吸血鬼領主～体は子供体型でも妾、大人じゃもん！～

これでも領主です

５

「あぁ、あとな？　学園長？　こやつらはアメジール種の馬が領地を離れられない理由を知らぬようだが？　……そうだの、もう面倒じゃし、初等学校を卒業する際、入学１年でやるテストで試験をして満点じゃなかったら強制留年。入学１年生と同じ教室で授業。その１年間は実費で良くないか？　それを拒否したら退学じゃなく除名で良い。非常識って事だからの。適用は今年度からで良いよ。そもそも満点とれないのが非常識なテストじゃもん。何度も言うが取れないのが非常識じゃからの……」

　八つ当たりのように集団に聞こえるように「非常識」をわざと連続して言ってみる。その八つ当たりにジェイルはもちろん。来たばかりの学園長も意図がわかっているのかクスクス笑っていた。しかも八つ当たりだろうがなんだろうが画期的だと思う。卒業する子が常識を持ち合わせておるかわかるのだから……。

「お気持ちはもう言わなくても解ります。なるほど、除名か。ーーふむ、それもそうですね、そうさせていただきます。……ここにいるものは全員除名でよろしいので？　ーー煩い！　ちゃんと教えたであろうが！　この領地の馬。すなわちアメジール種はここ以外の空気が体に馴染まないので外に出したら息絶えると！　強いて言えば国の絶滅危惧種だ！　もし強制的に連れていくなら構わないが殺したと同時にお前達のステータスの称号に勝手に『動物愛護法違反・馬(アメジール種)殺害』が永遠に付くからな？　これも酷いとか言う前に１年生で教えてるからな？　あぁ、ついでに嫌がる馬を連れて領地に逃げられたとしても『動物愛護法違反・馬(アメジール種)虐待』が付くからな？　俺は持っていかない方が身のためだと思うぞ？　他の土地で馬を借りることも買うことも出来なくなるからな……」

　バスローブの下は真っ裸の色気大放出中の学園長はエルフの年齢はあれだが、見た目は人族でいうなら25歳くらいの良い年したおっさん(自分よりもかなり年上のため)。チラリと見える胸元にわざとそうしてるのかわからないが髪を掻き上げる度に見える鎖骨や肩に若い人族の女性は目をギラギラさせていて人族だけど肉食獣のようだった。まぁ、チラチラと普段は服の下で隠れている胸筋や腹筋が見えるから女はもちろん。若干名の男どもが凝視している。獲物を狙うハンターのような目をしていて凄いな……と思う。

「おい、そこのエルフ。いやエロフ。駄々漏れの色気をしまいやがれ？　忌々しい」
「おや？　クリス。先生にそんなことを言うようになったのかい？　悪い子にはお仕置きしてあげようか？」
「要らぬわぁっ！　下をちゃんと見よ！　先生の色気に当てられて肉食獣のような、ハンターのような人族が増えたではないか！　しかも男女問わず！」

　嫌みを含めたのに何故か彼はニヤニヤと笑っていた。

「全く興味が湧かないね……。それよりもクリス。俺は君ならイケると思うよ？　幼児体型でもばっちこい！　さぁ、先生のところにおいで？　一緒に寝よう？　添い寝してあげる」



　キラキラと輝くような笑顔を貼り付けて両手を広げてエルフがウェルカムと言う雰囲気で立っている。
　どうしますか？

　ダッシュで抱きつく。
　ダッシュで殴る。
　銀の武器を投げる。
　スルーする。


　スルーする。　←　yes！



「さて、人族の者達よ。荷造りもあろう？　もうさっさと帰るが良い」
「…………外までお送りして！」

　ジェイルの言葉に数名の護衛騎士達が外の門まで人族を追い出した。

「えぇ～……。無視するとか酷くない？　君だけだよ？　俺にそんな風に冷たくするのは……」
「裸にバスローブ１枚のみの淫魔は家にさっさと帰られるがよいぞ？　ベッドで奥方が待ってるのだろう？　お疲れ～」
「ちょっと！　勝手に連れてこられたのに酷くない？　ちなみに俺は淫魔じゃなくてエルフ！　ハイエルフなんだから間違わないでよね!?　そこっ！」

　うろんな目で目の前のエルフを見るが毎年必ず書かれている春の近況報告書を思い浮かべた。なんでもその変質者と言うのが毎年王都の学園近くでよく春先に現れる変態がいるのだと言う……。そして初等学校低学年のいたいけな子供に「良いものが見たいかい？」と声をかけ、人気のないところへ移動するなりコートを開いて自分のご自慢の逸物を見せつけるのだとか……。

　それ、何が楽しいのかの？　そして誰得なのかの？

　確か対処法は無言で見つめたあとに首をかしげてからの「……小さい……？」と呟くのが一番だとか……。そしてショックを与えたあとにダッシュで学校へまず逃げるのが鉄則だとか……。

　王都ってホントになんなんじゃろ……。国の中心で変質者……。罰ゲームとか……？　いや、罰ゲームとか別の意味で恐ろしいわな……。逮捕ものの案件じゃもの。

「姉上？　そんなに見てると先生を喜ばせるだけだよ？」
「……いや、毎年近況報告書に上がってくる王都の春の犯罪を思い出してただけじゃよ」
「あぁ！　裸にコート１枚の変、質……者………………誰かっ！　今すぐ学園長をご自宅にお送りしてっ！　片時も離れずに家まで送って！」

　部屋にいたもの全てが裸にバスローブ姿の学園長に注目し、ジェイルの言葉で我に返ると護衛騎士が四方をガッチリと固めるように移動した。まるで犯罪者のようである。

『畏まりましたっ!!』
「ちょっと！　なんで俺を犯罪者のように囲むの！　言っとくけど被害者だからね!?　無理に呼ばれなかったら今頃奥さん抱き潰してるんだからね!?」
「学園長。いや、ルノアール・リュウファ先生。今日は無理矢理お連れして申し訳ない。奥方様にもその……。うーんと、子作りの邪魔をしてごめんなさい？」

　なんと言ったら良いのかと首をかしげたらこんな言葉になってしまった。

　部屋はシンッ！　と遮断結界を張ったときのように無音になるし、ジェイルは顔を赤くして両手で覆うと隠すようにしゃがんでいる。
　使用人達はプロなので無表情で立っているが肩が若干震えている。
　騎士や魔導士達は唖然といった顔をしてるし、先生に至ってはなんか色気を大放出してニヤリと獰猛に笑っている。


　ーーえ？　妾、やっぱり言葉選び失敗した？