吸血鬼領主～体は子供体型でも妾、大人じゃもん！～

今日は何の日

１

「…………死ぬ……。妾、このまま憤死するかも……。確実にぷつーんっとキレてそのまま憤死するかもしれん……」

　クリスタリアは領地運営の書類ではない仕事とは無関係の紙類に埋もれていた。

「何故１年かそこらでこんなに日々の塵積も……。苦情と言う名の愚痴、いや報告。いや愚痴が集まるのだ……」

　頭を抱えながら目についた紙を手に取る。


　報告）何度申し上げても肉しか食べていただけません！


　……てか、野菜嫌いとか本気まじでどうでも良いわっ!!


「…………なんか毎年毎年この時期は同じことを何度も言うが、律儀に読んでる妾がほんとにアホらしくなってきたな……」

　ポイっと空中に放るとヒラヒラと舞いながら落ちてきた。

　乱雑に床に広げた紙の絨毯に寝転がる。
　何故か年々増えている気がする紙の量にため息をつきつつも１枚手に取り、寝転んだまま読む。

「だぁーーっ!!　だから、お昼はお菓子しか食べないとか本気まじでどうでも良いわっ!!」

　愚痴と言うか小さなものまで報告してくる内容に突っ込みをついつい入れてしまうので長時間に渡ればさすがに疲れる。自然と眠りにつくのだった。






「……ん？　……あれ？　ベッド……？　たしか、妾は床で寝ていたような……」

　ベッドから下りると日に当たらないように衣装部屋を改造したベッドルームに分けるカーテンを開くと何故かいるはずのないリュウファファミリーが報告書と言う愚痴を仕分けていた。

「……アール？」
「ん？　あ、クリス。目が覚めたの？　もぉ……ビックリしたんだよ？　息子からクリスが床で死んだように寝てるって……」
「あー、すまなかったの……。秘書もありがとうなのじゃよ……。……それで？　皆様勢揃いでいったい何を……」

　首をかしげるとアールの奥方達はクスクスと笑っていた。
　白魚のような手にはあの突っ込みどころ満載の紙類を持って……。
　強いて言えばその報告と言うか愚痴の内容を知られるのは妾としては恥ずかしいと言うか……。
　でもツッコミしなくて済むならその方が楽で良いのかもしれない……。
　いや、でも知られたくなかったような……。

「そうねぇ……。リアちゃんに相談と報告。そのついでのお手紙の仕分け作業かしらね……」
「あー、お手伝いありがとうございます……なのじゃ」

　ペコリと頭を深めに下げてお礼を言うと何故かアールに抱っこされた。

「…………ま、いっか……」
「え、クリスタリア様？　良いんですか？　いつもなら離せー！　とか結構激しくジタバタしてるじゃないですか」
「…………いや、今は憤死回避と野垂れ寝しなくて済んだ礼のつもりで大人しくしていようかと？」

　そう言って赤ん坊の頃のようにおとなしーくしていたが、ふと首をかしげた。
　何故秘書はこちらをじっと見つめているのだろうか……。

　妾、何かしたっけ？

　不思議そうに見ていれば何か拗ねられた。

「…………そう言えばクリスタリア様はいつになったら私の名前を覚えてくれるのですか？」
「いや、ほら、エルフって変な風習あるじゃろ？　真の名前は番というか、運命の人以外には隠すとかなんとか……。偽名というか、セカンドネームと思ったら実は真名でした～っとか言われたら怖いじゃろ？　たしか意図せず知ってしまった場合でも結婚してずっと一緒に居ないといけんのじゃろ？　妾、それが怖くての…………。ハニートラップ的な？」

　その瞬間、何故か皆一様にリュウファ家の大黒柱のお父さん。
　ルノアール・リュウファをジーッと無言のまま見つめている。
　思わず妾もアールを見つめるとリュウファファミリーが目だけで会話をしているようだった。

　それともエルフは念話が出来るのじゃろか……。
　そうなのだとしたら是非とも教えて欲し……くない！

　使えるようになったらもしかしたら父上達からの念話が毎日届いてしまう！
　それは、ソレだけは絶対に回避せねばならん！
　妾は子供の体じゃから睡眠時間。それと領主の仕事の時間は大事！
　それに面倒事はゴメンじゃよ！　いや本気まじで……。