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「うん、これで……」

 クラス全員をコールドスリープし終えた。後はオレが転移する魔法を手に入れればいいだけ。

「ボクはどうすればいい?」

 倫太郎たちはコールドスリープしたけど、問題はアオイなんだよね。アオイはこのあとリルに会ってもらうことは決まっていることだけど、それ以降が全く決まっていない。
 決めるにしてもクラディアが決めるんだけど、シェーンの件は終わったかな。

「ねぇ、アオイ」
「なに?」
「あのとき言いかけたことって?」
「あれはね……」

 テオドールが飛び込んできて魔王城にワープする前、アオイは何か大事なことを言いかけていた。オレと聖女が鍵になる何かを。

「三千五百年前の出来事が、それが始まりだと、マオと聖女が鍵」
「三千五百年前?オレとあの女?」

 あのときは特におかしなことはなかっと思うけどなぁ。認めたくはないけどあの女、オレの油断してできたスキをついて毒を仕込みやがったし。

「うん。聖女の執念深さは恐ろしい」
「……」
「日記には聖女の残した言葉も書いてあった」

 記憶をなくす前のアオイって、かなり頭脳明晰だったんじゃないかな。

「その言葉は?」
「魔族は許さない、人族も許さない。って理解しづらい言葉」

 聖女だから魔族を許さないっていうのはわかるけど、人族も許さないってなんなんだ。人族に恨みがあるのか?

「セレンティア教国は聖の国だから、人族こそが正義、魔族は悪と考えている」
「だよな」

 だから魔王討伐をするメンバーに聖女なんていうセレンティアの最上位に君臨する人物がいたわけだし。
 そうなると、今回はセレンティアの人間は一人もいなかったよな。不自然だ。
 三鷹を聖女として投入しようとしてたんなら、その三鷹が勇者から抜けてしまったからしょうがないのかもしれないけど、ある程度力のあるセレンティアの人間を変わりに投入しても良かったはず。

「聖女がそんなことを言うなんて不自然極まりない。それに、亡霊としてこの世にとどまるなんてよっぽどのことがあったはず」
「考えが変わるとすればオレと戦ったことによるものだ、ということか」
「マオは察しがいい」
「そうか?うん、それで?」

 オレは先を促す。

「レステリアで勇者を召喚、その中に聖女となれる三鷹、元魔王のマオがいたっていうのは偶然ではないはず」

 あんまりにも都合がよろしいよね。というか、レステリアで召喚された時点で何者かに仕組まれていたのではないかと思ってしまう。

「セレンティアがするはずのことをレステリアがしていた。これはレステリアがセレンティアにやらされた」
「少なくともセレンティアのほうが立場が上だっただろうね」
「だから、マオと聖女が鍵を握っているってこと」

 なるほどねぇ……。
 クラディアは十日後に交通を断つといっていたから、もしそのことについて追究するなら十日以内。恐らく先延ばしはできないだろう。

 追究せずにいても、いずれは地球に帰るのだから大丈夫だろう。
 あの女の亡霊は倫太郎と平井によって消されたはずだ。まぁ、未練が強いとまだ残っている可能性もなくはないけど。

「ボクは、ハッキリ言ってどうでもいい。それに……」
「それに?」
「それに、もうレステリアに戻る気はないから。王女は狂ってしまったし、キラとユーゴもそれに同調している。ボクは自由な国に行くつもり」
「いいのか?」

 仮にも実の母親たちだぞ?

「いいんだ」

 アオイがそういうのならオレがどうこういう必要はない。

「そうか」
「マオ、入っていいかしら」

 フィーリアがドアをノックする。

「いいよ」

 オレが返事をすると、フィーリアが入ってきた。

「どうかしたの?」
「クラディアがアオイを呼んでこいって」
「そう、オレも行っていい?」
「いいんじゃないかしら。行きましょ、マオ、アオイ」

 フィーリアを先頭に、オレとアオイはクラディアのもとへと向かった。シェーンの件が終わったんだね。

「クラディア、連れてきたわよ」
「あぁ」

 オレとフィーリアは壁際に避ける。あくまでクラディアが話があるのはアオイだからな。
 アオイはクラディアの前に一人立っている状態だ。一人でたっていても怖気づいたりしないから強いな。

「セルリアン=フォン=レステリアよ、記憶を奪うことになってしまってすまなかった。返そうと思う」

 何があるのかと思ったら、そんなことか。打首だぁ、とか言い出さなくて良かった。
 別にアオイをそこまで大切に思っているわけじゃないですよ。ただ、知り合いがそうなってしまったら後味悪いなって、それだけ。

「いりません。レステリアへの情があってしまっては、レステリアを離れることができなくなりそうですんで」
「いいのか?」
「はい、それにマオにもらったアオイはもうボクになりましたから」

 アオイって、普通の記憶喪失の反応をしてくれないよね。予想の斜め上を行くっていうかね、スルッと予想外の方向へ行くんだよな。

「そうか、次はお前のこれからのことだ」

 どんな処分を下すことになるのかな。
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