上 下
46 / 57

ルカの脳内に居る人達

しおりを挟む

「辞書る。ちょっとルカが現実逃避し始めたですノヨ」
「ん? ルカの現実逃避ならいつもの事でしょ? そんな慌てることはないって……」

 書類を見ながら話しているとキュキュがドォーンとやっと机の天板が見えたその場所に紙の山をおいた。………………だぁ~っ! なんでこんなに仕事が滞ってんだよ! 毎日毎日、毎日毎日! 本の活字ならどんなに良いことか……。書類の活字なんて誰も求めちゃいないんだよ!

 えーっと? それでキュキュの訴えはルカの現実逃避だっけ?

 俺はとりあえず立ち上がり、ルカの淹れてくれたコーヒーを複製したものを手にしてまた席へ戻るとルカの脳内にリンクするヘッドセットを身に付けた。


   ◆


《ルカ、本当に大丈夫なのかい? もっと違う場所でも……》

 えっと? この声はルカの義理のパパだったっけ? 何が大丈夫なの? うんと? 何が起きたの? マップルを呼ぶとルカの現在地がわかったので思わず頭を抱えてしまったのは仕方ない。確かに、確かにね? ミドリがストレスでポキッと折れそうだと寝起きのルカに伝えたよ? 伝えたけどさ、しかもルカとの通信を切ってからの短時間でどうしてオークの巨大化したコロニーに到着してんのよ!

 ちょっと! ミドリ? ミドリさんっ? 説明求む!

 ミドリに経緯を聞いたらルカがお散歩中のオークを見つけて、自分を鞘から抜いたからそのまま走って追いかけたんだよ~♪ 超楽しかったぁ~♪ といつになくキャピキャピしていた。

【ライターあるけどパパがじっと見つめてるから無理だよね。だって火の属性の人の尊厳がなくなっちゃう! 火を出せることが自慢って言う小さな器を破壊することだもんね──】

 ライター? あぁ、ルカを引き殺したやつの私物の一つだっけ? ……あぁっ! もぉ! イライラする。勝手にルカの住んでた世界というか国の司法に介入したい……。交通事故&殺人したんだから死刑でよくない? 的な? そんなことを思っていたらルカの独り言はまだまだ続いていた。そもそも途中から話を聞いてるから状況がよくわかんないや……。でも釘は刺してあげないとだよね?

「でもね、ルカ? 火を出せることが自慢の器の小さい人間ってキッパリ言うのはやめなさいね? それ、その世界で言ったら殺される案件なんだからね?」

 …………おいおい、忠告を無視かよ! でも負けない!
 
【パパは風があるし、俺のやっちゃったイメージで新たに作ってしまったらしいヒーターとかあるけど……】
「いやいや、ルカ? 火の属性はさ? 戦うための魔法だからね……。君のやってることは常識外れなんだからね? 自尊心の破壊はやめなよ? 特に──」
【うん、火しか属性ない人のプライドがね……。って、話が反れちゃったかぁ……。えっと、辞書るさぁ? さっきから何が言いたいのさ……。小言?】

 はぁ、俺だって小言を言いたくなんかないのよ? これも理解してくれませんかね……。

「とりあえずさっきから放置してるパパの言葉に反応してあげて? 可哀想だから!」
【うん、まぁ、確かに?】

 そしてルカはまだまだ脳内で色々話していた。

 オークのコロニー目の前だもんね。
 A.あぁ、確かに巨大化したコロニーのアジトの前ですね。

 オークは殲滅というか、全滅したとは言えど犠牲になった女性達の墓の前。しかも俺が大泣きした原因が眠るであろう場所なのだから──

 A.はぁ!? ルカ、泣いたの? ねぇ、泣いたの? 俺のルカを泣かせた……? よし、オークは消滅決定で!

「ぎゃー! ちょっ! 辞書る、変な採決しないでほしいですノヨ!! あれは質の良いほぼ豚肉なんですノヨ!?」

 キュキュによってオークを消滅させる書類を奪われた。ちっ、残念……。

 違う場所に移動した方が精神衛生上は良いかもしれないよねぇ~……。彼女達はきっとグレン兄さんとゼツさんが苦しみから解き放つために殺──ううん、手に掛けているとしてもそれはこの世界のルールなんだと思う。それはどんなに苦しくても、悲しくても受け入れなきゃいけないことだと思う。
 A.あぁ、なるほどね。コロニーの中に人間を連れ込んで子作りというか牧場を作ってたのか……。最悪だな、あの豚共……。やっぱり消滅させよう……。

