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これでも領主です

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「うわぁーーん! 俺、なにも悪いことしてなくない!? 何なの! 一体何が起きたって言うの!」

 肌触りの良さそうなバスローブを羽織ったエルフの青年がそれはもう絵に描いたように騎士に引き摺られてやって来た。
 それと同時に指でパチンと鳴らせば結界が消えて部屋はまた煩い状態に戻った。

「ちょっと! クリス! クリスタリア!! 俺、なにも悪いことしてないでしょ? なんなの? マジでなんなの? 奥さんに入れる寸前でいきなりこの人等に理由もなく引っ立てられたんですけど!? しかも問答無用とか酷くない?」

 ちょーっとばかし話を聞きたくて無理に連れてこさせた学園長。どうやらベッドで大人の時間じゃったらしい……。うん、ゴメンナサイ。

 ただ彼は妾が見ても贔屓目無しで見目は良く、所謂細マッチョな体型をしてるために確実といって良い程に女性にモテる。
 現にここにいる人族の女性が年齢問わずキャーキャーと黄色い声を上げ出した。まぁ、ここの人族達は老若男女問わず先生の学校出身で元生徒じゃからな……。皆顔は知ってるはずだからファンがいても変ではない。

 うん、おかしくない。おかしくないけどな? ーーうん、おかしくはないのじゃけれど……。人族は冷静に年の差と寿命を考えたらいいと思う。

 この国は異性を路頭に迷わせることなく養うことが出来ると言う誓約と国の定めたいくつかの項目全てにおいて基準を満たせば一部で「夢、だよなぁ……。ロマンだよ、ロマン!」などと言わしめる一夫多妻、多夫一妻が可能だ。基準を満たせても純愛を貫く我が両親みたいなのもいるがな……。

 さてそれを踏まえてこの学園長は自他共に認める性欲の強い男で、尚且つ基準を零れ落ちるほどに満たしてるので一夫多妻である。そして子沢山。うち(役所)の職員にも彼の子供が数人いる。それぞれが優秀なのでこの領地ではかなり重宝してます。ーーではなく、先生よ? そんなにアハ~ンな大人の時間を邪魔されたからといってそんなに怒ることないじゃろ? これは仕事じゃよ! 時間外労働じゃよ! ボランティアじゃけどなっ!

「学園長。とりあえず入れる? 前でよかったではないか。そこまでツラくないじゃろ? 多分。よくわからんけど、多分。うん、多分! ーーさて学園長? 妾な? ちょーっとばかり先生に聞きたい事が……。いや、ちょっとと言うより多々あっての? 入学1年で叩き込まれる筈の種族のことをこやつらは知らないようなのだが? どう言うことか説明してもらえるかの?」
「……は? なにそれ。そんなこと言われてもね? こっちはちゃんとしたカリキュラムで行ってるんだよ? テストも満点取るまで毎日放課後追試してるし! 何なら国で一番厳しいって自負してるんだよ? 知らないわけないじゃないか! 寝ぼけてるのかい?」

 と、逆ギレされた。

 ならなぜ銀の武器を投げてきて「効かない!」とか「嘘だろ?」とか「なんで?」ってざわついたのだ……。それを言うと学園長も少し上段にいたので見下ろしながら「え、嘘でしょ?」と呟くとパッカーンと口を開けて見つめていた。なんなら白木の杭を持ってこいとか真面目な顔していってたぞ? 妾、殺されるなら木よりもちゃんとした武器がいい……。

「うちの学校。主に初等学校はね! 偏見を無くそうと全種族の先生を雇ってるんだよ? さすがに人族はオメデタで辞めてからしばらく居ないけど……。入学1年クラスは毎日違う種族の先生をつけて生徒自身の目で見ながら、姿形を間近で確認をしながら勉強をさせているんだよ? もちろん吸血鬼の先生もちゃんとつけた。逆にこっちが聞きたいよ。そんなジョークネタでしかない銀の武器とか十字架や白木の杭とか信じてたって……。税金と授業時間を本気で返して欲しいくらいだよ! なんでこの世界の常識を覚えられないんだい? 大人になって困るから1年かけて頭の柔らかい子供のうちにこの世界の常識を叩き込んだのに! 裏切りにも程がある!」

 性欲強いけど、冷静沈着が代名詞の学園長による悲痛な叫びだった。周囲も可哀想に思ったのか無言で頷いていた。わかる、わかるよ! そんな空気が充満している。妾は心のなかで頷いてた。そりゃそうだ。自信をもって卒業させたら非常識人だったって酷いにも程があると思う。妾なら泣いちゃうかもなぁ……。

 うーん、それにしてもトップである学園長にもわからないとなると本当に謎過ぎる。しかしこれは困ったものだな。いや、でも、もういいか。言葉は悪いけど少しの間だが人族は領地から全て居なくなるし……。その居ない100年の間に何かしらの対策を練ればなんとかなる、のか? いや、でも一度あることは何度でも起こるのが人族じゃし……。

「あ、忘れてた。ジェイル、すまないがこの地から一番近い領地には連絡してくれるか?」

 お、おぉう! 妾としたことが!! 大事なことをうっかり忘れていた。これはヤバイ。さすがにヤバい。ジェイルに思い出したように言うと執事が近寄って優雅に頭を下げて口を開いた。「それに関しては早い方がよろしいかと思いましたので私が勝手に連絡をいたしました。あとで正式な書類を速達で送りますと伝えておりますので……」と教えてくれた。

 うん、うちの使用人は仕事が早い! 空気が読める! 最高じゃ!

 それにしても大事なものが大人数ですっぽ抜けてるとなると、どこかから人族至上主義国の間者でも侵入して布教でもしたのか? さすがにこの領地以外の調査を早急にした方が良さそうじゃし、報告書を上げておくか……。とりあえずは明日、放流? 放逐? する前に間者が紛れてないかもチェックしなければならぬようだしの。ふっ、徹夜ボランティアか……。世知辛い世の中じゃなぁ……。妾、無意識に遠い目をしちゃう……。

 脳内で徹夜でボランティア残業が決定した瞬間であーる。

 絶対にふて寝してやる!!







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