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これでも領主です

6(人族の少女目線)

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 ふふ、簡単なくらいに上手くいったわ! こんな田舎なんてさっさと出ていって華やかな王都で暮らすのよ! それでそれでオシャレなカフェで仕事して、イケメンなお客さんにナンパされてぇ……。うふふ、うきゃぁぁぁぁっ! イ、ケ、メ、ン、のぉ~、彼氏を作ってぇ~っ! やだぁ、素敵! 素敵過ぎるわ! そして、そしてぇ~、私は誰よりも幸せに暮らすんだわっ! あぁ! こんな辺鄙なところから何事もなく出られるなんて幸せぇ~っ! 家族も友達も、親戚も! みんなみんな一緒に出られるなんて! ほんとに夢みた~い!


 夢見る私、アマギ・カスターネット。16歳。学年は10年生。じゃなかった! 専修学校1年。髪も瞳もありふれた栗色だけど、私はこれでもモテるんだから! つまりは可愛いってことでしょ? 人生薔薇色。 お父さんもお母さんも平凡な顔してるけど、きっと私は選ばれたんだわ! だって平凡な顔をしてる妹はモテてる気配ないし! でも私はモテるの! 勝ち組なのよ!

 ……っと、失礼。それにしたってまさか領主があんなちんちくりんだとは思わなかったけど、イケメンの学園長のほぼ裸! バスローブ姿が見られるとは思わなかったわぁ……。御馳走様です!

 もし学園長の奥さんになったら……。

 あぁ、やだ! 私ったら! でもなぁ……と、湧水のように枯れることを知らない妄想は休憩を挟むことはなく荷造りする手は動いては止まり、動いては止まり……。結局真夜の3の鐘が鳴り響く頃、やっとこさ自分の部屋の荷造りが終わった。あとは家具を荷台にのせて、早朝を待って畑の野菜を引っこ抜くだけだ……と思ったら事件が起きた。

「なんだこれは!」

 父の焦った声に家族が全員が慌てて集まった。そして目の前に現れたのは異常ともとれる警告文だった。

 目の前には「この家具は借家の備え付けの一部のため外へ持ち出せません」との文章。

「借家だと……?」

 ここを皮切りに次から次と各家から怒声が上がった。とりあえずこうしてても時間の無駄だし、持ち出せるものを探そうと皆でやってみると自分達が自作した物と買ったものは外に出せるようだった。

「てか、お前ら煩いんだよ! 何時だと思ってんだ! あぁんっ!? 毎度毎度、言われなきゃわかんねぇのかっ!! 学習能力不足共がっ!」

 怒鳴りに来たのは数人のご近所の獣人族の旦那衆だった。

 最後の夜なのに煩いのが来たなぁ……と内心思っていると彼らは綺麗になった家の中を見て「あれ? 夜逃げでもするのかい?」とか「こりゃ夜は特に静かになって良いな!」等々笑いながらも剣呑な目で見つめていた。どうしてそんな目で見るんだろう。私、可愛いでしょ? 愛されるべき存在でしょ? あ、そっか……。照れ隠し。やだ、なんか可愛い!

「あ、あぁ……。こんな時間に煩くしてすまない。ところでフォースさん? ちょっと聞きたいのだが、この家ってどうなってるんだね……」

 代表して父が下手に出て質問をすると鼻で笑われた。

 ……訂正。可愛くない! ムカつく! 獣の癖に! 人間になり損ねたやつの癖に! なんなの? 私たち人族より下の癖に! 私はイライラしながらも話を聞くためと我慢しているとあり得ない言葉が聞こえた。

「は? 申し訳ないがもう一度言ってもらえますかな……」
「だーかーらーっ! 飾りじゃないんだから耳をかっぽじってよく聞きな! この領地の家は全て領主様から借りてる借家なんだよ。メインストリートの店も、宿も俺達農家は家と畑を領主様から低料金で借りてんの! そしてお前らの妬みの根底の税金は国民の義務である国に納めるべき血税と、領主様にお借りしてる家と畑を含む家賃なの! 本来ならそれ以外に領土に納める税金があるんだが、農家は免除されてんだよ! 商人は売り上げの何%か徴収されてるはずだぜ? 入学1年いや、2年で習っただろ? なに? 忘れたの? さすがは空っぽだな! どうして俺らよりも年下なのに忘れられるんだ。金の無駄じゃね?」

 と、またもや入学1年生の話を出された。

 そんな昔の話を出してくるなんてここの人たちは非常識すぎる! ちんちくりんな領主も学園長もお前らも! 人のことをバカにして! バカにして! バカにして! ーーまあ良いわ! 朝にはここを出ていくんだから! こっちが清々するわ!? 後で謝ってきたって絶対に許してあげないんだから!

「あ、この家を出ていくならこの額は忘れないようにな? これ、この家の契約書だし……。もし燃やしたら賠償金が発生するぞ? 金を少しでも残しておきたいなら領を出るその時まで大事にしておくことだ!」
「あぁ、あと! うちの子供が寝てるんだ。もう騒ぐんじゃねぇぞ!」

 旦那衆は睨んでから去っていった。そして私たち家族は家のなかで契約書と言う額を見ていた。

「こんなもの! 燃やしちゃえば良いのよ! 何が契約書よ!」
「やめろ! お前は話を聞いていたのかっ!? 賠償金でうちの金がなくなるだろうがっ!」
「でもっ! ………………なによ! なんでお父さんもお母さんも睨むのよ! ふざけないでよ!」

 なによっ! なんなのよっ! 何で怒られるのよっ! 私は悪くないっ! 子供は親を選べないんだからっ! 私だって金持ちの家に生まれたかったわよ!

 そして険悪なまま朝を迎えた。








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