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言語に気づく
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『マオ兄、私人族の言語をもっと学びたいの。読めるようにも、書けるようにもなりたいの』
リルを書庫に連れていくきっかけがこれだ。
メイドさんにリルを書庫に連れて行って書物を読ませても良いかと聞くと、やっぱりというのかな、簡単に許可がもらうことができた。
ただ、許可をされたのは第一書庫までだったけども。
メイドさんによると、子供向けの絵本も書庫には存在しているのだという。それらの場所と数は把握していないということだったが。
すぐに見つかるといいんだけど……。
書庫にリルを連れていくと、リルは書庫にある書物の多さに驚きの声を上げた。
しかし、人がいないとは限らないので極力小さな声で、だ。
『じゃあ、探そうか』
『うん……!』
相変わらずここの書物の大部分を占めるのはレステリア王国関係のものばかり。絵本がなかなか見当たらない。
これは根気強く行かないとですかね。
何時間経ったのだろう。やっと一つ、絵本を見つけた。王子様とお姫様が表紙に描かれているものだった。そして、書物の状態を見るに、かなり古いものみたいだ。
いつの時代も子どもは、王子様だとかお姫様が大好きなんだね。
親たちも、子どもはそういう物語が好きなんだと思っていて、オレも地球に転生してその時オレを生んでくれた両親にいろんな童話を読み聞かせてもらった覚えがある。
「タイトルは……」
『この本、私でも読めるわ。魔族の言語で書かれているもの』
「え……?」
リルが驚いたような嬉しいような声を上げるものだから、タイトルの文字をもう一度見た。
リルの言ったとおり、タイトルは魔族の言語で書かれていた。人族の言語じゃなかったんだ。
魔族の言語は昔から慣れ親しんでいたものだし、人族の言語も、この世界に召喚されたときに読み書き両方、日本語を使うように容易に使えるようになった。
つまりは、どっちもオレにとって当たり前に読める言語だったわけで……。
……もしかして。オレは今みたいに見逃していたんじゃなかろうか。
敵対している魔族と人族なのに、魔族の言語で書かれた書物が人族の国の書庫にあるのはどういうことだかはわからないが、この絵本が証拠で、魔族の言語の書物はここに存在しているということだ。
よく考えてみれば、なんで魔王の情報があったんだ。人族は魔族の言語を知らないのだろう?なんでそんなものが存在することが……。
レステリア王国の直系の血筋が魔王に滅ぼされた。これは人族から見てのことで、人族の言語で書かれていたことだろう。
だったら、魔王についての書物はどうだ。オレが気にしていなかっただけで、魔族の言語で書かれていたんだろう。
オレ一人では気づくことができなかったことだ。
こういうこともあるんだな。さすがに話すのは人族の言語と魔族の言語は違いすぎて間違うことはないんだけど……。
これからはどっちの言語で書かれているか確かめてから読まないとだ。
『へぇ……。魔族のお姫様と人族の王子様の話なんだって。珍しいね』
『そうだな』
ほんとに珍しい話の絵本だ。魔族のお姫様と人族の王子様の物語だなんて。
お姫様と王子様は最後に結婚したり、そうでなくてもハッピーエンドになる物語が多い。
魔族と人族が結婚するのか?ハッピーエンドになるのか?
今までの魔族と人族の関係では、そういう物語を作ろうとすら思わないんじゃないかな。
リルみたいな奴がいたら作ったりするのかもしれないけど。
『この本、お部屋で読みたいんだけど……いい?』
できればここで読んでほしいんだけど、オレはそろそろ訓練の時間だ。リルを書庫においていくことはできない、したくないのだ。
『じゃ、借りていくか』
『うん』
リルは絵本をギュッと抱きしめるように持って、オレと一緒に書庫の出口へ向かっていった。
「その絵本を、ですか。わかりました。大丈夫です」
日本の図書館みたいにバーコードに赤外線をあてて、貸し出しと返却を管理する……なんてことはなく、メイドさんの確認だけですんだ。
絵本のタイトルが人族の言語じゃないから没収されるなんてことはなかった。
『……っ』
部屋に戻るまでの間、リルは今にも飛び跳ねてしまいそうなくらいの喜びようだった。
笑顔でそんなに嬉しそうにしてくれると、こっちまで笑顔になるね。
リルを部屋まで送り届けて、オレは訓練に向かった。訓練は段階的に高度なものになっていて、今は対人戦を目的とした訓練をしている。
一対一で魔法を打ち合うのだ。また、使っている訓練場所もそれに特化した場所で、その訓練場所から出る際におった傷がすべて回復するのだった。
回復魔法の応用だね。
「結城くん、ギリギリだね」
「ん……書庫行ってたからね」
三鷹は最近よくオレに話しかけてくる。
女友達と話していても、オレを見つけると女友達に断りを入れてからオレのところにやってくる。
迷惑なわけじゃあないんだけど……なんでだろ。わざわざそんなねぇ……。
あれですか?好きな子と話したい、なんていうやつですか?
