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これでも領主です

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「ふむ、どうやら最初と比べるとリュックと簡単な食料のみで、随分とこざっぱりとしたようだの。集まり始めた当初はリヤカーに野菜たっぷり。てんこ盛り過ぎてさすがに妾も久し振りにドン引きしたわぁ」

 野菜。あの量から察するに畑にあったものは全て自分のものだと引っこ抜いたらしいが、保存方法を知らないだろうな……。最後には腐っていくであろう哀れな野菜との旅に彼らは理解していたのだろうか……。想定内だったら逆に怖い。

「リヤカーはリサイクルできますから必要ない家の物はこちらが買い取ったようですね。ソレにしてもなかなか皆さん手際が良いですね」

 実は皆が集まっている門のある広場は領館の裏手のために役人や住民が仮設の役所や屋台の設置に集まったときから部屋の中でずっとジェイルとお茶をしながら見ていた。
 そして広場の露店設置などが終わり、落ち着いた頃に一仕事終えたらしい人族がわらわらと集まってきたのだった。

 現れた人族の一家族毎にリヤカーに乗せられた大量の野菜。そして何に使っていたのかと不思議で仕方ない大量の壺類。収納が足りなくなったのか自作したらしき数々の棚(?)。木や陶器で出来た食器類。まぁ、引っ越しと思えば野菜以外は普通の姿な気がする。

 人族以外の大人である領民はほぼ一度は体験している断罪ごっこで、告知された時間がどんなに遅い時間でも金儲けしようと思う者はあの屋台のように数量限定のお弁当を作ったり、雑貨屋は必要のなくなった壺などを買い取ったり、武器屋はナイフを販売したり、魔導ショップは回復薬を販売。薬屋は旅に必需品の腹痛などの薬各種の販売。売れるかわからないけど記念にどうぞ? 的なノリなのか土産物屋もいくつか点在していた。一番人気は竹細工屋の水筒だった。

 うむ、確かに旅には飲み物は必須じゃからな……。

 ドワーフの爺が在庫処分出来たのか、あの顔はかなり嬉しそうじゃの……。おや? 古着屋も商品が増えたのか買ってくれたのか判らぬがかなり嬉しそうにしとるの……。

「皆、お小遣いや商品が増えたみたいで本当に良かったの……。うむうむ」
「あ、そろそろ時間ですよ? 姉上……」

 視線を部屋に戻せば弟のジェイルが分厚いケープの付いたロングコートを片手に近くへ来て妾に着せた。

「良いですか? 絶対に! ぜーったいに! 日に当たらないでくださいね? 姉上は日光アレルギーで浴びたら大火傷する前に皮膚が直ぐに爛れてしまうのですから! そして大火傷ですからね? わかってますよね!?」

 膝立ちしてクリスタリアの両肩を両手でガッチリと掴み、まるで小さな子に言い聞かせるような姿で部屋にいた使用人達はクスクスと微笑ましそうな顔で小さく笑っていた。

 身長差は50㎝以上あるのだから目を合わせるには体の大きい方が小さいのに会わせた方が楽である。それはわかる。分かってる。でも弟にされると若干凹む……。

「ジェイル。そんなに念を押さなくても妾はもう子供じゃないから、ちゃぁ~んとわかっとるよ。ーーまぁ、妾が日光に弱いもんだから、ここの人族は吸血鬼の知識が今やギャグでしかない銀の武器に弱いだの十字架が嫌いだのニンニクがダメだのとぬかすのじゃろ? 領館内をちゃんと見れば解るだろうに……。壁の腰壁にはいくつも十字架が刻まれとるし、この地方の特産は主にニンニク。そして銀細工。その他、昔の物語に出てくる吸血鬼が苦手とするものたくさんあるのにの……。本当に自分勝手じゃの。ーーまぁ、人族は全ての種族のなかで寿命が一番短いからそれ故に未来を、人生を謳歌したいんじゃろうて……」

 なんて話をしている合間にジェイルになぜかコートを着せられたあとはお洒落な鍔の大きいボンネットを被せられた。そして手渡された真っ黒な日傘を差すと、空に同じデザインの岩で出来た大きな傘が出現した。

 いや、帽子は要らないと思うのじゃけど……。ファッション?

『領主様だ!』

 領民は人族を除いて各々頭を低くしていた。

「あぁ、よいよい。今日は祭りみたいなものじゃて、頭をあげよ……。さて? そろそろ鐘が鳴るからの……。門を開くとしようか」

 片手の掌を門へと向けた。

「閉ざされた門よ。妾、クリスタリア・アメジールが命ずる。渓には橋を架け、旅人を通せよ」

 魔法陣を認証させると門はゆっくりと外へ倒れていった。

 本当は無詠唱でいけるのだが、断罪ごっこのエンディングを飾るパフォーマンスも兼ねているのでちゃんと口で詠唱する。

 そしてガシャーンと言う音と共に領地に朝の1の鐘が鳴り響いた。








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