「たから、質の良いほぼ豚肉だって言ってるんですノヨ! やめろやー!」

 ……またしても奪われた。ちっ……。

 だって現代とは違って女性の社会進出なんてものは認められていないし、王や貴族の社会で平民の女性なんて下の下。貴族の女性だって自由なんかたぶん無い。家と家を繋ぐために嫁入りし、子供を産めばもう用はないんじゃないかと思ってしまうのは仕方ない。ココはそんな世界設定なのだから──。
 A.あぁ、それはその通りだよね。女は家に入るものって文化は覆らないよね……。もう少し時代が進まない限りは無理かもなぁ……。

 なら彼女たちへの供養のためにも美味しい料理をお供えしたいではないか。まぁ、オークの焼き肉しか出来ないのは皮肉でしかないけども……。
 A.あー、大きなお墓にしちゃったんだね? ……でもお供え物は彼女達を苦しめたほぼ豚肉なわけね?

 そこら辺がなんともルカらしいというか……。可愛いらしいと言うか……。そんなことを思いながら書類を見ていると組立隊の隊長が何かを持ってバタバタと走ってやってきた。

「オークの皮がなめし革になったゼヨ! うちの小飼達が一点止めのマントに加工したゼヨ! 凄かろ? 凄かろ?」
「あー、緑のきれいな(……というか無印オークの)なめし革だねー……」

 ルカが使うのならやっぱりオークの王さまの薄ピンクが似合うと思うんだよねぇ~……。可愛いと思うんだよね~……。

「オークの王さまの皮、欲しいなぁ……。ルカ、絶対身に付けたら可愛いのに……」
「そのオークの王さまの皮ならさっき剥いだので今は乾燥させてるところだゼヨ。使えるようになったらちゃんとあの子様に作るゼヨ!」

 サムズアップされちゃったよ……てか、王さまの皮を手にいれたのね? そして彼女(隊長)は辞書るの好みのデザインで服を作ってあげようか? と、ニヤニヤされたが「じゃぁ、その時は宜しく」と言っておいた。でも俺とルカが出会うとしたらルカが現実を捨てて深層世界に逃げ込むか、時期が来ないと難しいかもなぁ~……。服だけをプレゼントするのは出来るよ? 出来るけどさ、好きな人に服をプレゼントってソレは脱がせたいからじゃん? 俺の送った服を着てあの大好きなお兄さん二人組に脱がされるのはマジ勘弁っ感じ? そんなことを悶々と思っていたら遠くで隊長とキュキュがニヤニヤしている。

【……あ! ローストポーク? ポーク? ……えと、ローストオーク? 作ってみようかな……。いや、角煮? それともチャーシュー? どれも捨てがたいよねっ!? うーん、青空焼き肉……じゃなかった。焼き終えてから食べるからバーベキューか……。うんうん、バーベキューだ! でも肉だけだとやっぱり味気ないし、スープも作ろうかな! この寒空だから体もポカポカするトロリとしたシチュー系! コンポタとか? それともカボチャ? 普通にシチュー? ビーフシ…………ポー──オークシチュー……とか? いやいや、オークの肉ならほぼ豚だし白い方が絶対に美味しいよね! よし、残ったら保存できるし、多目に作っちゃおう♪】

 おぉ、色々考えてたらルカが凄いマシンガンのような脳内独り言を言っていた。何て言うかルカはオークの取り扱いに困ってるんじゃないのか?

「ローストオークの作り方……え? 角煮──じゃなくて、コン……カボ……でもなくてホワイトシチューに変更? ルカ、早く! 早く私を呼ぶですノヨ! うおーっ! 燃えてきたぁ~っ!」

 キュキュ、うるさい! マジうるさい! 料理の講師が久しぶりだからって張り切りすぎなんだよ、お前! ちっ、もう少し俺の中で可愛いルカを堪能したかったなぁ……。

 残念だ──。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

異世界の親が過保護過ぎて最強

みやび
ファンタジー
ある日、突然転生の為に呼び出された男。 しかし、異世界転生前に神様と喧嘩した結果、死地に送られる。 魔物に襲われそうな所を白銀の狼に助けられたが、意思の伝達があまり上手く出来なかった。 狼に拾われた先では、里ならではの子育てをする過保護な里親に振り回される日々。 男はこの状況で生き延びることができるのか───? 大人になった先に待ち受ける彼の未来は────。 ☆ 第1話~第7話 赤ん坊時代 第8話~第25話 少年時代 第26話~第?話 成人時代 ☆ webで投稿している小説を読んでくださった方が登場人物を描いて下さいました! 本当にありがとうございます!!! そして、ご本人から小説への掲載許可を頂きました(≧▽≦) ♡Thanks♡ イラスト→@ゆお様 あらすじが分かりにくくてごめんなさいっ! ネタバレにならない程度のあらすじってどーしたらいいの…… 読んで貰えると嬉しいです!

傾国の美青年

春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

処理中です...