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第一章 暴食の権能篇
第十七層目 テスト
しおりを挟む「お待たせしてすみません、正宗さん」
「いやいや、こちらこそ急に呼び出してすまないね。そう言えばもうすぐ昼だ。一緒に飯でもどうだい?」
「いいですね。じゃあちょっと失礼して……」
背嚢を下ろした一輝は、中からいくつかの調理道具を取り出す。
勿論それで調理をするのはモンスターではなく、普通に人間が食べる食材だ。仲が良くなったとは言え、モンスターを食べているなんて事が知られたら一大事である。
「ほう? 一輝は料理をするのか?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ? 俺が覚醒で貰った能力は、『調理』だって。今日は皆さんにもご馳走させてください」
「い、いや、初耳だ……」
正宗達は驚きと戸惑いの半々の表情を浮かべる。その中で、一人だけ怪訝な顔をする人物がいた。
「そう言えば……そちらの方はどなたですか? 俺、たぶん初めて会いますよね?」
「あぁ、彼は俺たちの昔からの友人で……おい」
「……あぁ。はじめまして、神園一輝君。私の名前はジェイ。皆、そう呼んでいる」
「ジェイさん、ですね。はじめまして、神園一輝です。よろしくお願いします」
準備の手を止め、立ち上がって挨拶をする一輝。
その姿を見定めるような視線を向けながら、ジェイはニヤリと笑う。
浅黒く、服の上からでもわかるほどに筋骨隆々な風貌も相まって、かなり凶悪な見た目だ。
「なかなか、行儀のいいボウヤじゃないか」
「いい子だろ?」
「だが……ふむ」
「?」
何やらジェイには思惑があるように思えた。しかし、変な人物であれば正宗が紹介してくるわけがないと、一輝は調理を再開する。
今日のメニューは豚肉二枚でチーズと大葉を挟みカツにした、ポークチーズカツだ。モンスターを調理していることを隠すために、カモフラージュとして用意していた普通の食材が光る。
「ほう、こりゃあ旨い! 一輝は良いコックになれるな」
「俺がなりたいのは探索師ですよ。コックじゃ遅すぎる」
一輝の遅すぎるという言葉。それを指すのが、心臓病で苦しむ妹の早織だと知っている面々は、なんとも言えない表情を浮かべる。
そんな中、ひとあし先に料理を完食していたジェイが口を開く。
「なるほどな……うむ、ダンジョンで料理など、と思ったが、こうやってちゃんとした食事をするのも有意義だ。食事の充足感は活力に繋がる」
「えっと、ありがとうございます?」
恐らく誉められたのだろうと、一輝はお茶をジェイにお茶を渡しながら礼を言う。
それを受け取り一口啜ったジェイは、ややあってから口を開く。
「申し遅れたな。私は探索師を育成する学校……私立ルーゼンブル学園の理事を勤めているジェイ・アームストロングだ」
「私立ルーゼンブル学園……それって、あのルーゼンブルですか!?」
日本にもいくつかの探索師養成校がある。その中でも最難関と言われ、卒業するには最低でも二級探索師以上にならなければいけないという厳しい学校である。だが、それ故に卒業後の探索師としての道は明るい。
一輝を目の敵にする渡辺や、幼馴染みの恵が通うのも私立ルーゼンブル学園だ。
「一輝くん……君は、高校を中退していただろう?」
「え、はい……」
「これはあくまでも年寄りのお節介なんだがね……いまの時代、せめて高校くらいは出たほうが良いと思うんだよ。勿論、君や早織ちゃんの境遇はわかっている。しかし、それならそれで、探索師を目指す高校に通って、そこを卒業してはどうだろうか?」
「正宗さん……」
正宗達は、自分達がかつて就職ができず、探索師として生きるしかできなかった人生に思うところがあった。いまはそれなりに幸せな暮らしをしてはいるが、それでも後悔がないわけではない。
そして、そんな選択肢のない人生を、一輝に歩ませたくなかったのだ。
「俺とジェイは昔からの仲間だ。ジェイは俺たちと違って腕利きの探索師になり、こうやって日本最高の探索師養成校を立ち上げるまでになった。しかし、その目的はな、俺たちみたいにダンジョンに人生を奪われる。そんな若者を少しでも減らそうとしてのことだ」
「と、言うことだ。しかし、勘違いをしないでくれよ? 私はあくまでも、君に受験資格を与えてやる事しかできない。私は五人いる理事の内の一人であって、君の合格をねじ込んでやれるわけじゃない。それに……」
「それに……?」
「ただでやるわけにはいかないからねぇ」
そう言って羽織っていた上着を脱ぐジェイ。
筋肉でパンパンに張っているシャツも脱ぎ去り、上半身裸の姿になる。
