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小話《時系列関係なし突発短編》
隠蔽?(いや、喜んで欲しいだけです!)
しおりを挟む本編『役に立ちたいのじゃ!』の前日くらいの話です。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「秋ももう終わりじゃの……」
『そろそろ冬ですねぇ……』
秋も終わるね。そうですね。ーーと会話しているのは真夜中の仕事中。
しかし自分を含めて誰一人として顔をあげずに与えられた仕事を黙々とこなしていた。しばらくして、コトン……と言う何かを置く音がしたので前方を見やれば執事が職員にお茶を出している。仕事中は優雅に飲む時間などないので『ソーサーなど必要ない!』と言う理由でカップを大きくした特注のマグカップを使っていた。
うむ、できる男じゃわ……。さすがは妾のお父さんその3。自慢じゃわ~っ!
「あ、そう言えばクリスタリア様の下の3人の後始末で足止めされていたジェイル様が明後日にこちらに到着予定だそうですよ?」
「な、なぬっ! 明後日じゃとっ!?」
明後日……。明後日ってことは明日の次の日じゃから……。1、2……? 2日。2日!? いや、今日はもう夜中。つまりは妾の睡眠時間をいれると1日しかない。や、ば、い、のじゃ。これは非常にヤバイのじゃ! なんじゃそれ!
可愛い弟が帰って来る……じゃと? うーん、久し振りに一年くらい王子様してれば良いのにの……。今から引き返さないかの……。
ジェイルは潔癖性とは言わないがかなりの綺麗好きである。
妾が仕事用の机に書類だとしてもやりっぱなしにしておくと凄まじい相貌で睨み付け、人が入れ替わったのかと思うような変貌ぶりで説教を始める。
そしてクドクドクドクド……小言を始めるのだ。聞き流してるのがバレると正座を強要してくる。そしてクドクドクドクド……。少しばかりうるさい。
ちょっと王都で父上のとなりで勉強すると思い直して引き返さないかのぉ……。
「クリスタリア様。そろそろお部屋をお片付けしないと怒られてしまいますね」
「ふえっ!? は、橋……。そうじゃ! 橋を落とそう!」
「ダメに決まってますよね」
クツクツと執事が意地悪そうに笑うと周りの皆にも感染してクスクス笑われていた。しかも妾、今は父上の代わりにこの領を取り仕切らなければならぬ領主代理なのに……。堂々としてないといけないのに皆に慌てているところを見られた。おまけに気が動転して橋を落とすとか言ってしまった……。
は、ず、か、し、い…………のじゃっ!!
お陰で顔が熱い。妾の頬っぺたは確実に真っ赤になってるに違いない。確かにジェイルが王都へ旅立ってから毎日、毎日、自分の欲望のまま魔導具を作るのに没頭したりして部屋を散らかし放題していた。お陰さまで今では寝室はかなり汚く、残念ながら歩くための道は確保されているものの汚部屋となっている。
ーーあ、でもジェイルは寝室には入らないからこのままでも良くないか? 出しっぱなしにしておけば作業もしやすいし……と、そんなことを思っていれば執事が目の前にいて、妾の両方の肩をガッシリ掴んで見つめていた。
思わず何かしたかな……と、首をかしげると徐にため息をつかれた。
「クリス……。ーーいえ、リア様。リア様はそんなにお部屋を片付けたくないのですか?」
あれ? 仕事中はいつもクリスタリアと呼ぶのにプライベートの愛称? そんなことを思っていれば彼は少し力が入ったのか肩がギリッと肉が悲鳴をあげる。そんな音が聴こえた。
「痛っ、いや……その、片付けたくないというわけではなく……。(面倒なだけじゃけど……)、あのままの方が作業しやすいというか……。その……なんじゃ、うむ……。別にあのままでも良くないか?」
「わかりました。では今度の魔物退治期間はジェイル様とお留守番でよろしいですね?」
「にゃっ! にゃんでっ!」
あ……噛んだーーと、秘書であるエティが呟くと何故かクリスタリアではなく執事がギロリと睨んでいる。まぁ、本人はそれどころではないだけなのだが……。
酷い! 酷いのじゃ! 鬼じゃ、大鬼なのじゃ! 大鬼様じゃ!
まぁ、種族としては鬼人族だから鬼なのは確かだが……。
「そんな可愛い顔で見つめてもダメですよ? 涙を溜めてもダメです。リア様に選べるのは明日中に部屋を綺麗にお片付けするか、魔物討伐はお留守番かの2つに1つです! ……あ、そうですね……。もう1つ増やしましょうか。お部屋を片付けてジェイル様とお留守番ですね」
「…………片付けるのじゃ」
「はい。リア様は偉いですね。もうお部屋を散らかしてはいけませんよ?」
「わかったのじゃ……」
しょぼーんとしていると執事は笑顔で頭を優しく撫でてから抱っこして宥めてくれた。
うぅ……。執事は気持ちいいところを的確に撫でてくるのじゃ……。これがいわゆるゴッドハンドと言うやつか……。抗えぬ。ーーが、如何せん今は仕事中。周囲には職員がいるのだが、彼らはなぜかお茶を飲みながら見守るではなく微笑ましそうな顔で見つめていた。一部ニヤニヤしていたが気にしたら負けな気がする。
う……。でも妾、恥ずかしいのじゃ……。恥辱……羞恥……。とにかく恥ずかしい。
「ついでにコーデリア様がリア様の寝室が殺風景だとフラワーフェスティバルの頃に仰られてカバーなどを色々と作って持ってきてくださいましたから模様替えもいたしましょうね?」
「えっ!」
いや、コーデリア様の趣味ってフリッフリじゃよね……。フリッフリ……。
思わず今自分の着ている服を摘まみながらその服のスカートをジーっと見つめた。うん、服は可愛い。
これまたフラワーフェスティバル頃から何故か今まで着ていた服が1枚、また1枚と減って、フリッフリが1枚、また1枚と増えていった。そしてなくなった服はいつのまにかフリッフリがつけられてリメイクされて戻っていた。
今ではレースやフリルの付いていないシンプルな服は魔物討伐の時の戦闘服だけだった。
…………いや、付いてた! レースのリボンとほのかなフリル! 付いてた!
「じゃけど、ほら……。寝室なんて別に寝るだけの部屋じゃし……。殺風景でも妾、あのクマがあれば全然かま「だめです!」じゃ……」
横やりが入ってしまった。出来れば最後までちゃんと聞いて欲しい……。妾、父上に貰ったブラッディベアのぬいぐるみがあればベッドに布団。ランプとサイドテーブル。寝室はそれで全然構わないのじゃ。
「前々から言おう言おうと思っていたのです。リア様はとても可愛らしく愛らしゅうございますのにお部屋が男の子のようではありませんか!」
「お、男の子……。ま、まぁ、シンプルではあるがあれはあれで妾は愛ちゃ「いけません! 勿体ないのです! なので私は心を鬼にしてお部屋の模様替えを強制的に行います!」
はい、決定事項。そんな感じで言い切られた。しかも反論は受け付けないと物理的に手のひらで口を塞がれた。
「ふぐぅっ!」
「え、嬉しい? それはよかったです」
言ってないのじゃっ!!
おかしい。執事が本気でおかしい! 人の話を聞かないで決定とか……。あれ? もしかしてもう既に模様替えを実行しているのでは……。
これは自らの足で移動して確認しなければいけない。なのでじたばたと執事の腕の中で暴れたものの、その腕からは逃げられることなどなかった。
何でじゃよ……。片腕で抱っこして、片手は妾の口を塞いでるのに逃げられないって何でじゃよ!! はーなーせーーーーっ!! なのじゃ!
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