そうだったとしても、オレは今川みたいに完璧人間でも、倫太郎みたいに運動神経がいいわけでもないから……オレの一体どこを好きになると言うんですか。
……ま、そんなことないよな。
クラスの中で三鷹を好きな男は少なくない。そんな三鷹がオレを……なんてことはないか。
「そうなんだ、なんか面白いやつとかある?」
三鷹さん、積極的ですね……。
「んー……スライムについての本が結構あったかなぁ……」
「ス、スライム?面白いの……?」
「読んだことはないよ、見かけただけで」
「シュールね……」
リルを書庫に連れていくきっかけがこれだ。
メイドさんにリルを書庫に連れて行って書物を読ませても良いかと聞くと、やっぱりというのかな、簡単に許可がもらうことができた。
ただ、許可をされたのは第一書庫までだったけども。
メイドさんによると、子供向けの絵本も書庫には存在しているのだという。それらの場所と数は把握していないということだったが。
すぐに見つかるといいんだけど……。
書庫にリルを連れていくと、リルは書庫にある書物の多さに驚きの声を上げた。
しかし、人がいないとは限らないので極力小さな声で、だ。
『じゃあ、探そうか』
『うん……!』
相変わらずここの書物の大部分を占めるのはレステリア王国関係のものばかり。絵本がなかなか見当たらない。
これは根気強く行かないとですかね。
何時間経ったのだろう。やっと一つ、絵本を見つけた。王子様とお姫様が表紙に描かれているものだった。そして、書物の状態を見るに、かなり古いものみたいだ。
いつの時代も子どもは、王子様だとかお姫様が大好きなんだね。
親たちも、子どもはそういう物語が好きなんだと思っていて、オレも地球に転生してその時オレを生んでくれた両親にいろんな童話を読み聞かせてもらった覚えがある。
「タイトルは……」
『この本、私でも読めるわ。魔族の言語で書かれているもの』
「え……?」
リルが驚いたような嬉しいような声を上げるものだから、タイトルの文字をもう一度見た。
リルの言ったとおり、タイトルは魔族の言語で書かれていた。人族の言語じゃなかったんだ。
魔族の言語は昔から慣れ親しんでいたものだし、人族の言語も、この世界に召喚されたときに読み書き両方、日本語を使うように容易に使えるようになった。
つまりは、どっちもオレにとって当たり前に読める言語だったわけで……。
……もしかして。オレは今みたいに見逃していたんじゃなかろうか。
敵対している魔族と人族なのに、魔族の言語で書かれた書物が人族の国の書庫にあるのはどういうことだかはわからないが、この絵本が証拠で、魔族の言語の書物はここに存在しているということだ。
よく考えてみれば、なんで魔王の情報があったんだ。人族は魔族の言語を知らないのだろう?なんでそんなものが存在することが……。
レステリア王国の直系の血筋が魔王に滅ぼされた。これは人族から見てのことで、人族の言語で書かれていたことだろう。
だったら、魔王についての書物はどうだ。オレが気にしていなかっただけで、魔族の言語で書かれていたんだろう。
オレ一人では気づくことができなかったことだ。
こういうこともあるんだな。さすがに話すのは人族の言語と魔族の言語は違いすぎて間違うことはないんだけど……。
これからはどっちの言語で書かれているか確かめてから読まないとだ。
『へぇ……。魔族のお姫様と人族の王子様の話なんだって。珍しいね』
『そうだな』
ほんとに珍しい話の絵本だ。魔族のお姫様と人族の王子様の物語だなんて。
お姫様と王子様は最後に結婚したり、そうでなくてもハッピーエンドになる物語が多い。
魔族と人族が結婚するのか?ハッピーエンドになるのか?
今までの魔族と人族の関係では、そういう物語を作ろうとすら思わないんじゃないかな。
リルみたいな奴がいたら作ったりするのかもしれないけど。
『この本、お部屋で読みたいんだけど……いい?』
できればここで読んでほしいんだけど、オレはそろそろ訓練の時間だ。リルを書庫においていくことはできない、したくないのだ。
『じゃ、借りていくか』
『うん』
リルは絵本をギュッと抱きしめるように持って、オレと一緒に書庫の出口へ向かっていった。
「その絵本を、ですか。わかりました。大丈夫です」
日本の図書館みたいにバーコードに赤外線をあてて、貸し出しと返却を管理する……なんてことはなく、メイドさんの確認だけですんだ。
絵本のタイトルが人族の言語じゃないから没収されるなんてことはなかった。
『……っ』
部屋に戻るまでの間、リルは今にも飛び跳ねてしまいそうなくらいの喜びようだった。
笑顔でそんなに嬉しそうにしてくれると、こっちまで笑顔になるね。
リルを部屋まで送り届けて、オレは訓練に向かった。訓練は段階的に高度なものになっていて、今は対人戦を目的とした訓練をしている。
一対一で魔法を打ち合うのだ。また、使っている訓練場所もそれに特化した場所で、その訓練場所から出る際におった傷がすべて回復するのだった。
回復魔法の応用だね。
「結城くん、ギリギリだね」
「ん……書庫行ってたからね」
三鷹は最近よくオレに話しかけてくる。
女友達と話していても、オレを見つけると女友達に断りを入れてからオレのところにやってくる。
迷惑なわけじゃあないんだけど……なんでだろ。わざわざそんなねぇ……。
あれですか?好きな子と話したい、なんていうやつですか?
そうだったとしても、オレは今川みたいに完璧人間でも、倫太郎みたいに運動神経がいいわけでもないから……オレの一体どこを好きになると言うんですか。
……ま、そんなことないよな。
クラスの中で三鷹を好きな男は少なくない。そんな三鷹がオレを……なんてことはないか。
「そうなんだ、なんか面白いやつとかある?」
三鷹さん、積極的ですね……。
「んー……スライムについての本が結構あったかなぁ……」
「ス、スライム?面白いの……?」
「読んだことはないよ、見かけただけで」
「シュールね……」
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