まったレイドの半数、つまりは十五人以上が動くことができなくなったわけだ。
緊急通信を受けたダンジョン協会は直ぐ様救助隊を派遣。一級探索師と日本が誇る三名の特級探索師の内の一人を加えた救助隊が、旧墨田区サブ・ダンジョンへと潜ったのだ。
そして、帰ってきた調査隊のレイドメンバーはたったの十名だった。
旧墨田区サブ・ダンジョンに隣接する日本ダンジョン協会の建物へと到着したジェイは、直ぐ様二階の会議室へと向かう。
会議室には既に今回潜るメンバーが召集されており、見知った顔も多い。
その内のひとり、癖毛の長い髪の毛を頭頂部でひとつにまとめあげた、狐目の若い男が近づいてくる。それはかつてジェイが所属していたクランのメンバーの一人であった。
「やぁ、ジェイ。君も今回呼ばれたんだね」
「勤か……少し、奴には借りができてしまったものでね」
「借り?」
「奴は先程、俺たちが潜っていた学園のダンジョンに現れて、生徒の一人を連れ去った」
ジェイ達の会話に聞き耳を立てていた周囲がざわつき始める。
「まさか、ダンジョン渡りの噂は本当だったのか?」
「ならば、旧墨田区に行っても無駄なのでは?」
「だが、闇雲にあたっても仕方あるまい……」
それぞれが話を始め、会議室は一気に騒がしくなる。
が、それを静めたのは、いつの間にか会議室の隅にある椅子に座っていた老人であった。
「皆の者。静粛に」
叫ぶわけでも、吠えるわけでもない老人の声だったが、そのひとつで全員が一斉に静かになった。
この場に集められたのは全員が一級探索師以上。海千山千の猛者達なのだ。
それを鶴の一声で静める存在。彼こそが……。
「そろそろ集まったようじゃのう。それでは軽く自己紹介させて貰おう。此度の討伐を指揮する特級探索師、法皇寺 瑞郭じゃ。まったく、こんな老いぼれを引っ張り出してくるとはのう」
かっかっかっと笑う瑞郭。
だが、その笑いに緩む様な空気ではない。
大阪大討伐の生き残りにして、ツイントゥースドラゴンを倒した唯一の人類。
日本ダンジョン協会の最終兵器、法皇寺 瑞郭。
生ける伝説の登場に、全員が固唾を飲む。
「そんなに緊張するでないよ。まぁ多少は強いトカゲじゃが、二十年前のワシが倒せたんじゃ。いまのお主らなら余裕じゃよ、余裕」
確かに、二十年前に比べれば探索師も装備の質も格段に上昇した。
しかし、そんな今においても、レイドクランは壊滅したのだ。誰も笑うことなどできはしなかった……ただ一人を除いて。
「そうそう。俺っちや瑞郭じいちゃんが居るんだからさ、おめえらは後ろでカップラーメンでも食ってろよ」
そう言いながら瑞郭の前にあるテーブルに腰かける青年。青い髪の毛をオールバックに撫で上げている青年が、器用に相棒の銃を指で回す。
「あれは……グラハム・アーサーか!?」
ジェイの瞳が見開かれる。
ドイツダンジョン協会所属の特級探索師であり、瑞郭が唯一とった弟子でもある。
飄々とした姿とは裏腹に、その実力は十名存在する特級探索師の中でも上位に入ると言われている。
「おっ? ジェイのおっちゃんじゃん。やっほうー」
「ジェイ、知り合いだったのか?」
「いや……直接話した事はないはずだが」
「あぁ、気にしないでよ。俺のここが覚えてるだけだから」
そういって自分の頭を指差すグラハム。
彼は『瞬間記憶能力』を有しており、一度見たものであればまるで検索エンジンで調べる様に情報を引き出せるのだ。
そして、それこそが彼の持つ『覚醒』の重要な鍵でもある。
「さて、あまり無駄話もできん。子供が連れ去られておるのであればなおさらじゃ。これより半刻後に出立する。皆、準備を怠らんように」
『はいっ!』
生ける伝説と共にダンジョンに潜れる。
ツイントゥースドラゴンという規格外の前にしても、その喜びは探索師であれば誰もが抱くものだ。
しかし、その中で唯一ジェイだけは違っていた。
実際にツイントゥースドラゴンを目の当たりにしていたからだ。
(あれは、一筋縄ではいくまい……だが、今はまず一輝君を助け出す。それが最優先だ!)
様々な想いが集う旧墨田区ダンジョン。
その想いに応えるように、ダンジョンは静かに形を変化させていくのであった。
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