10 / 134
これでも領主です
8
しおりを挟む「ふむ、どうやら最初と比べるとリュックと簡単な食料のみで、随分とこざっぱりとしたようだの。集まり始めた当初はリヤカーに野菜たっぷり。てんこ盛り過ぎてさすがに妾も久し振りにドン引きしたわぁ」
野菜。あの量から察するに畑にあったものは全て自分のものだと引っこ抜いたらしいが、保存方法を知らないだろうな……。最後には腐っていくであろう哀れな野菜との旅に彼らは理解していたのだろうか……。想定内だったら逆に怖い。
「リヤカーはリサイクルできますから必要ない家の物はこちらが買い取ったようですね。ソレにしてもなかなか皆さん手際が良いですね」
実は皆が集まっている門のある広場は領館の裏手のために役人や住民が仮設の役所や屋台の設置に集まったときから部屋の中でずっとジェイルとお茶をしながら見ていた。
そして広場の露店設置などが終わり、落ち着いた頃に一仕事終えたらしい人族がわらわらと集まってきたのだった。
現れた人族の一家族毎にリヤカーに乗せられた大量の野菜。そして何に使っていたのかと不思議で仕方ない大量の壺類。収納が足りなくなったのか自作したらしき数々の棚(?)。木や陶器で出来た食器類。まぁ、引っ越しと思えば野菜以外は普通の姿な気がする。
人族以外の大人である領民はほぼ一度は体験している断罪ごっこで、告知された時間がどんなに遅い時間でも金儲けしようと思う者はあの屋台のように数量限定のお弁当を作ったり、雑貨屋は必要のなくなった壺などを買い取ったり、武器屋はナイフを販売したり、魔導ショップは回復薬を販売。薬屋は旅に必需品の腹痛などの薬各種の販売。売れるかわからないけど記念にどうぞ? 的なノリなのか土産物屋もいくつか点在していた。一番人気は竹細工屋の水筒だった。
うむ、確かに旅には飲み物は必須じゃからな……。
ドワーフの爺が在庫処分出来たのか、あの顔はかなり嬉しそうじゃの……。おや? 古着屋も商品が増えたのか買ってくれたのか判らぬがかなり嬉しそうにしとるの……。
「皆、お小遣いや商品が増えたみたいで本当に良かったの……。うむうむ」
「あ、そろそろ時間ですよ? 姉上……」
視線を部屋に戻せば弟のジェイルが分厚いケープの付いたロングコートを片手に近くへ来て妾に着せた。
「良いですか? 絶対に! ぜーったいに! 日に当たらないでくださいね? 姉上は日光アレルギーで浴びたら大火傷する前に皮膚が直ぐに爛れてしまうのですから! そして大火傷ですからね? わかってますよね!?」
膝立ちしてクリスタリアの両肩を両手でガッチリと掴み、まるで小さな子に言い聞かせるような姿で部屋にいた使用人達はクスクスと微笑ましそうな顔で小さく笑っていた。
身長差は50㎝以上あるのだから目を合わせるには体の大きい方が小さいのに会わせた方が楽である。それはわかる。分かってる。でも弟にされると若干凹む……。
「ジェイル。そんなに念を押さなくても妾はもう子供じゃないから、ちゃぁ~んとわかっとるよ。ーーまぁ、妾が日光に弱いもんだから、ここの人族は吸血鬼の知識が今やギャグでしかない銀の武器に弱いだの十字架が嫌いだのニンニクがダメだのとぬかすのじゃろ? 領館内をちゃんと見れば解るだろうに……。壁の腰壁にはいくつも十字架が刻まれとるし、この地方の特産は主にニンニク。そして銀細工。その他、昔の物語に出てくる吸血鬼が苦手とするものたくさんあるのにの……。本当に自分勝手じゃの。ーーまぁ、人族は全ての種族のなかで寿命が一番短いからそれ故に未来を、人生を謳歌したいんじゃろうて……」
なんて話をしている合間にジェイルになぜかコートを着せられたあとはお洒落な鍔の大きいボンネットを被せられた。そして手渡された真っ黒な日傘を差すと、空に同じデザインの岩で出来た大きな傘が出現した。
いや、帽子は要らないと思うのじゃけど……。ファッション?
『領主様だ!』
領民は人族を除いて各々頭を低くしていた。
「あぁ、よいよい。今日は祭りみたいなものじゃて、頭をあげよ……。さて? そろそろ鐘が鳴るからの……。門を開くとしようか」
片手の掌を門へと向けた。
「閉ざされた門よ。妾、クリスタリア・アメジールが命ずる。渓には橋を架け、旅人を通せよ」
魔法陣を認証させると門はゆっくりと外へ倒れていった。
本当は無詠唱でいけるのだが、断罪ごっこのエンディングを飾るパフォーマンスも兼ねているのでちゃんと口で詠唱する。
そしてガシャーンと言う音と共に領地に朝の1の鐘が鳴り響いた。
0
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。
彩世幻夜
恋愛
エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。
壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。
もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。
これはそんな平穏(……?)な日常の物語。
2021/02/27 完結
“金しか生めない”錬金術師は果たして凄いのだろうか
まにぃ
ファンタジー
錬金術師の名家の生まれにして、最も成功したであろう人。
しかし、彼は”金以外は生み出せない”と言う特異性を持っていた。
〔成功者〕なのか、〔失敗者〕なのか。
その周りで起こる出来事が、彼を変えて行く。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる