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閑話・今は昔……

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「あ、その前に着替えないとね……。うん。……じゃあ、クリス? はい、ばんざー」
「ルノアールさま。仮にもお姫様相手に一体なにをしてらっしゃるので?」

 万歳している幼女の目の前には最近、クリスタリアの護衛をかねているセシリアが立ちはばかった。

「え、何って……。クリスの着替え?」
「このサロンででございますか? それに幼いとは言え、レディの着替えを男性がするものではありませんよ? 髪結いまでなら許可しますが……」

 バチバチッと両者の間で火花が散っている気がする。いや、散っている。

 その間にクリスタリアは執事に抱っこされて他のメイドと共に部屋へと戻された。
 もちろん険悪な空気の流れる2人が落ち着いたら部屋に来るように監視役を含めた伝言係を2名ほど残して……。

「ふぇぇ……、ヒツジ~……。父上はわりゃわの事、忘りぇてないかの……。わりゃわ、我儘いって嫌わりぇてないかの……」
「ご主人様はリア様の事を(口に出せないくらい)大事にされてますから、嫌いになるわけがありません。あの人はリア様を一時も手放したくないからあんなにすごい長い時間、我儘というか説得していたんですよ? リア様が我儘というのならば、ご主人様はかなりの我儘になりますね……」

 ソレこそ王都へ出発する予定日が2日ほど遅れるほどである。
 さすがにこれ以上は伸ばせないので心を鬼にして馬車に放り込んで強制的に出発させたのだがーー。
 このアメジールから王都へ行く道はかなり離れているために何回か宿泊しないといけないのだが、その宿で書いたらしいリシャール宛の手紙にはそれはもう恐ろしいくらいの怨み妬み嫉みが綴られていた。

 その怨念は2ヶ月が経とうとしている今でも現在進行形である。

 まぁ……恨んだり妬んだりという気持ちは解るし、気の毒だとは思うのだが、リア様に読ませられないと判断した彼は手紙が来たことは伝えず、お手紙を書きましょうか……と言った。しかし手紙を書いたことのないクリスタリアは何を書いたら良いのかわからなかったので書き方を教えてもらい、せっせと書き綴っていた。
 自分に対して書いた妬みの返事と共に一緒に送ることにしたのだが、手紙を少し盗み見ると内容は手紙というよりも報告書。いや、子供らしさ満載だったので日記であった。

 うん、うちのリア様は世界一可愛い!!

 血は繋がっていないのに親バカである。

 ソレからというもの毎日のように手紙が届く。
 こんな毎日続くとさすがにキレそうになったのでリア様に「毎日のように返事すると届けてくれる人が休めなくて疲労で死んでしまうからやめましょうね?」と諭し、ご主人様には「おい、毎日とかふざけんな」と手紙に書くとやはり届いた手紙は以前と同じように怨み妬み嫉みそんな宜しくない感情が爆発した内容の物が届いた。

「ヒツジ~……」
「おや、今日もリア様は可愛らしいですね。そのワンピースならこのリボンもとても似合いますよ?」

 首にタイとして身に付けていたリボンを解くと喧嘩を終えたルノアールとセシリアが到着した。

「あ、あーりゅ」
「うわぁ、クリスは今日も凄く可愛い!! よし、クリス。髪をやろうか」
「あい!」





 その日は書類を読みながら自分の頭を撫で撫でとセルフ甘やかしをして過ごし、使用人や役人達は口に出しはしないが「可愛すぎる!」と悶えに悶え、仕事が進まなかったのは致し方ない。
 現にクリスタリアの教育係と執事はあからさまに隠そうとせず悶えていたので誰も怒られることはなかった。

「(みんな、肩が震えてるんじゃけど……。風邪じゃろか……)」

                      END











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