「ここで私を相手に戦ってもらう。まぁ、勝てとは言わん。ただ、私の興味が動かなければ、そこで終わりだ、それに、これは断ることもできる。その場合、いままで通り探索師見習いとして頑張るしかないがな」
ジェイの言葉に、一輝は少しだけ黙り込んで考える。
いまは一刻でも早く金を稼ぎ、早織の手術費用を貯めなければいけない。だが、もしも私立ルーゼンブル学園に入学することが出来れば。いままで以上に探索の幅も広がるし、新たな食材との出会いもあるかもしれない。
噂程度であるが、私立ルーゼンブル学園には専用のダンジョンがあると言われている。そこでまだ見ぬ力を手に入れられるかもしれないのだ。
「正宗さん……ありがとうございます。こんな若造に、チャンスをくださって」
「一輝くん……」
「ジェイさん。俺が最底辺の探索師見習いということは知っていますね?」
「……あぁ。『調理』という言葉を聞いて、そんな子供がいるということを思い出した。だが……私が噂で聞く最底辺では、このダンジョンの三層目を越えることは出来ん。だからこそ、私はいま君に興味を持っている」
「そう、ですか……では、胸をお借りします!」
サッと構えを低くとる一輝。
この数日でマーダードッグを食べまくっていた一輝の、いまの素早さ重視のスタイルを活かす構えだ。
名称:神園 一輝
種族:人間
職業:探索師見習い
年齢:17
健康状態:良好
体力:42(+9)
筋力:23(+2)
俊敏:45(+15)
頭脳:26(+9)
魔力:8(+8)
能力:『調理』、『暴食の権能』、『噛み砕く』(UP!)、『音波』、『解析』、『みかわし』、『水鉄砲』(New!)
元々持っていた『噛みつく』は、エイリアンフィッシュの『噛み砕く』によって書き換えられた。上位互換の能力の場合このような現象が起こるようだ。
そして、『水鉄砲』という能力を得たことによって、一輝は遂に魔力を手に入れた。
『水鉄砲』は放出系の魔術に分類される能力だ。能力には大まかにわけて、体力を消費する『戦技』と、魔力を消費する『魔術』に分類される。
(勝つ必要はないとは言え、無様に負ければこの話は無かったことになる……なるべく……いや! 勝つ。ジェイさんに勝って、実力を見せるぐらいの気概がなければ!)
「良い目をするじゃないか、一輝君。まずは合格だ。ここで実力の差から折れる程度なら、見限るところだった。さぁ! 見せてくれ! 君の実力を!」
両腕を大きく広げて言い放つジェイ。
その途端、まるでジェイから発せられるかのように、辺りに突風が吹きわたる。
「す、すごい威圧感だ……でも、負けるわけにはいかない!」
一輝は低くした姿勢から、更に膝を曲げて一気に地面を蹴る。
バネの如くしなやかな瞬発力は、一輝の体を一発の弾丸へと変えた。
一輝の体が一瞬ぶれたかと思うと、地面が爆ぜて砂埃が舞い上がる。次の瞬間には、一輝の姿はジェイの真ん前まで来ていた。
「速い!」
「うわああぁ!」
予想外の瞬発力に、ジェイは自然と口角が上がるのを感じる。
ジェイは直ぐ様腕を下段でクロスにすると、下から穿ちあげてきた一輝の掌打を腕ごと受け止める。
「止められた!?」
「その程度で動きを止めてはいけないよ。レッスン1。攻める時は、最低でも五手先までは用意すること」
「くっ!」
受け止めた一輝の腕を、そのまま掴んで引き込むジェイ。
あまりにも筋力の差があるのだろう。抵抗虚しく、一輝の体はジェイの思うままに振り回される。
「さぁ、ここからどうする? 一輝君」
「な、めるなぁ!」
地面を蹴った一輝は、掴まれた腕を軸にして体全体を持ち上げ、そのままジェイの腕に足を絡ませる。その際にグチリッという嫌な音が鳴ったが、気にしない。
「ほう? 腕を犠牲にするか」
「だりゃっしゃあ!!」
そして、全体重をジェイの腕にかけて地面に引き倒そうとする。だが……。
「残念ながら、君一人の体を持ち上げられないほどに柔なトレーニングはしていなくてね。それに、君は少し軽すぎるな。もっと飯を食うと良い」
「んなっ!?」
「ふんっ!!」
一輝を腕に巻き付けたまま、ジェイは大きく振りかぶり……そのまま、地面を殴り付ける。
一輝の顔面に拳を当てたまま、地面に。
グシャリとも、ドチャリとも言えない、何かが潰れる様な音。
呆然としていた正宗達が直ぐに駆けつける。
「おいっ! ジェイ! やりすぎだ!!」
「正! そんな事より回復だ! 早くヒーラーを……」
「バカな事を言うな正宗。一輝君は無事だ」
「「は?」」
ジェイの言葉に目を丸くする一同。
それと同時に、砂煙で隠れていたジェイの腕の先が見え始める。
するとそこには、地面に呆然と寝そべる一輝の姿と、地面を撃ち抜いて拳を砕いたジェイが立っていた。
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