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「簡単に言うと、ライと逆?」
その後普通に暮らしていくと決意したのに非日常なことが起こりやがってクラス転移なんてものをしてしまうんだけどね。
「前世の人格、今世の人格でややこしいことになっているんじゃなくて、混ざって第三の人格になりつつあるからね」
「オレもそうなるのかな……」
「そうかもしれないね」
とはいうものの、前世からカレーを愛しているっぽいライには前世も今世もないような気がするな。ゴーイングマイウェイな感じでさ。
「よし、それは分かった。続きを聞かせて」
自分がTHEファンタジーな体験しちゃっているのに目を輝かせちゃって。自分の体験とはまた別物なのかな。
「前は魔王やっててね、死んだら人間になっててね、人間として生きていくことに納得したらまさかのクラス転移」
そんな前置きをしてからあんまりにも長いから大雑把にだけど、比較的詳しく丁寧に今までのことをライに伝えた。
ライはときどき頷いたりうつむいたり笑ったり、たくさんの表情を見せてくれた。
「……うん。こんな感じ」
長話が終わったのは日が暮れる頃だった。倫太郎にも平井にもここまでは話したことなかっただろう。
どこか違う、話せない、そんな感じがあった。信頼できないからじゃない、それよりも深いところのどこかで一歩引いてしまって、これ以上は駄目だと線引きをしているのかもしれない。
だったら、なんでライはその線引きをしなかったのだろう。
「ユウキおじーちゃん」
「やめろ」
「パイセン」
「どこの漫画だ」
「……あはは、面白い」
オレをおじーちゃんと呼んだりパイセンと呼んだりしたあと、ライは急に腹を抱えて大笑いしだした。
ちょっと何、怖い。
「ユウキはオレとあんま変わらないんだなーって」
「そうなの?」
……。
「そう。ユウキは精神年齢的にはおじーちゃんのはずなんだけど、見た目通りの精神をしているというか何と言うか」
「うん?」
「精神年齢からみたら、子どもだなって」
「はぁっ!」
子どもって!いやさ、うん、完全否定はしないよ?心はいつまでも若いままでいたいって思うのは普通だものね?
でもさ、これでも数百と生きているわけでしてね?子どもってのには抵抗が……。
「要約するとユウキはユウキだねってこと」
「できてないけど、なんとなくわかった」
「そう、伝わったか。良かった」
ライはそうつぶやいて柔らかい笑みを浮かべた。
ライは、オレはオレだって言ってくれたんだ。いいやつに出会えたものだな。
「あ、カレーどうする?」
「そうだね……」
カレーにご対面をしてみたいものの、現在の最優先事項はフィーリアに顔を見せに行くことだ。
カレー好きが目指したカレー、ライがどんなふうに再現できたのは見てみたいけど、今じゃなくてもいい。
フィーリアのほうが大事だからな。
「今度でいいかな?」
「そうしよう。奥さんは大事にね、ユウキ」
「当たり前だよ」
当たり前だよとか言っておきながら……ね。うーん……まだフラフラしてるなぁ。
毎度決めなきゃ決めなきゃとは思っているけど、決められない。ズバッと決められるようなこと起きないかなーなんて。他力本願じゃ駄目なんだよね。
「じゃあね、ユウキ」
「またな」
ライはこれからナンも作ろうとしているとか。
「主様、スカッとした顔してるね」
「そうかな?」
「うん」
スカッとした、か。
「さて、フィーリアのとこに行きますかね……」
移動は面倒くさいから転移でいいよね。良くないと言われてもするよ。
「転移」
「ま、待ってー!」
「早くしてー」
転移先はもちろんフィーリアの元。ついででガイオスやクラディアもいる大広間に。
大広間はいわゆる『よく来たな勇者』をやる場所で、普段は魔王のプライベートな空間となっている。勇者が来たら私物なんかは空間に放り込むのだ。あ、これはオレの場合ね。クラディアは私物はあまりおいていないみたいだね。
「ただいま」
「おかえりなさい」
フィーリアが一言だけ言って、ギュッとしてきた。さすがフィーリアで、力が強い。もう離さないとでも言っているようであった。
それは嬉しいことであった。だから、オレもフィーリアのことをギュッとしかえす。
「ありがとうね、待っててくれて」
「いいえ……ありがとうは私の方よ」
オレとフィーリアどちらも恐怖があったのだ。オレは帰ってきてくれるのか、フィーリアは待っていてくれるのか。
そんなことを感じる必要はないと言ったって、感じてしまうものなのだ。あまりにも不確定なものが多すぎて。
「私も……」
「リル?」
「マオ兄、おかえりなさい」
「ただいま、リル」
リルにも心配かけちゃったもんな。
「若いな……」
「年齢的には若くはないはずなんだが……」
「いつまでも心は若いんだよ。きっと」
