12 / 134
これでも領主です
10
しおりを挟む「日のある時間に外での仕事、お疲れさまでした。姉上。体は大丈夫ですか? 日には当たってませんね? 気分が悪くなったらすぐに教えてください。万が一と言うこともありますからね。絶対ですからねっ!」
世話焼きな弟の紡ぐ言葉に「はいはい」とか「わかったわかった」など曖昧に応えつつも脱いだ上着などをそっとメイドに預け、そのままジェイルを引き連れて食堂へと移動した。いつもよりも遅い朝食ではあるが、料理人は早朝の仕事があるのを知っているために終わりを見越して作り始めてくれたらしくとても暖かいご飯が待っていた。
お互い自分の席へ無言のまま座ると、程無くしてテーブルに出された朝食を口にする。
「それにしても彼らはこれからどうなるのでしょうね……」
「まぁ、早いものは隣の領に入って移住するだろうよ。妾を断罪した意味が全くないような気もするがな……。それに若者は王都へ憧れるものなのじゃろ? ならばそこを目指す者も多数は居るじゃろうの」
確かすぐ近くの町の乗り合い馬車で領都を目指して、そこからまた乗り合い馬車での移動をいくつか繰り返して王都へ着くはず……。ここは辺境のアメジール地方だから王都からかなり離れてる。確かうちの専用の馬車を昼夜問わず走らせても8日。乗り合いだとそれ以上かかるだろう。
「王都かぁ……。別に規模を言ったらそりゃどの領地だって負けますけど、でも出店してるお店は王都とアメジール領のラインナップと言うかレベルはそんなに変わらないですよね。ただ王都は見るからに華やかってだけで……。この領地は大きな田舎町って言う景観を領の規則で守ってるだけで、メインストリートの店は外は素朴な装飾ですけど中に入ったらかなり都会なのにな……」
本当に何であの人族達は出ていったんだろう……と不思議そうにジェイルが呟いていた。まぁ、確かにこのアメジールの領都は外だけを見たら何もない辺鄙な田舎町だ。看板もさりげないサイズのものだし、景観を大事にしてるから例えばお洒落なカフェの場合、ドアにcoffeeとかtea、茶等と木彫りで掲げられてるものの、入口付近にわざとらしく背負い籠や小さめの荷車が展示してある。橋の所にある見張り小屋にはメインストリートの店の描かれた地図も用意してあって観光客にはかなり好評なのだが……。
あれ? 本当に何が不満だったのじゃろ……。
ーーやっぱり金(税金)問題なの? もしかしてメインストリートのお店に入ったことなかったのかな……。え、でも執事や秘書が学園の生徒が帰りにお茶していくのがブームらしいって言ってたけど……。お金……。なかったのかな……。朝御飯と言えどこれから眠る自分にとっては夜ご飯なのでレアに焼かれたステーキをパクリと口へと運んだ。
「ジェイル、お前は初めての断罪ごっこじゃろ? 前のときは父上達と王都にいたからの……。だったら祭りに参加してきたらどうだ? 無礼講じゃし、今日の仕事は全てお休みにしたからの……。パーっと楽しんでこい? 妾は少ししたら寝るし……」
食事を終えるとクリスタリアは私室に入り、揺ったりと最高品質のソファーに体を預け笑っていた。
「姉上……。僕はそんなことよりも朝御飯食べたけど、まだお腹が空いてます。デザートください」
「ふふっ、それもそうじゃの……。今週、ジェイルは朝も夜もお仕事を頑張ったからの……。おいで? ご褒美じゃ……」
袖を捲り上げて白い腕を差し出すと床に膝をつけたジェイルが紫の瞳を紅くして欲にまみれた目をしていた。
「遠慮は要らぬぞ?」と言えば、彼はそっと優しく腕をとり、ゆっくりと唇を寄せ、そして思いきり尖った牙を突き刺した。そこからは傷からゆっくりと流れ出る血を美味しそうに啜り、舐めては飲み込み、恍惚といった表情で口を赤に染める弟のジェイルの頭を愛しそうに優しく撫でていると、やがて傷が塞がったのか周りに着いた血を残さず舐め取っていた。
「姉上の血が一番好き」
「それは母上が聞いたら嘆くから決して言うでないよ……」
「わかってます!」
唇に着いた血を舌で舐め取る姿は弟と言えど何故かいやらしかった。
あぁ、姉の知らない間に弟は大人へと成長しているのだなぁ……と、認識できた日だった。
0
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか
まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。
しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。
〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。
その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました
お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる