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これでも領主です

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「日のある時間に外での仕事、お疲れさまでした。姉上。体は大丈夫ですか? 日には当たってませんね? 気分が悪くなったらすぐに教えてください。万が一と言うこともありますからね。絶対ですからねっ!」

 世話焼きな弟の紡ぐ言葉に「はいはい」とか「わかったわかった」など曖昧に応えつつも脱いだ上着などをそっとメイドに預け、そのままジェイルを引き連れて食堂へと移動した。いつもよりも遅い朝食ではあるが、料理人は早朝の仕事があるのを知っているために終わりを見越して作り始めてくれたらしくとても暖かいご飯が待っていた。
 お互い自分の席へ無言のまま座ると、程無くしてテーブルに出された朝食を口にする。

「それにしても彼らはこれからどうなるのでしょうね……」
「まぁ、早いものは隣の領に入って移住するだろうよ。妾を断罪した意味が全くないような気もするがな……。それに若者は王都へ憧れるものなのじゃろ? ならばそこを目指す者も多数は居るじゃろうの」

 確かすぐ近くの町の乗り合い馬車で領都を目指して、そこからまた乗り合い馬車での移動をいくつか繰り返して王都へ着くはず……。ここは辺境のアメジール地方だから王都からかなり離れてる。確かうちの専用の馬車を昼夜問わず走らせても8日。乗り合いだとそれ以上かかるだろう。

「王都かぁ……。別に規模を言ったらそりゃどの領地だって負けますけど、でも出店してるお店は王都とアメジール領のラインナップと言うかレベルはそんなに変わらないですよね。ただ王都は見るからに華やかってだけで……。この領地は大きな田舎町って言う景観を領の規則で守ってるだけで、メインストリートの店は外は素朴な装飾ですけど中に入ったらかなり都会なのにな……」

 本当に何であの人族達は出ていったんだろう……と不思議そうにジェイルが呟いていた。まぁ、確かにこのアメジールの領都は外だけを見たら何もない辺鄙な田舎町だ。看板もさりげないサイズのものだし、景観を大事にしてるから例えばお洒落なカフェの場合、ドアにcoffeeとかtea、茶等と木彫りで掲げられてるものの、入口付近にわざとらしく背負い籠や小さめの荷車が展示してある。橋の所にある見張り小屋にはメインストリートの店の描かれた地図も用意してあって観光客にはかなり好評なのだが……。

 あれ? 本当に何が不満だったのじゃろ……。

 ーーやっぱり金(税金)問題なの? もしかしてメインストリートのお店に入ったことなかったのかな……。え、でも執事や秘書が学園の生徒が帰りにお茶していくのがブームらしいって言ってたけど……。お金……。なかったのかな……。朝御飯と言えどこれから眠る自分にとっては夜ご飯なのでレアに焼かれたステーキをパクリと口へと運んだ。








「ジェイル、お前は初めての断罪ごっこじゃろ? 前のときは父上達と王都にいたからの……。だったら祭りに参加してきたらどうだ? 無礼講じゃし、今日の仕事は全てお休みにしたからの……。パーっと楽しんでこい? 妾は少ししたら寝るし……」

 食事を終えるとクリスタリアは私室に入り、揺ったりと最高品質のソファーに体を預け笑っていた。

「姉上……。僕はそんなことよりも朝御飯食べたけど、まだお腹が空いてます。デザートください」
「ふふっ、それもそうじゃの……。今週、ジェイルは朝も夜もお仕事を頑張ったからの……。おいで? ご褒美じゃ……」

 袖を捲り上げて白い腕を差し出すと床に膝をつけたジェイルが紫の瞳を紅くして欲にまみれた目をしていた。

 「遠慮は要らぬぞ?」と言えば、彼はそっと優しく腕をとり、ゆっくりと唇を寄せ、そして思いきり尖った牙を突き刺した。そこからは傷からゆっくりと流れ出る血を美味しそうに啜り、舐めては飲み込み、恍惚といった表情で口を赤に染める弟のジェイルの頭を愛しそうに優しく撫でていると、やがて傷が塞がったのか周りに着いた血を残さず舐め取っていた。

「姉上の血が一番好き」
「それは母上が聞いたら嘆くから決して言うでないよ……」
「わかってます!」

 唇に着いた血を舌で舐め取る姿は弟と言えど何故かいやらしかった。

 あぁ、姉の知らない間に弟は大人へと成長しているのだなぁ……と、認識できた日だった。






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