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「あ、そうだった。そうだった。えっとねぇ、執事のリシャールさんからリアちゃんへのお手紙を預かったよ? あとなんか大きめの鞄を1つほど?」

 手渡された封筒には執事本人の字で『リア様へ』と書かれていたのでそのまま封を切ると手紙を広げた。


 リア様へ。
 急だとは思いますが、王都にいる主人であるフローライト様のお仕事が溜まりにたまって凄いらしいので第一王女として、娘として、お父上の仕事を手伝ってきてください。期限は一応1週間くらいを予定しております。その間、領主の仕事はジェイル様にお願いをする予定なので安心してくださいね。
 追伸
 私が居ないからと言ってだらけてはいけませんからね? 何かに夢中になって部屋を汚くしてはいけませんよ? あとご飯は忘れずに食べてくださいね? 歯はちゃんと磨くんですよ? お風呂にちゃんと入ってから寝るんですよ? 寝坊してはダメですからね? お茶は本来熱いのですから気を付けるんですよ? リア様は良い子ですからわかってますよね?


「………………」

 黙読を終えてもなお無言なのは仕方ないことだと思われる。両隣で一緒に黙読していた父上とアラン様が肩を震わせて笑いを堪えているのだから……。うぐぐ……。追伸は最初のだらけてはダメって文章だけで良かったのじゃ! …………でも恥ずかしいけれどもちょっぴり嬉しい。そして預かったと言う鞄を開くとお泊まりセットだった。

「おー……。マジかぁ……。父上~……。執事が1週間溜まりにたまった仕事を手伝えって……。これ、お泊まりセットじゃった! クマもちゃんと入ってた!」
「え、ほんとう? よし! リアちゃん、今日からパパと一緒に寝ようね~っ!」

 一緒……。妾、もう大人なんじゃけど……。クマもいるし、枕が変わったとしても一人で寝れるのじゃけどなぁ……。

「あれ? 枕が入ってるよ……」

 アラン様のその言葉に妾の頬が一気に赤くなったのは仕方ない。枕を見つめてその裏に隠された意味を正確に受け取ったらしい声を殺して笑っている父上と一緒に寝る云々はどこかに放り投げーーどこかに置いておいて、この書類の不備をどうにかしないとな……。少し尻を叩……蹴りにいくかの……。

「あ、そうじゃ! 父上、ちょっとアラン様と一緒にこの不備の山を作り上げた者共のとこに行って尻を蹴って来るのじゃ」
「……いや、リアちゃんが蹴ったら尾てい骨を骨折するからやめなさい」
「折れたら回復魔法をしてやるが……」
「やめなさい。そしてその悪巧みしてる顔もやめなさい。そもそも蹴るのはやめなさい」

 ……ちっ。蹴るなと言われ、折れたら回復もダメと言われ、折れたら折れたで放置しようとしたらそれもダメと言われ、蹴るのは却下されてしまった。

 え、妾、他人の尻を手でなんか叩きたくないんじゃけど……。

「あ! じゃあ、棍棒。しかもオーガさんが持ってる感じのやつ」
「だめ」

 ムカッ! じゃあ、この不備の山を作った奴等を放置しろと?

「妾、父上とアラン兄様を困らせる役人を痛め付けたいんじゃけど! 2人を困らせるとか許せん! 妾か直々に成敗してくれるわっ!」
「やめなさい。……はぁ。……アラン。リアちゃんの変わりにコレ頼むよ。あと、お前がいない間に書類の統一化をしたから宜しく」
「……は?」

 アランに再提出の山を手渡すと彼は驚いた顔を見せたあと、しばらくして通常に戻ったのでクリスタリアが荒ぶっている元凶の書類の山を持って出ていった。

 休憩も終わり、また父上と一緒に書類のチェックをしているとかなり不機嫌なアラン様が戻ってきた。

「フローライト様。リアちゃん、借ります。骨折と言う痛い目を見せよう」
「やめろ。……ったく、俺がやるから……」

 溜まった不備の山を片手に父上は出ていった。

「……何でこんなにも不備の山が出るんじゃろか……。政なめんな」
「本当だよ……。フローライト様は慣れちゃったんだろうけど……。俺も久しぶりの宰相でこんなにイライラしてるのにね」
「……お仕置き用の道具を作るか……。うーむ、鞭をーーいや、馬の鞭を改良したら良いかのぉ……。面が小さいほど痛いはずじゃから少し大きくして……。尻を叩けば辱しめも受けられて一石二鳥?」

 首をかしげながらアランを見ると彼は何とも言えない顔をしていた。

「変な性癖が開花しないといいね……。逆にお仕置きを期待して不備が出そうな気がするよ……」
「その場合はなにもしなければいいと思うのじゃけど……。それで常習化してる者は降格処分したら良いじゃろ。何せお仕置きを期待してるのじゃからな……。降格したら給料も少なくなるし、家族には責められるじゃろうから良いだろう」
「じゃぁ、体罰する前に降格させようね? リアちゃん、ワザワザ厄介な性癖を開花させる道具は作らなくていいから! やめなさいね?」

 作ろうと思ったのに釘を刺された。兄様ったら楽しみ潰すとかなんかひどい。

「………………あ、フローライト様。おか……」
「父上、おかっーーぶみゃぁぁぁっ!!」

 急に抱っこされてソファーに飛び込むからかなり怖かった。お陰で心臓がバクバク言っている。

 父上は何故か荒ぶっていた。帰ってくるなり妾を抱き締めながら「あの無能共……。いい加減にクビにしてやろうか!」とブチブチ言っている。それを聞いたアラン様は良い顔で「ならさ、降格と減俸にしようよ。無能に払う金はない」と言うと「いいな、ソレ!」と言う流れになり意識改革は始まりを告げた。




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