周りうるさいぞ。
その後普通に暮らしていくと決意したのに非日常なことが起こりやがってクラス転移なんてものをしてしまうんだけどね。
「前世の人格、今世の人格でややこしいことになっているんじゃなくて、混ざって第三の人格になりつつあるからね」
「オレもそうなるのかな……」
「そうかもしれないね」
とはいうものの、前世からカレーを愛しているっぽいライには前世も今世もないような気がするな。ゴーイングマイウェイな感じでさ。
「よし、それは分かった。続きを聞かせて」
自分がTHEファンタジーな体験しちゃっているのに目を輝かせちゃって。自分の体験とはまた別物なのかな。
「前は魔王やっててね、死んだら人間になっててね、人間として生きていくことに納得したらまさかのクラス転移」
そんな前置きをしてからあんまりにも長いから大雑把にだけど、比較的詳しく丁寧に今までのことをライに伝えた。
ライはときどき頷いたりうつむいたり笑ったり、たくさんの表情を見せてくれた。
「……うん。こんな感じ」
長話が終わったのは日が暮れる頃だった。倫太郎にも平井にもここまでは話したことなかっただろう。
どこか違う、話せない、そんな感じがあった。信頼できないからじゃない、それよりも深いところのどこかで一歩引いてしまって、これ以上は駄目だと線引きをしているのかもしれない。
だったら、なんでライはその線引きをしなかったのだろう。
「ユウキおじーちゃん」
「やめろ」
「パイセン」
「どこの漫画だ」
「……あはは、面白い」
オレをおじーちゃんと呼んだりパイセンと呼んだりしたあと、ライは急に腹を抱えて大笑いしだした。
ちょっと何、怖い。
「ユウキはオレとあんま変わらないんだなーって」
「そうなの?」
……。
「そう。ユウキは精神年齢的にはおじーちゃんのはずなんだけど、見た目通りの精神をしているというか何と言うか」
「うん?」
「精神年齢からみたら、子どもだなって」
「はぁっ!」
子どもって!いやさ、うん、完全否定はしないよ?心はいつまでも若いままでいたいって思うのは普通だものね?
でもさ、これでも数百と生きているわけでしてね?子どもってのには抵抗が……。
「要約するとユウキはユウキだねってこと」
「できてないけど、なんとなくわかった」
「そう、伝わったか。良かった」
ライはそうつぶやいて柔らかい笑みを浮かべた。
ライは、オレはオレだって言ってくれたんだ。いいやつに出会えたものだな。
「あ、カレーどうする?」
「そうだね……」
カレーにご対面をしてみたいものの、現在の最優先事項はフィーリアに顔を見せに行くことだ。
カレー好きが目指したカレー、ライがどんなふうに再現できたのは見てみたいけど、今じゃなくてもいい。
フィーリアのほうが大事だからな。
「今度でいいかな?」
「そうしよう。奥さんは大事にね、ユウキ」
「当たり前だよ」
当たり前だよとか言っておきながら……ね。うーん……まだフラフラしてるなぁ。
毎度決めなきゃ決めなきゃとは思っているけど、決められない。ズバッと決められるようなこと起きないかなーなんて。他力本願じゃ駄目なんだよね。
「じゃあね、ユウキ」
「またな」
ライはこれからナンも作ろうとしているとか。
「主様、スカッとした顔してるね」
「そうかな?」
「うん」
スカッとした、か。
「さて、フィーリアのとこに行きますかね……」
移動は面倒くさいから転移でいいよね。良くないと言われてもするよ。
「転移」
「ま、待ってー!」
「早くしてー」
転移先はもちろんフィーリアの元。ついででガイオスやクラディアもいる大広間に。
大広間はいわゆる『よく来たな勇者』をやる場所で、普段は魔王のプライベートな空間となっている。勇者が来たら私物なんかは空間に放り込むのだ。あ、これはオレの場合ね。クラディアは私物はあまりおいていないみたいだね。
「ただいま」
「おかえりなさい」
フィーリアが一言だけ言って、ギュッとしてきた。さすがフィーリアで、力が強い。もう離さないとでも言っているようであった。
それは嬉しいことであった。だから、オレもフィーリアのことをギュッとしかえす。
「ありがとうね、待っててくれて」
「いいえ……ありがとうは私の方よ」
オレとフィーリアどちらも恐怖があったのだ。オレは帰ってきてくれるのか、フィーリアは待っていてくれるのか。
そんなことを感じる必要はないと言ったって、感じてしまうものなのだ。あまりにも不確定なものが多すぎて。
「私も……」
「リル?」
「マオ兄、おかえりなさい」
「ただいま、リル」
リルにも心配かけちゃったもんな。
「若いな……」
「年齢的には若くはないはずなんだが……」
「いつまでも心は若いんだよ。きっと」
周りうるさいぞ。
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