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フラワーフェスティバル

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「クリス、良い子にしてるかな? …………クーリースー?」
「暇じゃから石の鑑定してただけじゃもん! ベッドからは出てないもん」

 ほんとじゃもん! ベッドの下からバッグ取っただけじゃ……。

「まぁ、いいよ。はい、ちゃんと大人しくしてたみたいだからね、ご褒美だよ?」

 あーん。と、言われて口を開けると甘い物が口に広がった。

「…………なんじゃろ……?」
「アンがカボチャをプリンにしてくれたよ?」
「カボチャ!」
「うんうん、クリスは可愛いね。カボチャ、大好きなんだねぇ」

 ゆっくり口に運ばれては嬉しそうに食べる姿はただの餌付けである。
 しかし蒸されて作るプリンは程よい固さで、濾してあるのか滑らかなその食感は流石はアンジェリア様と言うべきか。
 甘味はカボチャをいかし、甘過ぎず甘くなさ過ぎず。良い塩梅。
 色味もオレンジ色でとてもきれいだった。
 小さな器に入れられたそれはすぐに無くなってしまった。

 おかわり! おかわりを所望する!!

「美味しい! もっと~! アール、おかわり!」
「だーめ。ご飯食べれなくなるよ?」
「うぅ……」

 ご飯=薬の方程式が頭に浮かび、クリスタリアは涙目になっていた。

 想像しただけで口の中に広がる幸せなカボチャプリン味は一瞬にして消え去ってしまう、野生。自然の味に涙が出てくる。

「え! ちょ、何で泣いてるの……。もぉ、クリスは仕方ないなぁ……」
「ふえぇ~ん、コンッ、コンッ。苦いのやじゃぁ~……コンッ、コンッ」
「咳まで出てるじゃないか……。寝ようね?」

 抱っこされて思いきり宥められた。背中をポンポン……。ポンポン……。
 薬湯は嫌だと訴えたがそれはダメだよと優しく断られた。そりゃ、そうだ? 当たり前だわ。どんなに凄い色をしていてどんなに苦くとも薬は薬だ。
 今日もちゃんと飲めたらご褒美あげるよ? と、何とか頑張れそうなことを言われたが絶対に飲みたくはない。
 本心を言えば薬は飲まずにご褒美が欲しい。訴えたところで無理じゃけど……。

「ご褒美、プリン?」
「うーん、どうだろうね」
「プリンが良い……」

 ちょっとだけ我が儘を言うとアールはクリスタリアをベッドに戻して、枕元に落ちている温かくなったタオルを拾うと水で冷やして絞ったものをまた頭にのせた。

「ご飯まで良い子に寝てるなら考えてあげるよ? もちろん、睡眠の方の寝るだからね?」

 ベッドで寝転がってるだけはダメらしい。なんとも残念なお話だ。
 アールはベッドに散らかった石をかき集めて籠を取り出すとそれに無造作にしまった。一応宝石と言う部類なはずなのたが……。

「コンッ、コンッ。……絶対にプリン?」
「さぁ? 最近のクリスは悪い子だからなぁ……。悪化させてるしなぁ」
「……寝る……」
「うん、お休み。クリス……」

 アール、お前もか。大人はなぜ寝かしつけるのが得意なのか……。
 お腹をポンポン……。一定のリズムだと安心するなぁ……なんて思いながら瞼を閉じた。

 ご褒美は少し大きめのプリンで、アールに「薬飲めたね~。偉いねぇ~」と、誉められながらプリンを食べさせられた。
 一人でマイペースに味わいながら食べたい……。





「コンッ、コンッ……。うーむ、通路をもう少し広めに取った方が……。もし貴族の馬車に傷つけたら面倒くさい……。やれ、賠償金とかうるさいぞ? コンッ、コンッ……。すまぬ。……じゃからな? 何事もなく終えることを想定した方が良いのじゃよ……」
「それはそうなのですが……。しかしそうすると馬車を停める数が大幅に少なくなりますよ?」
「客が領の宿屋に宿泊するのならばそのまま予定の宿屋に馬車を停めさせればよかろう? もし泊まる予定でまだ決まっていないならば宿の空室がなくなる前に決めた方が良い旨を伝えるとか、宿屋の場所を教える係りも必要なのじゃろうか……。それとも宿屋の従業員を集めておく案内所も設置するか? 便利は正義!」

 領館の側にある広場に雨具を着て、傘を持った妾は久しぶりの外を楽しんでいた。
 楽しんでいるついでに駐車場の担当者と現場で話し合いをする。

「確かにそれもそうですね。では、メンバーを集めて改めて会議しますね? あぁ、でも宿の方へ停めさせるとなると馬車が往来するので混雑が想定されるフェスティバル中は危険ではないですか?」

 担当者はつい最近出来上がった精密な地図を見つめ始めた。








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