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閑話・今は昔……
別れと出会い
しおりを挟む「フローライト。断ってもいいのだぞ?」
「そうだぞ? あそこは何もない土地だというではないか!」
何故だか兄と父に引き留められている。
「んー? いや、リアちゃんがちゃんと理解しているのかわからないけど、逆に何もないと聞いてから物凄く乗り気なんだよね……。可愛いから行こうかなって」
親バカは無理だと切り捨てて、皆は人族で言う4~5歳の知能を持つ赤子をなんとも言えない顔で見つめていた。
「う? じぃい? おぉたん?」
「リアちゃん。ここにいていいんだよ?」
「やぁ! 行きゅ!」
滑舌の悪いこの子は閏日に生まれた子で、成長が4倍必要なのだ。
普通に生まれていれば26年なので人族の4~5歳にあたるため、本来は学校に入る前に手習いでも始めようかという年齢なのだが……。
リアちゃんことクリスタリアは現在、人族の1歳の姿をしている。
「でも何もないところだよ? 住めるようになるかもわからない」
「やぁ~っ! いきゅ~っ!!」
小さな体で抱えている本は遥か昔の開拓時代を分かりやすく書いた冒険絵本だった。
その瞬間、部屋にいる人は「あぁ、開拓時代に憧れを抱いてしまっている……」と、諦めの目で見つめていた。
何故「断る」「行く」などの言葉が飛び交っているのかというと、今いる国。
魔人族の国、シルヴァーニャ王国と隣接する3国にはいざこざの耐えない場所がある。
その場所からそれぞれ同じ広さの土地を出しあって新たな国を作ってはどうかと言う案があり、移住する種族を厳選した結果。
魔人族からは比較的温厚とされる吸血鬼族、ドラゴニア(龍人)族、リザードマン(竜人)族、淫魔族。
選ばれなかった種族からは反発があったものの、王が「命を懸けて他の種族と争わず、手を取り合えるのなら考えるよ?」と言うと、争わないというのはやはり自信がないなのか、命は大事と大人しくなっていった。
そう、温厚な種族が選ばれたのには他の3国の種族と手を取り合って新しい国を守り立てていかねばならないのだ。
争っては新しい国を作った意味がない。
そして国の王は4国の王がローテーション。
つまりは王、宰相、大臣二人を順番で切り盛りするという、見切り発車なのか画期的な提案なのかわからないものの、それ以外に決まったのは移住する一族の地位である。
一応、貴族なのだがシルヴァーニャ王国では吸血鬼は公爵。龍人族は侯爵。竜人族と淫魔族は伯爵である。
一方、新しい国では公爵はないので能力として龍人族が侯爵。吸血鬼族はただの伯爵では惜しいとのことで辺境伯。竜人族と淫魔族は伯爵である。
ここまでは別に父も兄も反対はしないのだ。
問題は辺境伯の場所で、一度見に行ったが到底人が住めそうにはない。
「フローライト? 行くのは構わないけれどマリーさんとリアちゃんを連れていくのは難しくないかしら……。まだ何もないのでしょう?」
「うーん、とりあえず急ピッチではありますが住む家と手伝ってくれる者達の小さな集落はできたそうなのです」
「ばぁ、だーじょ!」
「……見ての通り、領主の妻の教育で実家でお留守番のマリーは別として、誰よりもリアちゃんがノリノリなんです」
楽しそうな笑顔の為に皆は口をつぐみ始めた。
翌日、クリスタリアは真っ黒な厚手のマントにくるまれ、大きな鍔の帽子を被り、フローライトに抱っこされていた。
「リアちゃん、嫌になったら帰ってきていいのですよ?」
「あぁい!」
よくわかってないらしく、手を振っていた。
……いや、理解していたからバイバイしていたのかもしれない。
馬車に乗り込むと見えなくなった途端に残された家族は泣き崩れた。
「うちの天使がぁ~っ!!」
「……姪っ子がぁ~っ! ……よし、王様を仕事漬けにしてワーカーホリックにしてやろう!」
「うむ……。よし、ワシも手伝ってやろう」
公爵家から不穏な空気が充満し、その頃、城で仕事をしていた国王はよくわからない寒気に襲われていたとかいないとか……。
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