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Christmas
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しおりを挟む翌朝。昼間はジェイルが指揮してくれるので妾はお昼まで少し暇。
ーーと、言うわけなので執事にドワーフの爺のところに行くと伝えると側で窓を拭いていた侍女2人を共に連れていくように言われた。うーむ、ささっと行きたかったが仕方ない。
「あ、あとリア様。今日も薄着みたいなのでお外に行くならちゃんと暖かくして行くんですよ? 街で食べ物や飲み物を頂いても構いませんがお昼御飯はこの屋敷でちゃんと食べなさい。なので満腹にならないように気を付けるんですよ? あとは何でもホイホイと物を貰ってはいけませんよ? 領民も生活があるのですから自分のお金を使いましょうね? 念のために言いますが知らない人について行ってはいけませんよ? 良いですね?」
「妾、大人じゃからわかってるのじゃっ! そろそろ妾を子供扱いはやめてほしいのじゃ!」
プクッと膨れた頬を執事はニコニコして両手を膨れた頬を包むように添え、そして容赦なく中央へと押し潰した。空気が全て出ても押し潰されたまま。何を話すわけでもなくニコニコしたままの彼は動こうとしない。話そうともしない。
「ぞろぞろばなぢでぇ~……」
ジタバタと手足を動かしているが離してはくれず、彼は無言でニコニコしている。もしかして壊れたのじゃろうか……。動かないんじゃけど。視界の片隅で侍女たちがニコニコと見守っている。「だじゅげでぇ~……」と呟くも「今日も癒されるわぁ~……」と返事が来た。いや、返事ではなかったらしい。隣の人と会話していた。その間にも執事には頬を押し潰されたまま。しかも何と言えば良いのか交互に前後に動かしながら揉み始めた。最終的に謝ると手を離してくれたのだがーー。
執事はこれからも妾を子供扱いするようである。
「うぅ……。ひどい目に遭ったのじゃ……」
部屋で厚手の服(商家の娘風)に着替えさせられて赤くなった頬をそっと手で包み、優しく擦りながら言うと彼女たちはアレは執事の愛情表現だと言ったが妾からしたら子供扱いしてからかっている様にしか感じない。でも目は優しいから怒るに怒れずどちらかと言えば執事は大好きである。じゃって、街歩き用に良いところの商家の娘風な服を執事が頼んでコーデリア様にいくつか作ってもらったんじゃもん。まぁ、お陰で領民には顔バレしてるけど観光客や冒険者にはバレてないので気兼ねなく街歩き出来る。
「所でドワーフのお爺さんのところには何の用事なのですか?」
秘密じゃ~……とはぐらかしながらも道筋に屋台がある。「お、領主様。アスパラ肉巻きどう?」と言われたので少し考えてから塩味を3本買った。妾ともちろん侍女用である。妾が一口食べてから彼女たちに進めたが「仕事中」の一点張りで受け取ろうとしないのでしょぼーんとしていたら彼女たちは慌てて「ありがとうございます!」と食べ始めた。妾、満足! 食べ終わったらドワーフの爺の所まで向かうのにスキップしていると遠くから地響きと共に「あーねーうーえーっ!」と空耳まで聞こえた。
「あーねーうーえーっ!」
「うにゃああああっ!」
ビックリした! ビックリした! ビックリしたぁっ!!
心臓がドックンドックン。口から飛び出していきそうなくらい速く打っている。
「やだ! ジェイル様ったら今日もシスコン!」
「いやぁ、今日は本当に癒されるわぁ~……。あの場所で窓拭いてて良かったぁ~っ!」
いや、助けろ。
妾はそう言いたいが現在ジェイルに抱っこされて尚且つ頬と頬をくっつけてグリグリされている。しばらくメインストリートのど真ん中とは言わないが歩道と言うか店の入り口前で抱っこされて頬をグリグリ……。今日は頬をよく擦られる日だーーと、意識をどこかへ飛ばしていたら周囲を見知った領民達に囲まれていた。
「ジェ、ジェイル……? ジェイル~っ! 下ろせ! 下ろすのじゃぁっ!」
「ヤです! 置いていかれた俺の気持ちをわかってくれない罰です!」
「…………おまっ……。ジェイル、仕事はどうしたのじゃ! ってちゃんと散策用に着替えてある~っ!」
ジェイルが朝は仕事をちゃんとしてくれるから安心して外に来たのに! と思っていたらどうやら執事が妾の外出を告げに来たらしい。それを聞いて執事にペンを手渡して逃げ出してきたとか……。やだ、領館へ帰りたくない……。怖い。
「帰りなさい」
「嫌です!」
この会話をしばらく続けること一時間。妾は疲れた。諦めた。目の前の店で休憩をとることにした。侍女たちが立ったままだったので命令として一緒に座らせた。そしてケーキを頼み、飲み物も全てがテーブルに並ぶとジェイルがいまだ拗ねていた。もう、今日は何なのじゃ! 厄日か? や、く、び、なのかっ?
さすがに疲れたので目の前の店でお茶をしてからジェイルと手を繋いで歩いてドワーフの爺の店……? 工房? にやって来た。
「じい~っ! じぃ~いぃ~っ!」
「はいはい、ここにおるでよ……おや、リア様にジェイル様。今日はどうしたのかの?」
「あのな? 爺、何か珍しい紙はないかと思ってな?」
そう言うと少し考えたのちにレターセットのコーナーへ案内してくれた。
「ん? これ、変わってますね」
「おぉ、それはヤポネーゼ国の薄墨紙という昔の紙を再利用した紙じゃな。んでリア様のがその薄墨紙を作る際にわざと厚くしてカードにしたものじゃよ」
むむ! これ、良くないか? さわり心地もなかなか……。よし、これにしよう。えっと父上に1枚。アールに3枚。執事に10枚、アラン兄様に2枚使うから16枚? …………あ、18枚ある!
「爺。これ、全部! このカード全部買うのじゃ!」
「はいはい、まいど。このカードを入れる封筒もありますよ~……」
「むむっ! うーむ……6枚!」
「はい、全部ですな? まいど~……」
それからというものほえほえと穏やかに笑い、商売する気が無さそうな顔をしているのに凄くやり手の爺がここぞとばかりにいろんなものを薦めてきた。
領館へと帰る道すがら妾の手には買い物した商品の入った紙袋があり、そっとそれを侍女が手に持った。手ぶらになったと思ったら今度はジェイルが手を繋いできた。妾、どこにも行かんけど? そう思っていると家に近づく度、心の中では執事がかなり怒っていそうで恐怖というかなんというか……。とりあえず怖かったのでお土産を買うことにした。
「よし! 保険でアンジェリア様にクッキーを作ってもらおう」
そして何故か妾もジェイルのとなりに正座させられて執事に説教されました。
「うぅ……。酷い目に遭ったのじゃ……」
「はい、リア様。あーん」
「んむ、モグモグ……」
「はい、姉上。お茶をどうぞ。熱いから気を付けてくださいね?」
アンジェリア様に作ってもらったクッキーを執事が妾に食べさせ、ジェイルはお茶を差し出してきた。
なんか、妾、凄く疲れた……。
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